株乱高下はバブル崩壊の発端? 気鋭の経済学者の見方
変調相場への対応を聞く(上)

「ほぼ全員が短期でのキャピタルゲイン(売却益)を狙って投資している。みんなが買っているから自分も買うという投資行動が広がってもいる。今の株式市場は明らかに完全なバブルだ。いつはじけてもおかしくない」
急落が起きる2日前の2月24日。取材の相手はこう言い切った。慶応義塾大学ビジネス・スクールの小幡績准教授。人がときに非合理な行動を取る心の動きを解明する「行動経済学」の知見を応用して人間の投資に関わる行動を研究する「行動ファイナンス」が専門の経済学者だ。


バブルは年内にはじけると予想

2020年9月には新著『アフターバブル 近代資本主義は延命できるか』(東洋経済新報社)を出版。同年に起きたコロナショックの本質はリーマン・ショック後の金融緩和で生じていたバブルの崩壊であり、その後のかつてない規模の財政出動・金融緩和が起こした「コロナショックバブル」もいずれ崩壊する。だが、金融政策も財政出動も限界に達して次のバブルをつくる余力はなく、バブルでバブルを乗り越える循環は終焉(しゅうえん)すると警鐘を鳴らした。
小幡准教授は同書で、コロナショックバブル崩壊の引き金となるのは先進国の財政破綻だと予想した。だが、21年に入って新たな予想を出した。それは、バブルで株だけでなく暗号資産(仮想通貨)のビットコインや不動産など様々なリスク資産の価格があまりにも割高になっていることに限界を感じて一定数以上の人が売り始め、それが暴落を引き起こして年内にバブルが崩壊するというシナリオだ。
投資の継続を迷うなら手じまいを
この筋書きを聞いた2日後に起きた世界的な株安は、果たしてバブル崩壊の発端なのか。それはまだ定かではない。だが、未曽有の金融緩和・財政出動を背景に株高が続くという楽観的なシナリオが綻びを見せ始めたことは確かだ。不透明感が増す市場にどう向き合えばいいのだろうか。
株などを売買する個人投資家でもある小幡准教授は「株式投資を続けるかどうか迷っているのであれば、持ち株を即座に全部売るか、全部がためらわれるなら半分売るといい。それで意に反してさらに値上がりしたら、早く売りすぎたと後悔すればいいだけの話だ」と語る。

「手じまいせず、もっと大きくもうけたいのであれば、バブル崩壊の兆候が出るまで持ち続けるのも選択肢の1つだ。ただしその場合には、保有する銘柄はいざという時にも売買高が多くて売りやすい大型株にしておくべきだ」と続ける。
売りやすい大型株の例として、出遅れてあまり値上がりしておらず、配当利回りの高い大手製薬会社や大手通信会社の株を挙げる。「財務も強い会社の株がいい」(小幡准教授)
さらに小幡准教授は「今から株式投資を始めるのはやめるべきだ」と強調する。
(中野目純一)

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/2/20)
価格 : 750円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス