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保有株の売り時を判定する 3つのパターンを学ぶ

ろくすけさんの勝てる株式投資入門(18)

株式投資で3億円を超える資産を築き、アーリーリタイアしたブロガーのろくすけさん(ハンドルネーム)。会社員投資家の夢を実現した実在のスゴ腕投資家が、会話形式のフィクションストーリーを通して、株式投資の取り組み方やノウハウをやさしく解説していきます。
●ろくすけ 実在する本連載の著者。人気ブログ「ろくすけの長期投資の旅」を運営(容姿は本人と変えています)。
●ゴロー 大学院を修了後、化学メーカーに就職して1年目の青年。旅先で出会ったろくすけさんに師事するという設定。
●ナナコ ゴローの妹。大学で経営学を専攻している。兄と一緒にろくすけさんに株式投資の基本を学ぶという役どころ。

株価の水準を判定するモノサシになる目標株価。ゴローとナナコは、理論的に妥当なPER(株価収益率)を算出して、それを使って目標株価を計算する方法を教わりました。今回は、目標株価を利用して保有株の売り時を判断する方法を学びます(前回はこちら)。

ろくすけ 今回は株の売り時の判断について考える。株式投資では株の買い時よりも売り時の判断の方が格段に難しい。保有株を売却することで投資の損益が確定するからだ。例えば、保有株を売った後に株価が大きく上昇したら、ゴロー君はどう感じるかな?

ゴロー 「売るのが早過ぎた」と後悔すると思います!

ろくすけ それが多くの人が示す反応だろう。では、「まだ上がるかもしれない」と考えて売らずに持ち続けて、その後に大きく株価が下がり続けたらどうだろう?

ナナコ その場合も「なぜあの時に売っておかなかったのか」と後悔しそうです。売却が早過ぎたり、遅過ぎたりで、ベストなタイミングは後で分かるものなので難しいですね。後悔はつきものですし、割り切りが必要かもしれません。

売り時判断の3パターン

ゴロー では、保有株の売り時はどう判断するのでしょうか?

ナナコ あっ、前回に計算方法を学んだ目標株価が判断の目安になるのでは? 実際の株価が目標株価を上回ったら、割高になったと考えて売ることも可能でしょう。

ろくすけ そうだね。私は売り時を判断するパターンは大きく3つあると考えているが、その一つは今ナナコさんが言ったパターンだ。実際の株価が目標株価を上回って「株価が割高になり過ぎた時」に売却を決断する。

ゴロー 目標株価と足元の株価を比較して、その差が開いている間は持ち続けられる。そして、差がなくなったら売却を検討するわけですね。

ろくすけ 目標株価と実際の株価との差を何と言うんだったかな?

ゴロー 安全域です!

ろくすけ ご名答。この安全域の大きさは、銘柄ごとに比較することもできる。例えばA社の目標株価は500円で、足元の株価は475円まで上昇していたとしよう。安全域は(500-475)÷500×100=5。すなわち、目標株価のわずか5%だ。

一方で、B社の目標株価は600円で、足元の株価は240円だったとしよう。この銘柄の安全域は(600-240)÷600×100=60。目標株価の60%と大きい。どちらの銘柄が魅力的だろうか?

ゴロー 安全域が大きくて、値上がり余地の大きいB社の株です。

ろくすけ そうだね。もし安全域が5%に減ったA社の株がゴロー君の保有株で、新規購入の候補になる銘柄を探して見つけたのがB社の株だったら、どうだろうか? A社の株を売却して、その代金でB社の株を購入するのも一考に値すると思わないか?

ゴロー 確かにそうですね。

ろくすけ これが保有株の売り時を判断する2つ目のパターンの「他に良い株が見つかった時」だ。

ナナコ 複数の銘柄について安全域の大きさを比較する。これは目からうろこが落ちる考え方です。目標株価はそんな使い方もできるんですね!

