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不動産賃貸事業で失敗するワケ キャッシュフローを知る

20代からのマイホーム考(29)

前回のコラムでは、15年から20年前に相続対策を目的として取得(または建築)した賃貸物件の経営が苦しくなってしまう2つ目の主な理由として、中長期的な修繕計画を収支計画に反映させなかったことを挙げました。今回は、最終回として賃貸事業におけるキャッシュフローの特徴を知らなかったために失敗した例を紹介します。

キャッシュフローの構造を知ろう

新築後15年以上の期間が経過すると「手元に残るお金が以前よりも少なくなった気がする」と感じる人が多いのではないでしょうか。周囲に新築賃貸物件が供給されたことによる賃料下落や空室の影響もあるかもしれませんが、実は、借入金による不動産賃貸事業には、時間の経過とともに税金が増えて、最終手取りが少なくなってしまうという逃れられない構造が潜んでいるのです。

この構造を知るためには、賃貸不動産における最終手取り額の計算方法を理解する必要があります。最終手取り額は、左下の表のように、賃料収入から運営コスト(管理委託費、建物管理費、修繕費、固定資産税・都市計画税、水光熱費、保険料など)、金利、元本返済額、税金を差し引いて計算します。税金は右下の表のように、賃料収入から運営コスト、金利、減価償却費を差し引いた税引き前損益に税率をかけて算出します。最終手取り額の計算には元本返済が含まれますが、減価償却費が含まれず、税金計算ではその逆になっていることに注意してください。

時間の経過とともに税金が増える理由

税金計算では減価償却費という実際には支出を伴わない費用の計上が許されています。支出を伴わないため減価償却費は最終手取り額の計算には表れません。この減価償却費は、一般に建物の設備に関して15年程度で償却期間を終えてしまいます。つまり、16年目以降は新たに設備投資をしない限り、設備の減価償却費が計上できないということになります。上の表で言えば、15という金額が0になりますので、その分、税金が増えることになります。

また、借入金の返済方法は、元利均等返済であることが多く、この場合、毎月の元本返済額と金利支払いの合計額は金利が変わらない限り返済期間中ずっと同じ金額になります。しかし、当初は金利支払いの割合が大きく、時間の経過とともに元本返済の割合が大きくなる仕組みになっています。

ここで、税金の計算例を再度見てみましょう。賃料収入から差し引く項目に金利があります。これが年々少なくなれば、税金は年々増えることになります。このように、設備の減価償却が15年で終了することと、元利均等返済の場合、金利支払いが年々減少することが時間の経過とともに税金が増えるという構造をもたらしているのです。

赤字になっているケースも

相続対策を目的としていることから、借入金額が過大になっている場合、返済額が多いために16年目以降から最終手取り額が赤字に転落してしまうケースもあります。ですから、新築アパート建築や賃貸物件取得の検討段階から、長期の収支計画と最終手取り額の推移のシミュレーションをしておく必要があります。

借り入れによる賃貸経営は、時間の経過とともに税金が増えて最終手取り額が減少する仕組みとなっています。それに加え、時間の経過とともに賃料は下落し、空室率は上昇する傾向があります。さらに15年から20年目には大がかりな修繕費用が発生します。これを上手に乗り越えるためには、当初15年間で得られる最終手取り額を使い切らずに、競争力を維持向上するための設備投資に回し、15年目以降でも税額が増えないように設備の減価償却費を一定水準計上できるよう上手にコントロールする必要があるのです。

賃貸事業は、建てて終わり、買って終わりではなく、賃貸マーケットをよく見極めながら上手に運営していくまさに「経営」が必要なのだと思います。

田中歩(たなか・あゆみ)
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。

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住宅資金は老後資金、教育資金と並ぶ人生三大資金です。20代、30代から考えたい「失敗しないマイホーム選び」について不動産コンサルタントの田中歩氏が解説します。隔週月曜日に掲載します。

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