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家計管理を通じ生きる力育む お金に強い子供の育て方

ファイナンシャルプランナー 藤川太さん

家計に関する相談を受ける「家計の見直し相談センター」の運営を手掛けるFP(ファイナンシャルプランナー)の藤川太さん。自身がお金に興味を持つようになった大きなきっかけは、結婚と子育てを経験したことだという。私生活や仕事を通して、藤川さんが家計について思うこととは。2人の娘にはお金について、どのようなことを伝えているのだろうか。

藤川太(ふじかわ・ふとし) FP、宅地建物取引士。慶応大学大学院理工学研究科修了後、自動車メーカーで研究開発に従事。その後FPとして独立し、2001年に家計の見直し相談センターを設立。3万世帯を超える家計診断を行う。

結婚に向け「貯蓄200万円」の目標を達成

――お金のプロとして活躍されていますが、ご自身は親からマネー教育を受けてきましたか。

「お小遣い帳をつけろ」とはいつも言われていましたね。ただ、結局うやむやになるんです。1カ月分をまとめて一気に書いて、帳尻を合わせて親に提出する……といったほとんど意味のないことをしていました。

そんな調子だったので、大学生になった時には本当に家計管理に困りました。地元の山口から出て一人暮らしを始めたのですが、お金を思うように使えない。アルバイトはしていたのに収支がうまく管理できず、貯金がなくて悩んでいました。

卒業後はメーカーに就職し、今の妻との結婚を考えるように。ほぼ貯金ゼロの状態から結婚費用の200万円をためるため、初めて本格的に節約に取り組みました。

――どんな節約をしましたか。

1年で200万円の貯蓄を達成するための生活費を計算したところ、ひと月に使えるお金は10万円以下でした。家賃を含めてです。

無駄な固定費を削り、それでも足りないから食費を抑えるしかなかった。当時は若くて食欲旺盛だったので、スーパーで何を狙ったら安くて満足度が高いかを考えてひたすら工夫しました。すると、本当に1年で200万円をためられたのです。

家計について立てた目標を、初めて達成した。かなり自信になりました。「やればできるんだ」と。ためたお金は結局、結婚式で全部使う羽目になるのですが(笑)。

――その後お子さんが生まれます。

長女が生まれたのは、勤めていたメーカーを辞め、FPとして事業を始めたすぐ後でした。子育てのためにお金が必要になったうえ、収入は不安定に。その2年後、次女も生まれます。

事業にはうまくいく時とそうでない時の波がある。娘2人には、波に合わせて家計を引き締めたり、緩めたりする親の姿を見せてきました。

買い物や自炊の経験が金銭感覚を育む

――結婚前に200万円をためた経験が生きていますか?

かなり生きています。「ここまで生活費を下げられる」というレベルが見極められる。これは大きな強みだと思うのです。

削ることができる固定費には限りがありますし、最後に生活費の肝となるのは食費。我が家では子供たちに食材の買い出し・料理に積極的に参加させています。

夏に「暑いからさっぱりしたものが食べたいな」と言ったら1人前当たり100円以下でスダチうどんを作ってくれたことも。食費を抑えても、満足においしいものが食べられるということを本人たちも分かっているはずです。

――生活費の金銭感覚は、実体験を通して身に付けさせる。

娘2人ともまだ実家暮らししかしたことがなく、生活費に工夫を凝らす経験が不足しているのではないか、という不安も否めません。だからこそ食費だけでも、「同じ予算でも使い道によって全然違うことができる」ということを知ってほしいと思います。

――家計について考えるきっかけになりますね。

私が大学時代に苦労したように、家計のことを知らずにいきなり社会にポンと出されると、どうすればいいか分からなくなる。それより、親が家計でどんな苦労をしているかを隠さず見せることが子供のためになると感じます。

学費も隠しません。妻は幼児教育に携わった経験があり、それもあって娘2人は幼稚園から中学まで私立。正直なかなかの金額でしたが、「学費は年間いくら」と伝えていました。エスカレーター式で大学まで行けるはずだったのですが、長女が突然「都立の音楽高校に行きたい」と言い出した。

理由を聞くと、「作曲家を目指したい。大学から音楽学校に入る道もあるが、私は高校から時間も学費も音楽のために使いたい」というのです。自分なりに家計について考え、夢をかなえるための現実的な筋道を提案してきた。素直に「偉いなあ」と思いましたね。

――作曲家になりたいと思ったきっかけは何だったのでしょう。

それは本人にしか分かりませんが、3歳からピアノを習っていたこともあるのでしょう。次女もハープ奏者を目指していて、私立の音楽高校へ進学しました。

現在、長女は国立の音楽大学に、次女は私立の音楽大学に通っています。作曲家とハープ奏者、それぞれの道を実現するべく頑張っているようです。

音楽を仕事にする心得を説く

――音楽家を目指すうえで、お金についてアドバイスすることは。

「学生生活が終わってすぐに音楽で食べていけるようになるには、学生のうちに音楽家として売れていなければならないよ」と言っています。現段階ではうちの子たちはそうではないので、音楽以外の収入源を見つける必要がある。

ちなみに、我が家ではお小遣い制を採用していません。音楽活動に必要なものは「経費」として買い与えますが、それ以外の欲しい物はお年玉などの貯金で買わせます。お手伝いなどで成果が出れば「臨時収入」を与えます。

足りない分はアルバイトで賄ってもらう。長女も次女も時折、私の事務所で働いています。時給は東京都の最低賃金程度ですが、社会勉強にも、お金の勉強にもなっていると思います。

――成果を出した場合のみ報酬を得て、足りない分は他の仕事で補う。学校を出た後の生活と同じですね。

そうして不安定な収入に慣れてもらいたいですね。作曲家やハープ奏者などのアーティストは決まった月給のない仕事です。自分の仕事の価値(=ギャラ)を、自分で値付けしなければならない世界。その値付けを決めたのならば、「自分で責任を持って、もらえる収入の範囲内で生活をしなければならない」と伝えています。

――言い換えれば、収支管理ができるなら好きなことを仕事にしていいと。

いざとなれば、我が家で学んだ食費節約術などのノウハウを実践すればいい。それが分かっていれば何も怖くありません。収入が不安定な世界に飛び込むチャレンジを後押ししてくれるのは、「必要となれば家計を絞れる」という自信だと思います。

「何にいくらかかるか」「どこまで生活費を絞れるか」といったことを知っていれば、将来に向けて策を練ることができる。FPとしての知識より、そういったことを教える方が大切だと考えています。お金については夢を見せず、赤裸々に現実を見せるようにしていますが、結果として娘たちの夢を後押ししていればうれしいです。

先日、娘たちとスーパーに行った際、私が「マスクを着けて顔を隠していると、値引き商品を持ってレジに行っても恥ずかしくないからいいよね」と言ったところ、「安い商品を狙うのは当たり前のこと。何も恥ずかしいことじゃない」と返されてしまいました。頼もしいなあ、とひそかに喜んだ瞬間です。

(大松佳代)

[日経マネー2021年2月号の記事を再構成]
日経マネー 2021年2月号 2021年は最強日本株で勝つ!

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/12/21)
価格 : 750円(税込み)
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