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世界経済を揺るがすインフレと中国リスク

エミン・ユルマズの未来観測

コロナ禍で高まる政治への不満

9月のドイツ連邦議会選挙(総選挙)で、中道左派のドイツ社会民主党(SPD、社民党)が、与党の中道右派、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)に僅差で勝利しました。結果を受け同国では、社民党と緑の党、自由民主党(FDP)の3党が連立政権の樹立で合意。社民党のショルツ財務相が、引退するCDUのメルケル氏の次の首相に就任する見通しとなりました。ドイツの首相交代は16年ぶり。この交代の流れは今後ドイツにとどまらず、世界各国で見られ、左派寄りの政党が力をつけていくと私はみています。

日本では10月31日投開票の衆院選で自民党が勝利しましたが、公示前から議席数は減り、岸田文雄政権の求心力は低下しました。次回以降の選挙で政権が交代する可能性は十分考えられそうです。

世界で政治が不安定化している背景には、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う国民の不満の増幅と、貧富の差の拡大があります。

特に米国では、大規模な金融緩和策に支えられ株価が上昇し、富裕層が資産を増やす一方、コロナ禍で経済苦に見舞われる国民が急増。中間所得層は減少しました。さらにその金融緩和の裏側では、複数の米連邦準備理事会(FRB)高官が株式など金融商品取引を繰り返していたことが明らかになり、FRBに対する風当たりが強まっています。金融かいわいのモラルハザード(倫理の欠如)は、政治を大きく動かす要因になるでしょう。

大規模な金融緩和の弊害は日本でも

緩和政策の弊害は、日本でも同様に起きています。日本経済は長期にわたりデフレが続き、物価は上がらないという見方が投資や消費の先送りにつながってきました。日銀が掲げるインフレ目標2%は達成が難しいとみられています。しかし、そもそも本当に日本はデフレの状況下にあるのでしょうか。

政府統計によると、軽自動車の平均価格は過去10年で5割近く上昇。東京カンテイ(東京・品川)がまとめた中古マンション平均希望売り出し価格(70㎡換算)は、東京都心6区で8月まで過去最高値を更新しました。人生の2大消費アイテムである住宅と自動車価格が上昇している以上、一部でインフレが起きていると言えます。

一方、厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、昨年の一般労働者の平均月例賃金は、2011年比でほぼ横ばいにとどまっています。賃金が変わらない以上、価格上昇が続く住宅と自動車を購入するには、他の消費を削るしか方法はありません。すると国内消費は伸びず、他の品目でのデフレは免れません。インフレが起きていないのではなく、インフレが間違った方向、「資産」において起きているのです。

金融緩和に伴うカネ余りはモノのインフレを引き起こすことなく、資産インフレを作り出し、格差を拡大させただけでした。その意味で私は、世界的な金融緩和政策は見直されるべきだと考えています。

米国株の高値更新は続かない

FRB内部ではインフレについて予想以上に長引く可能性を指摘する声が出始めています。11月にテーパリング(量的緩和の縮小)開始を決めたFRBは、22年には利上げに踏み切ると私はみていますが、金利上昇は株高に織り込まれておらず、米国株のバリュエーション(投資尺度)は正当化できないほど高く推移しています。相場の急落リスクは常に警戒する必要があるでしょう。

米国では、9月に失業給付金の上乗せが終了しました。今年1月に、ゲーム専門店の米ゲームストップ株が乱高下し、相場が崩れかけた局面では、給付金や大規模な財政出動、金融緩和が相場を支えました。しかし今回上乗せが終了したことで、今後は断続的な売り圧力が強まる可能性があるでしょう。給付金を元手に株式を売買してきた個人投資家は、支給がなくなったことでレバレッジ(借入金で運用額を膨らませること)を高めてリスクを取ることができなくなり、利益確定売りを出すと予想されるからです。

コロナ禍で家賃が払えなくなった人向けに米政府が設けていた立ち退き猶予措置も7月末で一度期限切れとなりました。家賃上昇で来年にかけて景気が下を向く可能性は高く、株価は先んじて下落しそうです。相場上昇のカタリスト(きっかけ)は現時点で乏しいとみています。

中国の景気後退リスクは要警戒

もう一つ忘れてはならないのが、中国の景気後退リスクです。中国国家統計局が発表した7~9月期のGDP(国内総生産)は、前の四半期から減速しました。中国恒大集団など不動産各社の経営問題や供給不足、エネルギー価格の上昇は、同国にダブルディップ・リセッション(景気の二番底)をもたらすでしょう。これらのリスクは株価には織り込まれていません。

一般に中国の経済指標は先行指数(数カ月先の景気動向を示す)といわれており、続いて日本、米国の順に遅れて指標に現れます。中国が景気の二番底に陥った場合、同国発の株安リスクには警戒が必要です。

新興国の通貨安の動向にも暗雲が漂っています。外国為替市場では10月以降、トルコリラが下落し、対ドルで過去最安値を更新し続けています。コロナ禍で観光業が打撃を受け、外貨取得の手段が減った新興国では、原油などのコモディティー(商品)購入のためのドル需要が高まっています。ドル高・コモディティー高に加え、中国人民銀行(中央銀行)が緩和に動くとの見方から人民元安の警戒もあります。新興国通貨の動向には注意が必要です。

エミン・ユルマズ 
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。

[日経マネー2022年1月号の記事を再構成]

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