退職金の受け取り方 一時金・年金どちらがお得?
Dr.マネーお悩み外来 Vol.16

お金の悩みは千差万別。でもご安心ください。解決策は必ずあります。「Dr.マネーお悩み外来」ではあなたが悩みを解決し、上手にお金と付き合ってより豊かな人生が送れるようにお手伝いします。
Jさん 退職金の受け取り方は4パターンから選べるようです。①一時金として受け取る②75%を一時金として受け取り、残りは60歳以降10年間年金で受け取る③50%を一時金として、残りは年金で受け取る④全額年金として受け取る――私の場合はどれがお得でしょうか。
白鳥 老後に備えるお金は受け取り方によってかかる税金や社会保険料が変わってきます。今後どのような働き方をするのかも併せて考える必要があります。
一時金として受け取った場合
退職一時金、確定拠出年金(企業型・iDeCo)、確定給付型企業年金、小規模企業共済、中小企業退職共済を「一時金」で受け取った場合は「退職所得控除」の対象になります。退職所得の計算式は次のように計算します。

Jさんの場合は勤続年数が28年ですので、
退職所得:(2000万円-1360万円)×1/2=320万円
国税庁の「退職所得の源泉徴収税額の速算表」から、
住民税: 320万円×10%=32万円
つまり、退職金の手取り額は2000万円-(22万7172円+32万円)=1945万2828円となります。退職所得は他の所得とは分けて単独で課税される分離課税なので、退職金をもらったからといって社会保険料が跳ね上がるということはありません。
全額年金で受け取った場合
次に④全額年金で受け取るケースを考えてみましょう。
確定拠出年金(企業型・iDeCo)、確定給付型企業年金、小規模企業共済、中小企業退職金共済などを分割、年金形式で受け取ると「雑所得」となります。年金収入から「公的年金等控除」を差し引いたものが雑所得です。合計所得が1000万円以下の場合、65歳未満は60万円までは非課税、65歳以上は110万円までは非課税です。
退職金を年金受け取りにすると予定利率1.2%で2480万円になる予定ですので、事務費等の手数料は考えず、10年間の受取年額は額面で248万円とします。
65歳以降に受け取れる公的年金額は、これまでの厚生年金加入分と、今後も国民年金保険料を払い続けるとして、満額になると想定して186万円。公的年金と退職年金を合わせて434万円になります。
他に所得があれば合算します(総合課税)。基本的に所得が増えると税金や社会保険料が増えます。
Jさんの場合、公的年金等の収入金額が多いので、例えば公的年金の受給を70歳まで繰り下げて60代後半の所得を減らし、税金や社会保険料を減らすことも検討するとよいでしょう。例えば公的年金を5年間繰り下げると、70歳までは公的年金はなしとなり、雑所得は138万円になります。実際には他に所得がない場合、基礎控除(48万円)を加えた額まで税金はかかりませんので、課税所得は90万円です。公的年金額は42%増えて約264万円になります。
一時金と年金を組み合わせて受け取る場合
②75%を一時金として受け取り、残りは60歳以降10年間年金で受け取る、③50%を一時金として、残りはやはり70歳までの10年間、年金で受け取る場合は、以下のようになります。

注意点は年金受け取りにすると受取総額は増えますが、その分税金と社会保険料が増えることもあるということです。今後、就職することを考えているなら、厚生年金に加入すれば受け取れる年金額は増えますので、一時金で受け取っておくのがよいかもしれません。人生100年時代に備えるため、厚生年金に入ってなるべく長く働くのは重要な対策です。
終身で受け取れる場合や運用の予定利率が3%以上となると、税金や社会保険料が上がったとしても、年金受け取りの方が有利になる場合もあります。また、住んでいる自治体によって社会保険料や税金は変わってきますので総合的に考えてみてください。
◇ ◇ ◇
きょうの処方箋です。
・退職金を「年金受け取り」にすると受取総額は増えますが、その分税金と社会保険料が増えることもあります。
・どのような働き方をするのかを長期的に考えて、退職金の受け取り方を考えましょう。
ではまた2週間後にお会いしましょう。

本日もお金の悩みを抱えた若者が「白鳥FP事務所」のドアをたたく……。ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏がマネーリテラシーの向上のために様々なお金の問題を取り上げ、対話形式でわかりやすく解説します。隔週火曜日に掲載します。