長期投資家が待つバブル崩壊(澤上篤人)
「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信創業者
金融バブルは最終局面へ
われわれ本格派の長期投資家からすると、世界の金融マーケットは異常なるバブル高を続けている。したがって、一刻も早く、バブル崩壊に向けて対処しておくべしとなる。
株式投資は続けて構わない。ただ、バブル高の様相が色濃い投資対象は、全てポートフォリオから外していこう。ありがたいことに、このバブル高だ。いくらでも売れるし、素晴らしい高値で現金を手にすることができる。
たっぷりと現金を抱えて、来るバブル崩壊を待つのだ。まだまだマーケットはバブル高を続けるのではとか、もう少し高値が期待できるのではといった甘い願望は一切なし。とにかく、バブル高からはおさらばしておく。もちろん、現在進行中のバブルがいつ崩壊の途に就くかは神のみぞ知るところ。バブル崩壊はいつ頃かといった予測などに時間やエネルギーを費やすなど、全くもって無用である。

考えれば分かる。株価の上昇期待も、この水準からはあってもせいぜい5%とか10%ぐらいだろう。一方、バブル崩壊ともなれば、あっという間に30~50%の暴落は必至。皆が売り逃げに走っているから、もはや持ち株を売ろうにも売れない。今のバブル高値が嘘だったかのような、ひどい投資損を抱え込むことになる。
債券の場合は、もっと悲惨である。ゼロ金利ないしマイナス金利となっている世界の債券市場において、ここからの高値など望むべくもない。つまり、投資収益の期待などゼロ以下なのだ。そんな世界の債券市場だ、いざバブル崩壊ともなれば総売りの地獄と化す。債券価格の下落は流通利回り、つまり長期金利の急上昇を誘引する。それが債券のさらなる売りと、収拾のつかないような株価ならびに金融商品全般の下落を招く悪循環となっていく。
現金化しておいた強み
そんな売り地獄の修羅場と化した世界の金融マーケットだが、われわれ本格派の長期投資家は早い段階から利益確定を急いだ。それが功を奏して、バブル崩壊の痛手は軽微で済む。それどころか、保有している現金でバブル崩壊による安値を好きなだけ買える。売りが殺到し収拾のつかなくなっている株式市場で、これはと思う企業の株式をよりどりみどりでバーゲンハンティングするのだ。
機関投資家を含め多くの投資家が売り逃げに走っている中、こちらは余裕しゃくしゃくの買いを入れる。えらい違いである。それもこれも、バブル高のマーケットに最後まで付き合うことなく早めに売り上がっていたからのこと。われわれ本格派の長期投資家は、バブル崩壊を軽微の痛手でやり過ごす。そして手にしていた資金で総売りのマーケットで優良銘柄を底値買いするのだ。これぞ筋金入りの長期投資家の真骨頂である。
機関投資家をはじめ多くの投資家はバブル相場を最後まで踊り続けた結果、バブル崩壊の痛手をもろに食らっている。売るに売れない暴落相場で、投資損や評価損は見る見る膨れ上がっていく。暴落相場で全く身動きが取れなくなっている彼らからすると、好き放題にバーゲンハンティングしている長期投資家はさぞやうらやましかろう。もちろん運用成績でも決定的な差がついてしまう。
長期投資家は何を買う?
先にも書いたようにわれわれはバブル高の様相が色濃い銘柄は片っ端から売り上がっていった。一方、バブル高とはそれほど縁がないと思える銘柄は、そのまま手元に残しておいた。ここが株式投資と債券投資との最大の違いである。債券は金利裁定の金融商品の典型であって、いざ売りが始まるや、全ての債券が値下がりする。株式のように大きく売り込まれる銘柄と、さほど売られない銘柄とに分かれることはない。
長期投資家の狙いはまさにそこである。バブル相場の渦中でもあまり騒がれなかった企業の株式は、売らずに保有を続ける。そういった銘柄はさしてバブル買いされてこなかったこともあって、バブル崩壊後の売り圧力は限定的となる。つまり、それほど大きくは下げないから保有し続けて構わない。
そしてバブル崩壊後は、投げ売りが出てこないが故に、暴落相場でも生き残った投資マネーの買いが集まる展開となる。もちろん、われわれ長期投資家のバーゲンハンティング対象ともなる。これがバブル崩壊後しばらくすると必ず発生する一部の株式のV字形急騰である。われわれ長期投資家はごく自然体で株価急騰を満喫できる。
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年にあえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
[日経マネー2021年12月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/10/21)
価格 : 750円(税込み)
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