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モノより経験の価値を説く お金に強い子供の育て方

WiL CEO 伊佐山元さん

米国でスタートアップ企業支援を手掛ける伊佐山元さんは、4人の子を持つ父親でもある。日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行後、米スタンフォード大学大学院に留学。起業家が次々と生まれる米シリコンバレーに強い興味を抱き、現地に残ることを決意した。現在は、メルカリをはじめとした日本の新興企業や、日本進出を目指す海外企業に出資、イノベーションを支援する。多くの起業家と交流してきた伊佐山さんが、自らの子供たちに伝えていることとは。

伊佐山元(いさやま・げん) 東京大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。2001年米スタンフォード大学大学院に留学。MBA(経営学修士号)取得後、03年に退行。米ベンチャーキャピタルDCMの本社パートナーを経て、13年にWiLを創業。

得意なことで価値を生み出せる大人に

――お子さんたちにお金の話をすることはありますか。

株式投資や会計の知識よりもまずは、将来の仕事にどう向き合っていくべきかということを子供たちに教えたいと思っています。伝えているのは、「自分が好きなことを、人よりも得意になって、それによって価値を生み出せるようになる」のが重要だということ。自分が過去に出会ってきた人の中でも、そうした姿勢で仕事をしている人はビジネスでお金を生み出す力がありますし、幸福感が高いと感じます。

自分が好きなことであれば、地道な努力を苦と思わないことが大きいのでしょう。他人よりも努力できるから、人よりもどんどん得意になって、多くの人からその能力が求められるようになる。つまり、自分の持っているスキルに大きな価値が生まれます。

――なかなか自分のやりたいこと、好きなことが見つけられない子供もいます。

そうですね。親が「このことに関心を持ってほしい」と考えていても、興味というのは自然と湧き起こってくるものですから、なかなかその通りにはなりません。なので、「親がしてやれるのは、子供により多くの経験をさせて、『好きなもの』の対象を広げてあげることだけだ」と割り切るようにしています。

――具体的にはどのような経験をさせてきましたか。

主に2つです。1つは、旅行や留学などの、自分のコミュニティーの外に出る経験。2つ目は、読書で知識を得たり、新しい世界に出合ったりする経験です。本は、本人が欲しいと言えば気前よく買い与えるようにしています。

一方で、おもちゃなどの欲しいものをねだられた時は、簡単には買いません。そうした場合は、「3カ月ルール」を適用します。つまり、3カ月間「欲しい」と言い続けたら買ってあげる。大抵の場合、時間がたつにつれて本人も冷静になって、物欲がなくなっていく(笑)。

重要なのは経験の掛け合わせ

――経験とモノ、どちらに親のお金を使うかの線引きを明確にしているのですね。

経験はモノに大きく勝る価値がありますからね。気になったことは次々に挑戦していってほしいです。また、夢中になっていたことに飽きて興味の対象が別のものにコロコロと移っていっても、それでいいと思っています。そうした時はそっと見守って、むやみに口出ししません。

例えば、大学4年生の長女。文系専攻で大学に入ったのですが、気が付いたら専攻とは関係のないプロダクトデザインとコンピューターサイエンスの勉強に入れ込むようになっていました。さらに興味の対象が移って、今はウェブデザインの勉強に注力しているよう。

長男も、習い事で始めたゴルフの実力が認められてスポーツ推薦で大学に入ることができたのですが、今はゴルフではなく勉強に「ハマって」います。先日、「今後はコンピューターサイエンスを専攻したいのだけれど」と持ちかけられました。

――「スポーツ推薦で大学に入れるほどゴルフが得意なのだから、その道で生きるべきだ」という考えはなかったのですか。

「息子がゴルフのプロになったら面白いな」と思ったことがないと言えば嘘になりますが、「プロを目指したほどゴルフが得意なのに、コンピューターサイエンスの知識を持っている人間」の方がもっと面白いと思うのです。ゴルフが得意な人、コンピューターサイエンスの知識を持っている人はそれぞれある程度います。でも両方に詳しい人は、そういない。

これからは、そうした「自分だけの経験の掛け合わせ」が求められる時代だと考えています。一見関係がないように思える複数の経験を掛け合わせることで、イノベーションを生み出せる。

――様々なスタートアップ企業に携わるご自身の仕事を通して、「経験の掛け合わせが重要」だと考えるようになったのでしょうか。

もちろんそれもありますし、私が留学後も米国に残ると決めた時に体験したことも大きいと思います。というのも、当時「ビジネス英語と日本語の両方が使える」という人はシリコンバレーに多くいましたが、なおかつ「日本の大企業での経験があり、芽生えつつあったスタートアップ業界にも友人が多い」という人は少なかった。それらの経験の掛け合わせが、強みになりました。

あの時は、米国で事業をしようとする日本人の多くが「学生時代に留学で米国に渡った」という人でした。おかげで、「日本のビジネスの勘所が分かっていて、英語も話せる」という点に魅力を感じて、私に仕事を求めてくれる人が多くいた。それから「他の人にはない、自分だけのアピールポイントが必要なのだ」と強く思うようになりました。

日本人であることを生かす

――そういった意味では、米国で暮らしているお子さんたちの「日本人である」というアイデンティティーは強みになりますね。

それは強く思っています。ですから日本語の本などに触れる機会や、日本の文化について学ぶ機会をできるだけ与えるように心掛けてきました。コロナ前は少なくとも年1回、家族で日本を訪れるのが定番でした。

――娘さんや息子さんたちが、「日本人である強み」をどのように生かしていくかが楽しみですね。

ただ子供たちには、「この経験と、この経験を掛け合わせたら役に立つかな」などといった打算的なことは後回しで考えるように伝えています。「今はIT(情報技術)人材がトレンドだから、プログラミングの勉強をしなくては」などといった思考で自分の進路を決めてしまうと、どこかでつまずいてしまう。あくまでも最も重要なのは、「自分が強く興味を持っていて得意なものに、一生懸命になること」だと思っています。

――「興味のあるものを頑張っているのだけれども、人よりも苦手」ということもあります。

ありますね。ですが私は、それは時間軸の問題だと思っています。スポーツにしろ勉強にしろ、長期で見れば、いつか「ものすごく好きなのだけど他よりも上達が遅い人」が「特に好きではないのだけれど生まれつき得意な人」を追い抜く時が来る。やっぱり、興味のあることは長く努力を続けることができますが、興味のないことは、自分ができる努力量に限界があります。童話の「ウサギとカメ」と同じですね。

冒頭で述べたように、成功している起業家の共通点は、「好きで得意なことに、心から面白がってまい進している」ことです。ですから私も子供たちがおのずと関心を抱いたものを大切にして、その興味の芽を一緒に育ててあげる。そして、子供が頑張っていることの上達が遅かったとしても、長い目で見守るようにしています。

(聞き手は大松佳代)

[日経マネー2021年5月号の記事を再構成]

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