21年にREITは上昇の公算大 背景にある2つの理由
アイビー総研代表・関大介

国内の不動産投資信託(REIT)の価格が緩やかに上昇している。REIT全体の値動きを示す東証REIT指数は22日、約10カ月ぶりに1800台を回復。28日には1824.25まで上昇し、コロナショック後の高値を更新した。
もっとも、上昇基調にあるとは言え、日経平均株価が約30年5カ月ぶりに2万8000円台を回復して活況に沸く株式に比べると、REITの盛り上がりは物足りない。日経平均はコロナショック前の高値を更新して上昇しているが、東証REIT指数はコロナショック前の高値(2250.65)を依然として大きく下回っている。

出遅れの理由は、REITが不動産賃貸の専業であることにある。半導体関連やIT関連などの成長株がリードする株式市場と比べて、景気後退の影響を受けやすい不動産専業のREITが劣後するのはやむを得ない面がある。
株からREITに資金が流入する可能性
それでも、2021年にはREITの相場が上昇する可能性が高いと筆者は考えている。
大きな理由として2つの点が挙げられる。まずは、株式市場の上昇基調が続いているために、REITへの投資が拡大していないことだ。つまり、相対的にREITには割安感が生じている。
不動産株とREITを比較すると、この点は明らかだ。オフィス賃貸が主力の不動産会社ダイビルの株価と、オフィス型REITの中で20年に価格が最も大きく回復したケネディクス・オフィス投資法人の投資口価格(株価に相当)の推移を比べてみよう。


配当と分配金の利回りを見ると、28日時点のダイビルの予想配当利回りは1.76%。対するケネディクス・オフィスの予想分配金利回りは4.60%。2.84ポイントもの開きがある。一方、株価と投資口価格のチャートを見比べると、ダイビルがコロナショック後の底値から大きく回復する一方で、ケネディクス・オフィスの戻りが遅いことが分かる(20年の年間騰落率は前者がマイナス0.5%、後者はマイナス16.5%)。
オフィス賃貸料の市況が悪化して収益が減少するという懸念は同じでも、株とREITでこれだけの差が生じているわけだ。その原因は、資金流入の規模の違いにある。それほど投資マネーが株に偏って流入している。21年にはその反動が起きて、割高になった株から割安なREITへと投資マネーがシフトする。それがREITの価格を押し上げる可能性がある。
「利回り狩り」の再拡大も上昇要因に
REITの相場が上昇すると考える2つ目の理由は、19年にREITの価格を大きく押し上げた要因の一つに大きな変化が生じそうにないことだ。その要因とは、米国債の利回りの低下である。米連邦準備理事会(FRB)が量的金融緩和の一環として実施した米国債の買い入れによって、米10年物国債の価格が上昇し、利回りは低下。それを受けて、利回りの高い他の金融商品を買い求める「利回り狩り」の動きが強まった。分配金利回りの高いREITに買いが集まり、価格が大きく上昇した。

その後、コロナ禍を受けてFRBはゼロ金利政策を実施し、米10年物国債の利回りは1%を割り込む水準まで低下した。21年に入って、米民主党が大統領職と米連邦議会の上下両院の主導権を握る「トリプルブルー」が実現。同党が大規模な財政支出を実施するために国債を増発する可能性を織り込み、米10年物国債の価格は下落に転じ、利回りは上昇して10カ月ぶりに1%を超えた。
それでも歴史的に見れば、まだ著しく低い水準だ。FRBはゼロ金利政策を続ける方針を崩しておらず、米国債の利回りがさらに大きく上昇するとは考えにくい。「利回り狩り」の動きは今後再び活発になり、それがREIT相場の上昇要因になると考えている。
賃貸料収入が減っても分配金の維持は可能
もっとも、「利回り狩り」が活発だった19年と異なる点もある。それは、コロナ禍によってREITの収益が悪化する懸念が高まっていることだ。参考のため、2008年に起きたリーマン・ショックの後を振り返ると、国内REITの分配金はショックの2年後に平均で20%以上減少した。
ただ、コロナショックはリーマン・ショックのような金融危機でなく、大半のREITは19年当時と同様に低い金利での資金調達が可能な状態にある。さらに異常とも言える低金利によって、日本の不動産市場には外資系ファンドの参入が相次ぎ、高値圏での取引が続いている。従って、賃貸料収入が一定程度減っても、不動産売却益の計上によって分配金の額を維持することが十分に可能な状況だ。
これらの点から、21年にREIT相場が上昇する可能性は高いと考えている。東証REIT指数の想定レンジは1500~2000。上値はコロナショック前の高値より11%低い水準だ。分配金が10%を超える減少とはならないと考えられるため、株式市場の騰勢が弱まれば、REITに資金が回る可能性は十分にある。
下値に関しては、投資市場全体を揺るがす要因が生じた場合を想定して、かなり保守的に見ている。コロナショックによる暴落の後にも早期に1500台を回復したことから、この水準以下にはなりにくいと考えている。

不動産証券化コンサルティング及び情報提供を行うアイビー総研代表。REIT情報に特化した「JAPAN-REIT.COM」(http://www.japan-reit.com/)を運営する。
[日経マネー2021年3月号の記事を再構成]
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