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少ない予算でも工夫を凝らし可能性広げる(新井紀子)

マネーの履歴書 国立情報学研究所教授・新井紀子さん

国立情報学研究所(NII)が2011年に始めた研究「ロボットは東大に入れるか」でプロジェクトディレクターを務める、同研究所教授の新井紀子さん。数学者として「東ロボくん」と名付けたAI(人工知能)が大学受験に挑む過程を支援してきた。同プロジェクトには自身の"お金にまつわる感覚"が生きているのだという。

なぜだか分かりませんが子供の頃から、「必要以上にモノを買わず、自分が持っているものを使い尽くすこと」に執着がありました。例えば、読みたい本をあれこれ買うより、手に入った1冊を何度も読んで新しい発見をする、ということが好きでした。 

大学は法学部に進んだが、4年生の時に米国留学。数学を学ぶことを選択した。

大学で初めて数学の魅力に気付き、米イリノイ大学大学院の数学科に留学しました。実は、もともとは数学嫌いだったんです(笑)。ですが大学で、数学の「言語性」に関心を持つようになりました。数学で使う言葉は、約4000年かけて数学者が定義などを決めて成り立っているもの。そのバックグラウンドに魅力を感じたことが、数学への興味につながりました。

米国留学が、「自分のお金の価値観と向き合うきっかけになった」という。
あらい・のりこ 一橋大学法学部、米イリノイ大学数学科卒業。同大大学院を経て、東京工業大学博士(理学)。専門は数理論理学。2011年からAI研究「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクターを務める。

大学寮にはカフェテリアがあるのですが、終業時刻になると、ものすごい量の食べ物を廃棄するのです。スケールの大きい大量生産・大量消費を目の当たりにし、「無駄なくモノを使い尽くしたい」という性格が一層強くなりました。

その頃は、奨学金で生活しなくてはなりませんでした。当時のレートで換算すると、日本円で月8万円ぐらい。その中から家賃、光熱費、食費などの生活費を払っていました。授業料は免除でしたが、勉強に必要な本も高かったので、外食などのぜいたくはできませんでした。

そうした暮らしの中で、「いかに工夫を凝らして今あるだけのお金で生活するか」ということにこだわるようになりました。格安の宿泊施設を使いながら旅をして、貯金もしていました。おかげで今でも、いざとなれば月7万円程度で生きていける自信があります。

「工夫を凝らして少ないお金でやりたいことを実現した」経験は、国立情報学研究所の仕事でも生かされることとなる。

「ロボットは東大に入れるか」は有名なプロジェクトなので、「巨額な研究費用が出ているのだろう」と思っている方も多いようなのですが、最初に割り当てられた研究費用は年3000万円でした。これではとても、やりたいと考えていたような研究はできません。

それでも諦めず、「あるだけのお金で工夫しよう」と考えました。そこで思い立ったのが、産学連携です。例えば英語はNTTコミュニケーション科学基礎研究所に、数学は富士通に研究をお願いする。その代わり「得られた研究データをどう生かしていただくかは自由です」「プロジェクトへの参加が、大きな広告宣伝効果を生みます」ということを提示し、お互いにウィンウィンの関係を目指しました。

最初は、「そんな無謀なプロジェクトにはお金を出せない」ということでどの企業を訪れても門前払い……という感じでしたが、次第にプロジェクトが大きくなり、多くの企業が参加してくれました。

2016年の大学入試センター試験模試では、東ロボくんは偏差値57.1の好成績を残せるまでになった。

AIの読解を研究する過程で、「果たして人間は書かれていることを正確に読めるのか」という疑問が生じました。そこで生まれたのが、「リーディングスキルテスト」で、一般の人の読解力を測るプロジェクトです。

作成した問題は一定数以上が解いてしまうと(問題が普及してしまうため)使えなくなります。その問題はメディアで一般公開することなどを通じて、新たな収益を得ることができるように工夫しています。すると、次の研究に回せるお金が全然違うのです。そこには「モノを無駄なく使い切りたい」という私の性格が生かされています。「今あるお金で工夫して結果を出す、そして持っている資源は最大限活用する」ことが、研究の可能性を広げる鍵となっています。

新井紀子さんのマネーのターニングポイント

●米国留学時代に深めた倹約生活への自信
大学4年生の時の米国留学では、奨学金の月8万円で家賃から食費までを賄って生活し、貯金もしていた。「いざとなれば月7万円で生きていける自信がついた」という。留学時代に自炊を始めてから基本的に三食手作りする。

●低予算でも工夫次第で道が開けると実感した仕事
プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」では当初、与えられた予算は3000万円と小規模だった。「企業との連携で進めることで、目指している研究ができるようになった」(新井さん)。用意できる資金の範囲で工夫することで道を開いてきた。

(大松佳代)

[日経マネー2021年10月号の記事を再構成]

「マネーの履歴書」は、様々な分野の第一線で活躍する人のマネーヒストリーやお金哲学を紹介するコラムです。

日経マネー 2021年10月号 配当生活入門
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/8/20)
価格 : 750円(税込み)
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