日本株は2021年反転攻勢へ 空前の景気拡大が到来か
新年相場をプロが展望(下) 武者リサーチ代表・武者陵司さん

経済の先行き不透明感は払拭へ
──2021年の世界経済見通しを教えてください。
コロナ禍や米中関係などの不透明要因がありましたが、20年11月にこれら不確実性が消えました。ワクチンの有効性が見込まれ、米バイデン新大統領は国際ルールベースで中国と向き合うと目されています。これまでの「先が見えない不透明な時代」から21年は「霧が晴れ、先がクリアに見通せる時代」へと移ろうとしています。コロナにより抑制されていた需要が解き放たれ、サプライチェーンが滞っていたために抑えられていた生産活動も改善されるでしょう。
その上、各国は金融緩和策を取り財政出動も行って経済を強力にサポートしています。景気が回復する局面での金融緩和や財政出動など、普通ならばあり得ない状況です。21年は、空前の景気拡大の年になる可能性があります。
──株価も上昇するとみますか。
かなり大きな上昇相場があり、消化の過程で多少の上下動はあるものの、トレンドは変わらないと思います。株高は世界的な流れですが、その中でも日本株のパフォーマンスが最も良くなると想定しています。
──その理由は。
まず日本が「経済の落第生」から抜け出すことがあります。先進国の中でもデフレが続き、金融緩和を続けているのに金利は上がらず、日本は世界経済の落第生というイメージでした。ところが昨今は、ドイツなど他国の方が金利は低い。しかも日銀のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作)が効き、スティープ化(長短金利差が開く)で銀行が収益を上げる環境が表れ始めています。日本株のバリュエーションを押し下げてきた銀行株が変わるかもしれない点は大きなポイントです。
技術面で強みを持つ日本が優位に
第2にコロナ禍で起こった新たなイノベーションで、強みを発揮するのは日本の技術であることです。コロナ禍で明らかになったのはデジタル化の推進が必須であることですが、これまでデジタル化と言えばコンシューマープロダクツ、個人向けのスマホやパソコンなどが大きな市場でした。それが、今後は5Gをはじめとする社会インフラがターゲットになります。インフラのための産業機器や装置はライバルといわれる韓国や台湾よりも日本の方が得意とする分野。技術面での蓄積がある日本は、国際分野で反転攻勢に出られると思います。
さらに日本の株式市場は、ここ数年低迷を続け、上昇するための力を蓄えてきました。その分、ジャンプは大きくなるはずです。
上昇相場はまだ入り口
──日経平均株価は3万円を超えるとみますか?
優に超えるでしょう。2000年以降、日本の株式市場には大きな相場が2回ありました。05年に始まった小泉政権下での郵政解散相場と12年からのアベノミクスです。郵政解散相場は始まりから最初の5カ月間で日経平均株価が42%上昇し、アベノミクスでは最初の6カ月間で66%上昇しました。いずれの相場も海外投資家が主導しましたが、20年11月には買い戻している状況です。
それを考えると、先の2大相場と比較して入り口としてはまだまだ、という状態です。菅政権が誕生した20年9月の2万3000円を起点にすれば30%上昇で3万円、郵政解散相場並みの40%上昇なら3万2200円、50%上昇としても3万4500円が視野に入ってきます。
──そうした状況になるタイミングは、いつごろを想定していますか?
年後半に起きる可能性が高いとみています。年前半でコロナ後の風景が見え始める。日本企業への機械受注増など年前半に数字ではっきりと表れ、年後半からは様変わりに良くなると予測しています。もしくは年度末あたりにこうした動きが表れるかもしれません。
これまで私は、デジタル化という構造改革が世界経済を推進し、株価にも大きなトレンドを作ると主張してきました。ちょうど1年前の『日経マネー』の取材で、20年に日経平均株価は2万5000円を、NYダウ工業株30種平均は3万ドルを突破すると予測したのも、それが理由です。図らずもコロナ禍で、デジタル化は進めなくてはならないことであると明確になりました。今後、進むべき道がクリアになったと思っています。


武者リサーチ代表。1997年からドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト。2009年に武者リサーチを設立。
(聞き手は佐藤由紀子)
[日経マネー2021年2月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
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