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奨励金がお得な「持ち株会」 リスク集中には要注意

この春社会人になった新入社員の中には、「従業員持ち株会」の案内を受け取った人も多いかもしれない。4月に東証1部上場の製薬会社に新卒入社した20代女性は、「持ち株会の仕組みをよく知らなかったため、加入すべきか迷った」と話す。持ち株会を通じた自社株の取得は有利な面もある一方、注意すべき点もある。制度の仕組みをしっかり理解することが重要だ。

最大の魅力は「奨励金」

従業員持ち株会とは、従業員が自社株を積み立てで購入することを支援する仕組みのこと。一度申し込めば、給与や賞与からの天引きで毎月一定額、自社株を買い付けてくれる。東京証券取引所の調査では、上場企業の約9割が持ち株会を設けている。

最大のメリットは、持ち株会を実施する企業の96.6%が採用する「奨励金」という制度にある。自社株を購入する際、会社が一定の割合で購入金額を上乗せしてくれるため、より多くの株式数が得られる仕組みだ。「奨励金は5%か10%に設定している企業が多く、平均で約8%になる」(野村証券 資産形成推進部の森田克巳さん)。

例えば「奨励金5%」と設定されている会社について、ある月の購入時の株価が1000円の場合を考える。持ち株会を通じて、「毎月5000円ずつ積立投資する」と設定していれば、実際には会社の奨励金が拠出金の5%分(250円)上乗せされ、5250円分が購入できる。この場合、購入する株数は5250÷1000=5.25株となるが、持ち株会であれば基本的には小数点以下の株数でも購入・管理できる。

持ち株会で購入した株は通常、総務部長や人事部長が務める「持ち株会 理事長」名義の口座で管理される。配当金は、持ち株数に応じて割り当てられ、自動的に再投資に回される仕組みだ。また保有が100株(1単元)以上になると、別途申請をすれば自分の証券口座へ引き出し、管理することもできる。その場合、議決権を行使したり、株主優待を受け取ったりすることも可能だ。

企業側にも大きなメリット

持ち株会を採用する企業の狙いは、「安定株主を得る」という目的の他に、「自社株を持つことで経営への参加意識が強くなる」「社員の資産形成を促進する」「社員の金融リテラシーを向上させる」といったものが主だ。

「近年は上場企業の株主還元姿勢が強くなっている。そのため社員には『自社株の取得』という形で、株式価値の向上や配当金を分け与えようとする動きがみられている」(森田さん)。持ち株会の参加率を上げるため、奨励金を5%から10%などに引き上げ、制度を拡充させる企業も増えているという。

奨励金を100%とする会社もある。サイボウズの持ち株会は、社員の拠出金と同額を会社が補助する。社員の最低拠出額は月5000円からで、5000円単位で設定可能となっている。積立額の上限は、給与の10%だ。入会条件は「取締役または監査役に該当しない無期雇用社員であること」など。「持ち株会の加入率は90%前後で、拠出額の平均は月約3万4000円となっている」(同社)。

2020年に同社の持ち株会に加入した20代社員は、「自社の経営や、それに伴う動きに主体的に関心を持てるようになった。現時点では保有株を引き出すことを考えていないが、まとまった資金が必要な時のためのお金を少しでも確保できているという安心感がある」と話す。加入当時に比べ、同社の株価は足元で2倍以上に上昇。資産は順調に増えているという。

株主優待は得られない

メリットが大きい持ち株会だが、注意すべき点もある。「株主名簿に個人名が載らないため、株主優待が得られない」「少額投資非課税制度(NISA)の対象とならない」といった点は押さえておきたい(個人の証券口座に自社株を引き出せば、株主優待を得ることは可能)。

売却方法も通常の株式投資とは異なる。「持ち株会で保有する株式を株式市場で売却したい場合、引き出しの申請から売却して現金になるまでにおよそ1週間かかる。会社によっては引き出しが月1回までなどと制限されている場合があるので、事前に確認しておきたい」(森田さん)。100株未満や少数点以下などの株数を売却したい場合は、持ち株会の他の参加者の買い付けの際に売却する必要がある。その場合、売却価格は「持ち株会の買付日」などで設定される。

業績悪化などで自社の株価が下がれば当然、損失を被ることもある。持ち株会加入について最も注意したいのが、会社の経営状態の悪化により自社株の株価と給与やボーナスの支給額がともに下がるリスクがあることだ。ファイナンシャルプランナーの氏家祥美さんは、「リーマン・ショック時には業績悪化で給与が下がったうえに、持ち株の損失も大きく膨らんだという相談があった」と話す。

氏家さんは「月3万円を貯蓄に回せる人の場合、自社株買いに充てる額は5000円程度が目安。貯蓄と投資に分けて積み立て、さらに投資も分散投資を心がけて自社株買いはその中の一部にとどめるのがよい」とアドバイスする。「老後資金目的というよりは、ちょっとしたへそくり程度の位置づけで積み立てるのがいいでしょう」(氏家さん)。持ち株会に加入する際はメリット・デメリットをしっかり押さえ、資産構成が過度に自社株に偏らないないようリスク分散しておきたい。

20年春は、コロナ禍で会社が持ち株会の説明会を設ける場が少なかったことなどから、「新入社員の加入率が例年に比べて2割程度低下した」(森田さん)。加入率を上げるため、各社で奨励金制度を拡充させる動きも期待できるかもしれない。

(大松佳代)

日経マネー 2021年6月号 ここから上がる最強の日本株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/4/21)
価格 : 750円(税込み)
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