価格上昇続くか 東京23区の中古マンション
20代からのマイホーム考(16)

2020年の東京23区の中古マンション価格は、コロナ禍にあっても大きな価格下落は発生せず、いったん緊急事態宣言が解除されてから年末にかけて上昇傾向が顕著となりました。今年はどのような価格動向となるのでしょうか。
20年6月以降、価格は上昇傾向に
グラフは、公益財団法人東日本不動産流通機構に登録された06年以降の23区の中古マンション成約データを利用し価格指数として表したものです。価格指数は、成約したマンションの品質(築年数や駅からの距離、所在階等の属性など)を調整しており、06年1月の水準を1としています。

08年から09年の国際的な金融危機を経て、12年末の政権交代以降、中古マンション価格は右肩上がりが続きました。昨年発生した新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)に伴い緊急事態宣言が発せられた時期は横ばいとなりましたが、6月以降は再び上昇傾向が鮮明となりました。
高まる価格上昇期待
在庫件数は19年末ころから減少していますが、在庫件数が増加しても価格が上昇していた時期もありますので、在庫件数の減少だけでは価格上昇の説明がつかないと思われます。
そこで、不動産投資で用いられる以下の算式を使って中古マンション価格動向について考えてみることにしました。
= 賃料 ÷(安全利子率 + 期待する上乗せ利回り - 賃料の期待成長率)
賃料を「期待利回り」で割ったものが不動産価格になることはよく知られていますが、ここでは「期待利回り」を3つに分解しています。「期待利回り」は、国債利回りなどのようにリスクのない「安全利子率」、不動産投資を行う際に「期待する上乗せ利回り」、「賃料の期待成長率」で構成されます。金利が低下する、期待する上乗せ利回りが下がる、今後の賃料上昇が期待できるという場合には不動産価格は上昇します。
昨年の安全利子率(10年国債の利回り)は、ほぼマイナスから0の間で横ばいでした。また、東日本不動産流通機構の公表データによると23区のマンション賃料は昨年1年間はほぼ横ばいで、所得が増えるという期待(賃料が上昇するという期待)ができた1年ではありませんでした。ですから、安全利子率と賃料の期待成長率が中古マンション価格に影響したということはなさそうです。
算式から得られる答えは、期待する上乗せ利回りが下がったということです。期待する上乗せ利回りが下がるということは、不動産価格が上昇するという期待が高まっているということを意味します。
背景に日銀の資金供給
不動産価格が上昇するという期待がなぜ高まるのでしょうか。筆者は、日銀による莫大な資金供給による資産価格の上昇が影響していると考えています。新型コロナウイルス対応による資金供給で日銀の資産は膨らんでいるようです。日銀は5日、20年12月末の資産が702兆円となったと発表しました。1年前に比べ129兆円増、伸び率は23%です。
一般に市中のお金が増えれば株式や債券、不動産といった資産価格は上昇します。今回のコロナ禍で、資金供給を縮小させることは考えにくく、中古マンション価格の上昇期待が高まりやすい状況にあると考えられます。
また、13年以降の金融緩和に伴う価格上昇トレンドが7年間続いてきたこともあり、このトレンドが続くという心理が価格上昇期待となって人々に根付いていることも影響しているでしょう。
今年1年が昨年のような状況で進むのであれば、トレンドは変わらないと筆者は考えます。しかし問題はこのトレンドがいつまで続くかです。永続することはないと思いますが、経済的・社会的に大きなインパクト、例えば通貨の信認が得られなくなる、感染爆発が経済に壊滅的な打撃を与えるといった大きな事象が発生すればトレンドが変わる可能性があります。残念ながら、それがいつ起こるのかは誰にも分からないのです。
