ハザードマップに記されない空白地帯 浸水履歴の確認を - 日本経済新聞
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ハザードマップに記されない空白地帯 浸水履歴の確認を

20代からのマイホーム考(26)

昨年8月28日から不動産取引時の重要事項説明で、取引対象となる不動産が水害ハザードマップ上のどの位置に所在するかを説明する義務が不動産会社に課されました。それ以前は、不動産取引の前に水害リスクを注意喚起する仕組みがありませんでしたが、これによって水害リスクを事前に確認したうえで、住まいを借りる、購入するといった意思決定ができるようになったわけです。

全地域をカバーしないハザードマップ

しかし、ハザードマップは浸水するリスクがある地域の全てをカバーしているわけではありません。ハザードマップとは、国または都道府県知事が指定・公表した「洪水浸水想定区域」をもとに、市区町村が洪水予報等の伝達方法や避難場所等を記した地図をいいます。しかし、「洪水浸水想定区域」の指定が求められていない都道府県管理の中小河川が約1万9000も存在しており、これらの河川の中には水害のリスクがあるにもかかわらず、ハザードマップに反映されていないという問題があるのです。浸水実績などを公表できている河川は一部しかありませんので、ハザードマップに反映されていない「空白地帯」は安全な地域であると誤認されるケースがあるといわれています。

中小河川の浸水想定区域の指定義務化へ

実際、2019年の台風19号における都道府県管理の決壊河川(67河川)のうち43河川が、「洪水浸水想定区域」の指定が求められていない河川、すなわちハザードマップに記載されない河川だったのです。これを受け、国土交通省は、こうした中小河川についても管理主体である自治体に「洪水浸水想定区域」の指定を義務づける方向で、21年通常国会で水防法の改正法案を提出する考えであると報道されています。これが実現すれば、付近に住宅があるすべての河川流域についてハザードマップに記載されるようになりますが、中小河川の水害リスクが反映されたハザードマップが完成するまでにはまだ時間はかかるはずです。川が近くにあるのにハザードマップに記載がない場合、仮に水害リスクがあったとしてもわからないままという状態がしばらく続くことになります。

中小河川のリスクを調べるには

ハザードマップに中小河川の水害リスクが反映されるまでの間はどうすればよいのでしょうか。中小河川の洪水については、気象庁がホームページで公表している「中小河川の洪水からの避難」という資料が参考になります(https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/expert/index.html)。山間部から中流域にかけて形成される谷底平野を流れる中小河川は、数百年に1度の大雨時には、あっという間に水位が上昇し谷底平野が川のようになってしまうことがあると警鐘を鳴らしています。谷底平野とは、河川の流れによって上流部から運ばれた土砂が堆積し、山地の間を埋めた比較的幅の広い平たんな土地をいいますが、このような地形となっている場所は水害リスクが少なからずあるということになります。

上記のイラストは気象庁が作成したものです。上側は、中上流部における河川の勾配が急で流れが速く水流も強いため、河川が氾濫する前から、川岸が削られて家屋が押し流される様子が描かれています。下側は、幅の狭い谷底平野に水が流れ出し、谷底平野全体が水かさを増した流れの速い川のようになり、家屋が押し流される様子を表しています。

住まい周辺に河川があるにもかかわらず、ハザードマップで浸水する可能性のあるエリアに該当していない場合、このような谷底平野のような地形かどうかという確認を行いつつ、役所で浸水履歴があるかどうかを確認しておくのもよいと思います。役所が中小河川の洪水浸水想定区域の指定作業を進めていれば、何か情報をもらえることもあるかもしれません。また、その地域に代々住んできた地元の方に過去の水害についてヒアリングするのもよいでしょう。

これから雨の多い季節がやってきます。河川が近い場所にお住まいの方、住まいを探している方は、以前に「続発する洪水・浸水 防災サイトで自宅のリスク点検」で説明したハザードマップなどの確認とあわせて、中小河川のリスクについてもチェックしておくとよいと思います。

田中歩(たなか・あゆみ)
1991年三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)入行。企業不動産・相続不動産コンサルティングなどを切り口に不動産売買・活用・ファイナンスなどの業務に17年間従事。その後独立し、「あゆみリアルティーサービス」を設立。不動産・相続コンサルティングを軸にした仲介サービスを提供。2014年11月から個人向け不動産コンサルティング・ホームインスペクションなどのサービスを提供する「さくら事務所」にも参画。

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