投資の神様も見通しを誤る

ろくすけ では、3つ目のパターンを説明しよう。それは、「見通しが悪い方に変わった時」だ。これは①企業や企業を取り巻く環境の変化に起因するもの②投資家としての自分の見立ての誤りに起因するもの――の2タイプがある。具体例を挙げて解説しよう。

前者の事業環境の変化で見通しが悪化した銘柄の一例が、私がかつて主力株として保有していたリログループだ。同社は企業の海外転勤者の留守宅管理や海外赴任の支援など、「人の移動」に関わる事業を多く手掛けている。新型コロナウイルスの感染拡大で「人の移動」が滞る一方で、リモートワークやオンラインを通じた商談といった人の移動を伴わない働き方が広がり、同社の事業環境は一変してしまった。コロナ禍が収束しても、人の移動が以前のレベルに戻ることはないだろう。そう判断して、私はリログループの株を売却して保有株数を大きく減らした。

後者の投資の見立てが誤っていたと分かって見通しが悪化するケースは、誰にでも起こり得る。「投資の神様」と呼ばれる米著名投資家のウォーレン・バフェット氏でさえも見誤るのだから。

同氏は2011年以降に米IBMの株を大量に買い増ししていたが、自分の見立てが誤っていたことを認め、17年に保有株のほとんどを売却した。IBMのハードに頼らない収益構造への転換が成功するとみていたが、実際には米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトにシェアを奪われた。

ゴロー どんなに偉大な投資家でも、未来を完全には予知できないのですね。でも、見通しが悪い方に変わってしまったかどうかの判断は難しそうです。何らかの数値で機械的に見極めることは難しいでしょう。

ろくすけ そうでもない。実は目標株価がその判断にも役立つんだ。ここで、目標株価の計算方法を思い出してほしい。目標株価の算出に当たって様々な前提を置いた。具体的には①5年目の当期純利益の予想値②期待収益率・割引率の設定に反映する企業の利益の安定性③永久成長率に反映する利益の成長性――の3つだ。

これらの前提が変わるようなことが起きれば、前提を見直して目標株価を算出し直すことが必要になる。例えば、事業の雲行きが怪しくなったら、当期純利益の予想値は減少するだろう。利益の安定性や成長性にも影響が及ぶので、期待収益率・割引率を高めに、永久成長率は低めに設定し直すことになる。その結果、目標株価を引き下げることになる。

ゴロー 目標株価が下がれば、安全域が縮小して、売り時が早まりますね。

目標株価を定期的に再算出

ろくすけ 事業の雲行きが怪しくなるケースには、先のリログループやIBMのような事業環境の変化がある。もう一例を挙げると、出店を競ってきたドラッグストア業界でその余地がなくなり、各社の利益成長に限界が生じている。

逆に、目標株価の引き上げにつながる変化もある。例えば、文書処理ソフト大手の米アドビは、ソフトの販売方法をパッケージ販売からクラウドベースのサブスクリプション(定額課金)モデルに転換して、事業の安定性を高めながら利益を大きく増やした。こうした変化があれば、前提を見直して目標株価を上方修正する。

ナナコ 目標株価はその水準もさることながら、算出プロセスや算出の前提を導き出すための企業分析も重要ですね!

ろくすけ 企業を取り巻く環境は常に変化する。3つの前提を定期的に見直して、目標株価を算出し直すことが必要だ。そうすることで、企業の実情に応じた適切な売り時が判断可能になる。

私たちが投資対象にする「素晴らしい企業」の場合、5年目の当期純利益の予想値のベースになる足元の利益は年々増え、それに伴って目標株価も切り上がっていく。安全域はなかなか縮まらず、結果として長期保有になる。少ない利益で売ってしまったり、短期の株価変動に動揺して慌てて売ったりといった事態も防げる。この点も強調しておこう。

(次回に続く)

今回のまとめ 目標株価を利用することで、適切な売り時を判断できる

[日経マネー2021年9月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年9月号 年後半の上昇期待株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/7/19)
価格 : 750円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

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