年内に読んでおきたい マネーのまなび今年の注目記事

当マネーのまなびセクションのスタートは今年の3月23日。そこから約9カ月の間、若いうちから取り組んでおきたい個人の資産形成を柱に、株、税金、年金、ポイント活用術まで、幅広いお金の情報をお届けしてきた。今回は年末に当たり、今年掲載した記事の中でよく読まれたもの、話題を呼んだものを改めてご紹介したい。未読のものがあれば、この機会にぜひ読んでみてほしい。
全体を通してよく読まれたのは「学び系」
お薦め記事10本を選ぶにあたり、まずアクセス数や読者数の多かった記事のランキングを作ってみた(よく読まれたが内容が時期外れになってしまった記事は除いた)。全体的には直接実利につながる記事よりも、「なぜそうなっているのか」を解説した学び系の記事がよく読まれているようだ。経済や金融の仕組みを正しく理解したい、という読者の皆さんの知識欲を感じたが、特に20〜40代の資産形成層でその傾向が強かった。
1. 初心者はここから 税優遇があるiDeCoとつみたてNISA

5月8日掲載。「積み立て投資で老後資金づくり」シリーズ全3回の第1回。働きながら老後資金を作るには個人型の確定拠出年金(iDeCo)とつみたてNISA(小規模投資非課税制度)を使い、税優遇を受けながらコツコツと投資信託を積み立てていくのが王道なのだが、この記事はその基本をしっかり学ぶのに最適だ。2つの制度の違い、長期積立と税優遇の組み合わせの強力さ、積み立ての出口戦略などが解説されている。「老後資金が不安なんだけど、どこから手をつけたらいいか分からない」という悩める資産形成層に最初に読んでほしい記事だ。
6月15日掲載。この頃は多くの企業が業績予想を「未定」としていて投資の手がかりが少なかった。この記事は企業の業績を知るため、損益計算書と貸借対照表に次ぐ「第3の財務諸表」であるキャッシュフロー(CF)計算書を読めるようになろう、というシリーズの後半だ。営業損益や最終損益がプラスでも起こる「黒字倒産」の構造や、過去に破綻・赤字転落した企業もCFをよく見ていれば気付けたことなどが解説されている。特に若い世代によく読まれた。

8月16日掲載。マネーのまなびではYouTubeを使ったトークライブを不定期に行っているが、この記事は8月5日に行った最初のトークライブの様子をまとめたものだ。ホストは動画「教えて高井さん」シリーズでおなじみの高井編集委員で、ゲストはレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長。藤野氏が運用する「ひふみ投信」は氏の「妖怪アンテナ」のおかげでコロナショックを避けられたというが、一体どういうことなのか。また長年ピアノに親しんできた藤野氏には株価チャートが楽譜のように見えているという――。投資と身体性の関係という意外な領域に話が及び、実に刺激的な対談だった。この記事には対談動画のダイジェスト版も収録されているので、気になった人はぜひ見てみてほしい。

12月19日掲載。2021年度税制改正大綱を受けた税制改正が家計に与える影響を解説した記事だ。中でも「教育資金の一括贈与の非課税制度」など、制度本来の趣旨とは異なりこれまで富裕層が節税策として使っていたものが今後は使いにくくなる、という内容が話題を呼んだ。一方で住宅ローン控除や子育て関連など、コロナ下の家計を税制面で下支えしようとする措置も並んでいる。富裕層以外にも多くの人に影響しそうな内容なので、一度チェックしておきたい。
9月4日掲載。株式の配当金だけで年100万円以上の収入がある3人の投資家を紹介したシリーズの1回目だ。この回は成長株投資を手がけるFPかもめさん(ハンドルネーム)の投資手法を解説した。この記事が多く読まれたのは、経済の先行きが見通しにくくなった中で配当という安定収入が個人投資家に注目された結果だが、個人的には「仕事を辞めてもOK」という見出しがアーリーリタイアを望む人たちの心に届いたようにも感じている。
人物インタビューにも「濃い」記事が

10月13日掲載。日本電産の永守重信会長の個人的な株式投資遍歴を聞いた異色のインタビュー記事で、16歳で日経新聞を読んで投資を始めたこと、数年後には学生の身ながら含み益が1億円に達していたこと、しかし空売りの失敗でそれが500万円まで減ってしまったことなどが生き生きと語られている。永守氏はその後に入社したティアックの株で原資を作り28歳で日本電産を創業し、今でも自社株以外に約30銘柄を保有するが、「株で損をすることはない」と言い切る。その理由は——。
11月30日掲載。人気連載コラム「知っ得・お金のトリセツ」の中の1本だが、公的年金のことをざっくり知るのにうってつけの内容だ。この記事では年金に関して特に多い「制度が破綻する」「払い損になる」といった「あらぬ誤解」に対して本当はどうなのかを解説しており、読めば老後資金に関する漠然とした不安が少し解消するはずだ。同じ山本マネーエディターが動画で年金を語る「11分で分かる年金を増やす方法 やさしい動画で解説」も理解を助けてくれるだろう。

11月24日掲載。45歳の記者自身が自宅の住宅ローンを「なるべく低金利で」「極力、非対面で」借り換えようとした体験記だ。0.38%の変動型への借り換えには成功するが、ネット銀行の思わぬ落とし穴から手続き完了まで2カ月もかかってしまい、非対面も断念することに――など、実際やってみなければ分からなかったポイントが活写されており、参考になる。事務手数料の額や金利など、リアルな数字が多く入っているのも読まれた理由だろう。

12月2日掲載。日経ヴェリタスの連載記事「お金を殖やすツボとドツボ」の転載だが、この回では一般NISAで2016年に投資した分の非課税期間が今年で終わることを踏まえ、その後どうするのが一番有利なのかを様々なケースで解説している。選択肢は「課税口座に移管する」「21年分のNISA口座にロールオーバーする」の2つだけなのだが、資産が値上がりしているのかその逆か、また将来値上がりしそうなのか逆なのか――で取るべき対応が異なってくるのが悩ましい点だ。

9月27日掲載。1936年生まれの個人投資家・藤本茂さんのインタビューで上下2本ある。藤本さんは18歳で株式投資を始めて今年で66年、84歳の今もデイトレーダーとして日に130銘柄、月の売買代金にして4億円分を売買するという。テクニカル指標を重視し、命の続く限り現役デイトレーダーを続けるという藤本さんの姿勢に、社内外で「84歳には驚いたが、投資に年齢は関係ないことが分かった」「自分もまだこれから頑張れると感じ、勇気づけられた」といった声が相次いだ。筆者にとっても今年一番印象に残った記事だった。
(マネー編集センター副センター長 大口克人)