人生100時代の設計 公的年金ベースに自助努力をプラス
Dr.マネーお悩み外来 Vol.17

お金の悩みは千差万別。でもご安心ください。解決策は必ずあります。「Dr.マネーお悩み外来」では、あなたが上手にお金と付き合って、より豊かな人生が送れるようお手伝いいたします。
Kさん とても勉強になるセミナーでしたが「老後不安を解決する方法」として最後に紹介されたのは保険商品でした。保険料が高いので買うべきかどうか迷っています。
白鳥 長い人生には予期せぬことが起こる可能性があります。個人の生活で起こりうるリスクに備えるのが「保険」です。
一方、将来予測できる支出、言い換えれば人生設計に組み込まれている、例えば子供の教育費やある程度の老後資金などは計画的に準備していくものです。これらの資金を私的保険でカバーしようとすると、保険料が高くなってしまい合理的ではありません。
Kさんが違和感を持たれたのはこの点ですね。講師の方はアドバイザーではなく販売員だったのでしょう。受講者に保険を買ってもらうことがセミナーの目的だったのかもしれません。
30歳の女性が100歳まで生きる確率は20%
Kさん夫婦のような若い世代が「年金はもらえない」などという誤った情報におびえて、資産運用をしたいとご相談に来るケースは増えています。「長生きリスク」という言葉もよく聞くようになりましたが、いつまで生きるかわからないので経済的に心配ということですね。
Kさんたち世代(1990年生まれ)が90歳まで生存する確率は、男性が44%、女性は69%です。100歳まで女性が生きる確率は20%、5人に1人だそうです(厚生労働省の「完全生命表」「簡易生命表」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(2017年推計)」より試算)。
「長生きリスク」は確かに存在します。それをヘッジするため、ベースに考えるべきなのは公的年金です。公的年金制度は「保険」です。何歳まで生きようが、亡くなるまで年金が受け取れます。「公的年金保険」は、自分だけでは準備しきれないことを社会全体で支え合い備えていく制度です。
一方、民間の「個人年金保険」などは保険という名前ですが、「貯蓄」です。自分で積み立てたものを一括または10年間などの期間で受け取ります。
実は、資産形成を考えるときには「生活の基盤となる公的年金を正しく理解すること」がまず大切です。逆にいえば、老後のお金の計画は、大きな保険である「公的年金」をビルトイン、つまりある程度あてにして考えなければ難しくなります。仮に、老後の生活水準を現役時代の7割程度に下げるとしても、公的年金がなければ、貯蓄率を相当上げなければ難しいでしょう。
公的年金は少子高齢化を見据えて、将来にわたって制度を維持できるように制度がつくられていますので、年金がもらえなくなるということは絶対にありませんから、まずは安心してください。
年金の給付水準は自動的に調整
公的年金制度は、現役世代が納めた保険料がそのときの年金受給者への支払いに充てられる賦課方式です。保険料と基礎年金の2分の1の国庫負担を財源の中心とし、保険料の一部は積立金として運用し、将来の給付に充てることができるようになっています。
若い世代も将来一定以上の年金が受け取れ、不利益を被らないように、保険料が固定された上で給付水準が自動的に調整される仕組みです。
賦課方式であるため、将来の商品やサービスを買う力を損なわないというのも重要なポイントです。将来物価がどのくらい上昇しているかはわかりませんが、物価が上がっているのに受給金額が変わらないと生活が苦しくなります。公的年金は、物価が上がったときは一般的には賃金も上昇し、物価上昇に連動して年金額も増えることにもなるので、購買力を維持することができるのです。
積立方式である民間の個人年金保険は、将来受け取る額を契約時に約束します。これから30年間保険料を払い続けたとしても、インフレによってその価値が大幅に減少してしまうかもしれません。
公的年金は、給付と負担のバランスを長期的に確保するため、今後も調整が続けられます。それにより、例えば、現役世代は新型スマートフォンが買えるけれど、年金を中心に生活している世代は1つ型落ちくらいのスマホでよしとしようというような生活になるかもしれません。それをカバーするために自助努力で「貯蓄」をするのです。
でも、年金は増やしていくこともできます。
夫婦で長く働き年金増へ
Kさんの親の世代は夫は「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」、妻は「老齢基礎年金」だけというケースが多いかもしれません。一般的に使われているモデル年金額(夫が厚生年金に加入して男性の平均的な賃金で40年間就業し、その配偶者が40年間専業主婦であった夫婦に給付される夫婦2人の基礎年金と夫の厚生年金の合計額)は約22万円です。
ちなみに「国民生活基礎調査」(2019年)によると、高齢者世帯の約5割は公的年金だけで生活しています。また、高齢者世帯の所得(平均312.6万円)において公的年金等の占める割合は63.6%です。
Kさんのような会社員夫婦の場合はともに「老齢基礎年金」と「老齢厚生年金」を受け取れますので、モデル年金額より多い金額が期待できます。
これから夫婦で長く働き続けることによって、受け取る年金額も増えていきます。公的年金保険は働けば働くほどメリットがあるように制度設計されています。毎月保険料を納めることで、給付を受ける「権利」を得ているとイメージしておいてください。老後をより豊かにするには、賃金を上げながら長く働くことです。出産育児をすることになっても仕事をやめないで続けてくださいね。経済成長に伴う賃金上昇、就業者の増加や厚生年金の適用拡大等により、年金制度もより安定することになり、給付も充実します。

「年金を受け取り始める年齢は自由に選べる」ということも知っておきましょう。今の法律では、公的年金の支給開始年齢は65歳です。受け取り開始を65歳よりも遅くすることで(繰り下げる)、1カ月ごとに0.7%増やすことができ、死ぬまで一生受け取ることができます。ライフプランに合わせて受け取り時期を決めるといいですね。
最後に、国庫負担も入っている公的年金保険は、老齢年金を生涯受け取れるだけでなく、けがや病気(障害年金)、死亡(遺族年金)もカバーされます。
民間の保険はこれら公的年金保険制度を知った上で、自助努力として加入するとよいでしょう。私的保険料は収入から社会保険料や税金を支払ったあとの手取り収入から支払います。大きすぎると自由に使えるお金は減りますね。バランスが大事です。
今後、様々な出費もありますから貯蓄は必要です。ライフプランにそった「お金の人生設計」を立て、確定拠出年金やつみたてNISA(少額投資非課税制度)などを活用してゆっくりコツコツ資産形成をしていきましょう。
今日の処方箋です。
・「お金の計画」は公的年金保険をベースにして考えましょう。
・「長く働いて受け取れる公的年金をなるべく増やす」と「自助努力で資産形成をする」は両輪で。
ではまた2週間後に。

本日もお金の悩みを抱えた若者が「白鳥FP事務所」のドアをたたく……。ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏がマネーリテラシーの向上のために様々なお金の問題を取り上げ、対話形式でわかりやすく解説します。隔週火曜日に掲載します。