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企業の「株主価値」の計算法 項目を省いて簡単な形に

ろくすけさんの勝てる株式投資入門(16)

株式投資で3億円を超える資産を築き、アーリーリタイアしたブロガーのろくすけさん(ハンドルネーム)。会社員投資家の夢を実現した実在のスゴ腕投資家が、会話形式のフィクションストーリーを通して、株式投資の取り組み方やノウハウをやさしく解説していきます。
ろくすけ 実在する本連載の著者。人気ブログ「ろくすけの長期投資の旅」を運営(容姿は本人と変えています)。
ゴロー 大学院を修了後、化学メーカーに就職して1年目の青年。旅先で出会ったろくすけさんに師事するという設定。
ナナコ ゴローの妹。大学で経営学を専攻している。兄と一緒にろくすけさんに株式投資の基本を学ぶという役どころ。

キャッシュフロー(CF)を基に企業価値を算定する「DCF(ディスカウントキャッシュフロー)法」を応用して、企業の株主価値を計算する方法を教わったゴローとナナコ。今回は株主価値を簡単に計算する方法を学びます(前回はこちら)。

ろくすけ まずは株主価値の計算方法をおさらいしよう。どういう手順で計算すればよかったかな?

ゴロー まず企業の営業キャッシュフローと投資キャッシュフローを足し合わせたフリーキャッシュフロー(FCF)を基に、企業の事業価値を計算します。

最初に過去のFCFの増加率や企業の中期経営計画の目標値を参考にして、今後3~5年間のFCFを予測します。次にその翌年以降のFCFは永久に増え続けると仮定し、将来のFCFの合計値(総和)を求めます。中計などを参考に今後5年間のFCFを予測した場合は、6年目以降のFCFの総和を求めることになります。

ろくすけ 永久に増え続けると仮定して求めるFCFの総和を何と呼ぶんだったかな?

ゴロー 継続価値、英語名はターミナルバリュー(TV)です!

ろくすけ 正解だ。では、TVを算出する計算式は?

ナナコ 5年目のFCFの予測値に永久成長率を掛けて、6年目のFCFの予測値を求めます。それを期待収益率(割引率)から永久成長率を差し引いた利率で割るとTVが算出されます。計算式を書くと、5年目のFCFの予測値×(1+永久成長率)÷(期待収益率・割引率-永久成長率)です。

TVだけ求めて手間を省く

ゴロー ややっこしいのは、この式で算出されるのはTV、すなわち、6年目以降のFCFの総和の5年後時点の価値なんですよね。

ナナコ なので、事業価値の現在価値を求めるには、さらに次の手順が必要です。1~5年目のFCFと5年後時点のTVを割引率(期待収益率)で割り戻します。

ゴロー 5年目のFCFと5年後時点のTVは(1+割引率)の5乗で割り、4年目のFCFは(1+割引率)の4乗で割る……。やっぱり複雑だなぁ。

ナナコ 1~5年目のFCFとTVの現在価値の合計が事業価値の現在価値。これに遊休地や運用目的の有価証券など事業活動には結び付いていない非事業用資産を加えて有利子負債を引くと、企業の株主価値が求められます。

ゴロー 株価に発行済み株式数を掛けて求めた時価総額が株主価値の半分以下だったら、株価は理想的な価格と判定できます。

ナナコ やはりかなり手間のかかる計算ですね。

ろくすけ そこで提案するのが、私なりにアレンジした株主価値の計算方法だ。まず事業価値の算出手順を改めて見てほしい。事業価値の大半はTVだろう。そこで1~5年目のFCFの現在価値は求めず、TVの現在価値だけを求めることにする。さらにTVの現在価値を株主価値と見なして、非事業用資産を足したり、有利子負債を引いたりする作業を省略する。

FCFを純利益で代替する

ナナコ だいぶ計算の手間が省けますね。でも、非事業用資産や有利子負債を考慮しなくても構わないんですか?

ろくすけ 我々が投資対象とする「素晴らしい企業」は、事業活動に結び付かない資産を多く抱えてはいない。負債があっても5年以内に返済できるだろうから、TVから控除しなくてもいい。それに、株主価値はあくまで株価が割安かどうかを判定する目安だ。TVの現在価値と時価総額を比べるだけでも、割安か否かは判定できる。

変更点はまだある。TVをFCFではなく当期純利益を基に算出することだ。これには理由がいくつかある。まず中計で利益目標を示す企業は多いが、FCFの目標を示す企業は少ないことだ。

2番目の理由は、計算を簡便にすることだ。FCFは税引き後営業利益に減価償却費を加え、設備投資額と正味運転資本増加額を差し引いて求める。減価償却費は設備投資額の年平均値に等しくなると考えれば、FCFは実質的に税引き後営業利益から正味運転資本増加額を引いたものと見なすことができる。

一方、当期純利益は営業利益から本業以外の収益や費用、税金を足し引きして求める。素晴らしい企業は本業以外の収益や費用が少ない。当期純利益は税引き後営業利益とほぼ等しくなる。正味運転資本の増減を考慮しなければ、FCFを当期純利益に代替できる。

PERと逆数の関係

ゴロー 将来の利益の予想値を基に株主価値を算出するので、足元の損益のぶれを考慮しなくていい点もメリットですね。

ろくすけ 6年目のFCFを当期純利益に置き換えた形で5年後時点のTVを算出する計算式を整理すると、次の図の上に掲げた割り算の形になる。5年後時点のTVは割引率で割り戻し、足元の時価総額と比べる。この関係から5年後時点のTVは、企業価値に照らして5年後にあるべき時価総額の理論値だと言える。

この割り算を掛け算に変形したのが、下の式だ。一方で、時価総額は当期純利益にPER(株価収益率)を掛けても求められる。この2つの式の比較から導かれるのは、期待収益率から永久成長率を引いた利率にPERを掛けると1になる、すなわち、両者は逆数の関係になることだ。

この関係が成り立つので、妥当な期待収益率と永久成長率を設定すれば、妥当なPERを設定できる。さらに、そのPERを使って株主価値に基づく株価の目標値を算出することも可能だ。実は、この妥当なPERを設定して目標株価を算出することも、FCFを当期純利益に置き換える理由の一つだ。次回は、実際に目標株価を試算してみよう。

(次回に続く)

今回のまとめ 事業の継続価値だけと比べても、割安か否かは判定できる

[日経マネー2021年7月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年7月号 大化け期待のNEXT成長株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/5/20)
価格 : 750円(税込み)
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