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投資先行で利益増えない成長企業 実力はこう見極める

プロとスゴ腕に学ぶ企業決算の読解術(下)

株式投資で1億円を超える資産を築いたスゴ腕の個人投資家は、企業決算のどこに注目して数字を分析しているのか。最終回は、企業の稼ぐ力を見定めるために彼らが実践しているテクニックや、企業の変調の兆しを察知するために駆使しているワザを見ていく。

コロナショック後の相場で買われてきた人気銘柄が一転して売られ、株価が下落している。背景には、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まり、経済が正常化に向かうとの期待が高まっていることがある。経済の正常化が進めば、コロナ禍による特需が消滅して業績が悪化すると懸念され、それが売りを招いている。

逆風が吹き始めたにもかかわらず、売られている銘柄に目を向ける投資家もいる。専業投資家の著名ブロガー、DAIBOUCHOUさん(ハンドルネーム、40代)はその一人だ。「人気化していた銘柄の中には、商品やサービスのニーズが特需ではなく、コロナ禍が収束に向かっても業績を伸ばし続ける会社の有望株が埋もれている」。こう考えて、インターネット通販を手掛ける会社の株などを物色する。

粗利の推移で稼ぐ力を測る

DAIBOUCHOUさんは、不動産流動化がブームになっていた2000年代半ばに関連銘柄への集中投資で大きな運用益を上げ、05年末に運用資産が10億円の大台を突破した。その後は国内外の株やREIT(不動産投資信託)を売買したが、06年のライブドア・ショックや08年のリーマン・ショックなどで大きな損失を被った。そこで残っていたREITをすべて売却して、不動産投資にシフトした。10年に株式投資を再開。約200銘柄に分散投資するスタイルに転換して、資産を数億円に回復させた。

このスゴ腕投資家が成長企業の決算分析で重視している業績指標がある。売上総利益だ。売上総利益は、売上高から売上原価を差し引いたもので、「粗利」とも呼ばれる。この売上総利益から、営業費や広告宣伝費から成る販売管理費を差し引いたものが営業利益だ。

企業の稼ぐ力の評価では、本業のもうけを示す営業利益を分析するのが一般的だ。DAIBOUCHOUさんが売上総利益を重視するのはなぜか。それは、成長企業では商品やサービスの認知度を向上させるための広告宣伝費や売り上げ拡大のための営業費がかさみ、営業利益が増えにくいからだ。中には営業利益が減少したり、営業赤字が続いたりする企業もある。

「成長企業にとっては、広告宣伝費や営業費は将来の収益基盤を築くための先行投資だ。それで足元の営業利益が減少したり、営業赤字だったりしても、それは決して悪いことではない」とDAIBOUCHOUさんは話す。

そこで、将来の利益のための先行投資である広告宣伝費や営業費の影響を排除した形で企業の実力を測るため、売上総利益の伸びや売上総利益を売上高で割って求めた売上高売上総利益率の推移を分析する。「例えば、一般的にコストが低いネットのサービスを手掛けている企業の売上高売上総利益率は、90%以上あってもおかしくない。90%を大きく下回っていたら、何か経営に問題があるとみていい」と語る。

次のグラフは、自社サイトの「cotta(コッタ)」などで菓子やパンの材料、キッチン用品などの通信販売を展開するcottaの売上高と営業利益の推移を示したものだ。18年9月期をピークに売上高営業利益率が低下し続け、収益性が悪化しているように見える。

だが、これはテレビCMを打つなどして広告宣伝に注力し、販売管理費がかさんでいることが原因だ。売上高と売上総利益の推移に目を転じると、両方とも右上がりで増え、売上高売上総利益率も向上している。このグラフからは、cottaの稼ぐ力が実は高まっている様子が見て取れる。

会計ルールの変更にも目配り

DAIBOUCHOUさんが21年度限りの一時的な要因として注目するのが、「収益認識基準」と呼ばれる企業会計の収益計上に関するルールの変更。従来は契約した月に一括計上していた1年契約の収入を毎月分割して計上する形に変える。その結果、特定の時期に契約が集中して、月次や四半期の業績に偏りが生じていた企業の数字が大きく変化することが見込まれている。

影響の大きそうな企業の例として、DAIBOUCHOUさんは新興企業向け市場のジャスダックに上場しているシステムディを挙げる。システムディは、特定の業種や業務を対象としたパッケージソフトを開発・販売している。10月期決算の同社は、第2四半期(2~4月)の売上高や営業利益が最も大きくなる傾向があった。学校向けが主力で、この時期にソフトの保守費用などの1年契約の更新が集中するからだ。

21年10月期から新たな計上ルールを適用したため、同期の第2四半期の売上高や営業利益は大きく減り、他の四半期の売上高や営業利益が増える見通しだ。実際、既に発表した第1四半期の営業利益は前年同期の100万円から1億700万円に急増した。だが、これは計上ルールの変更によって数字の表れ方が変わっただけで、実際に売上高や営業利益が急増しているわけではない。

「計上ルールの変更で、表面の数字は第1四半期が大幅な増収増益、第2四半期が大幅な減収減益となる。それは数字の表れ方が変わっただけで、実態を伴ってはいない。だが、表面の数字しか見ない投資家が実際の業績が一変したと勘違いして、慌てて売却する可能性もある。それを見越して先に売り、動揺売りで株価が下がったら買い戻すといった対応を取る必要もありそうだ」(DAIBOUCHOUさん)

月次データで異変を早期につかむ

企業の業績の変化を早期に把握するためにスゴ腕投資家の多くが定期的にチェックしているのが、企業が公表している月次データだ。小売りや外食の会社は店舗の売上高や客単価の対前年同月比増減率、住宅会社は住宅建築の受注量の対前年同月比増減率というように、多くの企業が様々な月次データを開示している。

安定して成長する企業の割安株に投資して億円単位の資産をつくった兼業投資家の竹内弘樹さん(40代)。「やさしい株のはじめ方」など株式投資の情報を提供する複数のサイトを運営する起業家でもある。このスゴ腕投資家は「月次データをチェックすることで、四半期決算の発表前に企業の異変を察知して、早めに対策を打つことが可能になる」と話す。

次のグラフは、長崎ちゃんぽん専門店の「リンガーハット」やとんかつ専門店の「とんかつ浜かつ」の運営などを手掛けるリンガーハットの月次データの推移だ。リンガーハットと浜かつの新規店舗を含む全店と既存店の売上高増減率(前年同月比)を時系列で並べた。

売上高がコロナ禍で急減し、新型コロナの感染が拡大する前の水準に戻っていないことが分かる。だが、同社の株価はコロナショックで大きく下落した後に急回復。ショック前の高値も超えて上昇した。その後は大きく反落したものの、2200円を大きく割り込まず、ボックス圏を推移している。

「同社の株主優待を目当てに持ち続けている個人投資家が多いとしても、それだけでは株価が下げ止まっている理由を説明しきれない。折しも、新型コロナの感染再拡大で3度目の緊急事態宣言が発令された。それで業績が一段と悪化すれば、株価が急落する可能性もある」と竹内さんは指摘する。

(中野目純一)

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著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/4/21)
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