相続時精算課税が改正 実家の贈与に活用しやすく
20代からのマイホーム考(67)

2023年度税制改正大綱が22年12月23日に閣議決定され、「相続時精算課税制度」にも改正がありました。相続時精算課税制度は親の介護に備えた実家の所有権の生前贈与など、利用されるケースがこのところ増えています。今回はこの制度の概要と改正内容、注意点についてお話しします。
生前贈与で資産移転を後押し
相続時精算課税制度は生前贈与の方法の一つです。通常の生前贈与(暦年贈与)は、年間110万円の基礎控除額を超える分に税率を乗じて課税されます。税率は10~55%で贈与額が大きくなると税率も上がります。
相続時精算課税制度は父母や祖父母など同一人物からの生前贈与額が合計2500万円に達するまで贈与税がかからず、超えた部分には税率20%が課される制度です。子世代へ早めに資産を移転し消費や投資に回してほしいという国の意向が背景にあると考えられています。贈与する側である「贈与者」と受け取る側の「受贈者」の関係や年齢に制限があり、一度選択すると以後の同一人物からの贈与はすべてこの制度の対象となります。贈与されたすべての財産は相続時に、相続税の「課税価格」(課税対象となる資産の価格)に加算されます。ですから贈与時に課税されなくても、相続時には相続税が課される仕組みになっています。
改正で節税効果拡大も
今回の改正のポイントはどこにあるのでしょうか。税理士法人アイアセットの石井力氏によると、「相続時精算課税制度を適用している人がその年分の贈与税の計算をするとき、課税価格から基礎控除110万円を控除することができるようになる。この控除された部分については、相続時精算課税制度を利用して贈与をした人が亡くなった際の相続税の課税価格にも算入されない」とのことでした。改正のポイントを理解するため、一括と分割で贈与した場合の比較をみてみましょう。
例えば3000万円の現金をこの制度を使って1回で贈与すると、贈与税額は390万円(3000万円-2500万円-110万円)の20%相当額、つまり78万円です。そして贈与者が亡くなり相続が発生した場合、2890万円(3000万円-110万円)が相続税の課税価格に加算されることになります。一方、同じ3000万円を5年間にわたり年600万円ずつ贈与すると、控除後の課税価格は2450万円(3000万円-110万円×5年)と2500万円以下ですから贈与税はかかりません。相続税に加算される課税価格も2450万円(3000万円-110万円×5年)となり、一括で贈与するよりも節税効果が大きくなりそうです。
石井氏は「改正された制度の詳細が明らかになるまでは何とも言えないが、110万円の控除新設に加え、ルールが『贈与が少額でも申告が必要かつ相続財産に加算しなければならない』から『110万円までなら申告不要で贈与税も相続税もかからない』に変わるので、子世代への資産移転という点で納税者にとっては選択の幅が広がり、住宅の贈与においても利用するメリットが大きくなるのではないか」と話しています。
相続時に「特例」使えず
相続時精算課税制度については、筆者も多くの相談を受けています。相談者で多いのは高齢の親の保有資産が自宅のみで、介護施設などを利用することになった際は費用を賄うため自宅の売却を検討せざるを得ないケースです。施設の利用が必要になって売却したくても、判断力が低下した親が所有したままだと自宅を売却できない場合もあります。このような問題を回避するため、相続時精算課税制度を利用して親が元気なうちに子供に実家の所有権を移転しておくことを検討される方が多いのです。
石井氏は「相続時精算課税制度にはメリットもあるが考慮すべきデメリットもある」と言います。例えば相続時に評価額を大きく下げることが許される「小規模宅地の特例」が使えない、相続で取得した場合には課されない不動産取得税がかかる、贈与のほうが相続時に比べて登録免許税が高い、贈与後に住んでいない子供が実家を売却すると所有期間の長短に関係なく譲渡益から最大3000万円控除できる「居住用の3000万円特別控除」が使えない、などが課題となるそうです。相続時精算課税制度を利用する場合、税理士などの専門家にこうした点を相談し検討したうえで判断したほうがよいでしょう。

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