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決算は3つのポイントを見る 会計士が基本と応用を解説

プロとスゴ腕に学ぶ企業決算の読解術(上)

3月期企業の決算発表が本格化している。コロナショックの影響などで業績が大きく変わる企業もあり、分析には注意が必要だ。今回の決算を読み解く際の留意点を、プロやスゴ腕の個人投資家に解説してもらう。初回は、公認会計士のレクチャーを通して企業決算の基本的な見方をおさらいした上で、深読みのポイントを見ていく。

株価の推移は、短期では曲折はあっても、中長期では企業の成長に連動する。利益が増え続けて成長が持続すれば、株価は上昇する。業績が不振に陥れば、逆に下落する。株価の先行きを見通すためには、企業の利益の伸びや業績の好不調を表す企業の決算情報を読みこなすことが欠かせない。

そこでポイントとなるのが、決算の読み取り方だ。実は企業決算の数字の表れ方は、業種ごとに特性があったり、個々の企業の経営環境に応じて異なったりする。こうした点を考慮せず、一律に同じ見方をしていては、企業の経営状況の実像を把握できない。読み方の基本を押さえた上で、企業の業種や経営状態に応じて深読みすることが必要だ。まずは決算の基本的な見方を押さえよう。

3項目の重要指標を確認

植松亮さん 公認会計士・税理士。大手監査法人などを経て、植松公認会計士事務所を設立し独立。著書に『個人投資家のための銘柄選びに差がつく! 決算書の読み方』(アルケミックス)がある

公認会計士の植松亮さんは、仕事で多くの企業の決算書を読み、それを通して培った決算分析のノウハウを自身の株式投資にも応用してきた。決算は①成長性②収益性③安全性――の3つのポイントで見るのが基本だと話す。

1番目の成長性は、本業の儲けを示す営業利益とその源泉である売上高の推移を時系列で見て、増加が続いているかどうかを確かめる。

下のグラフは、100円ショップを展開するセリアの売上高と営業利益の推移を示したものだ。営業利益とその源泉である売上高が共に右上がりで増え続けているのが一目で分かるだろう。高い成長性を維持している証拠だ。

次に、2つ目のポイントの収益性は、営業利益を売上高で割った売上高営業利益率と当期純利益を自己資本で割った自己資本利益率(ROE)を見る。「ROEは10%以上が一つの目安だ」(植松さん)

一方、売上高営業利益率の水準は、業種によって良好とされる水準が異なる。「同業他社と比べることが必要だ」と植松さんは語る。

例えば、アルツハイマー型認知症治療薬の開発が注目されている製薬大手のエーザイ。同社の2020年3月期の売上高営業利益率は18.0%。一般的な目安の10%を超えて高い水準にある。ところが同業他社の数値を見ると、塩野義製薬の39.1%(20年3月期)を筆頭に大きく上回る会社が数社ある。

一方、ドラッグストア大手のマツモトキヨシホールディングスの売上高営業利益率(20年3月期)は6.3%。10%を大きく下回るが、同業大手の中では最も高い。こうした業種による違いを踏まえて初めて、「『あの会社は小売業の割に収益性が高い』『この会社は製薬にしては利益率が低い』といった判断ができるようになる」(植松さん)。

3つのポイントの最後の安全性は、売上高有利子負債比率継続企業の前提に関する注記営業活動によるキャッシュフロー(営業CF)――の3つを確認する。

売上高有利子負債比率は、企業の規模に比べて借金が多過ぎないかどうかを見る指標だ。有利子負債を売上高で割って100を掛けて算出する。「一般には40%以下が望ましい」と植松さんは話す。

継続企業の前提に関する注記は、企業の事業存続が危ぶまれるリスクがある場合にそれを開示するもの。この注記がある場合は投資に慎重になることが必要だ。

キャッシュフロー(CF)は、企業の事業や投資で得られた収入から外部へ支払った支出を差し引いて、手元に残る資金の動きを示すものだ。営業CFのほかに、投資活動によるキャッシュフロー(投資CF)財務活動によるキャッシュフロー(財務CF)がある。営業CFは、本業によるキャッシュ(現預金)の増減を示す。プラスだと収入が支出を上回って利益が出るので、プラスで推移している方がいい。

なお、3つのCFのバランスは、本業の営業活動でキャッシュを稼いで営業CFがプラス、設備投資などの支出が資産の売却などの収入を上回って投資CFがマイナス、借金の返済や配当の支払いで財務CFがマイナスの形が一般に理想とされる。セリアの場合は理想的な形になっている。

ただし、成長に必要な投資のために借り入れを増やす企業の財務CFはプラスになるなど、実際には業種や企業自体の経営環境に応じて望ましい形は異なる。次のグラフは、19年12月に新興企業向け市場の東証マザーズに上場したマクアケのCFの内訳だ。

同社は、インターネットを介して不特定多数の人々から少額ずつ資金を調達するクラウドファンディングのプラットフォーム「Makuake(マクアケ)」を運営する。そのCFのバランスは、積極的な投資で営業CFだけでなく財務CFもプラス、投資CFがマイナスという成長企業に典型的に見られる形になっている。

右のグラフは、「いきなり!ステーキ」などのステーキ店を展開しているペッパーフードサービスのCFの内訳を示したもの。同社は業績不振に陥り、決算に継続企業の前提に関する注記が付いている。同社のCFのバランスは、本業の不振でキャッシュの流出が止まらず営業CFがマイナス、債務が膨らんで資産の売却が続くために投資CFと財務CFはプラスという業績不振企業の典型な形だ。

大企業では一工夫が必要

この他、複数の事業を手掛けていたり、海外にも展開したりしている大企業の場合は、事業別地域別といったセグメントごとの売上高や営業利益の推移を確かめる工夫が必要になる。 

次のグラフは、キヤノンの各事業の営業損益の推移を示したものだ。かつては稼ぎ頭だったデジタルカメラなどの「イメージングシステム」、事務機器の「オフィス」の2事業の利益が縮小し、17年12月期から2期連続で増益だった「産業機器その他」も再び失速。新たな収益源として注力している「メディカルシステム」も伸び悩み、収益構造の転換が進まずに収益性が低下している様子が浮き彫りになっている。

業種の特性に応じた決算の勘所を探し出す

植松さんは先に売上高営業利益率について「同業他社と比べることが必要だ」と指摘した。「決算の分析では、業種の特性に応じたポイントを探し、それを重点的に見ていくことが大切だ」と強調する。

では、業種ごとの決算の特性はどうしたら分かるのか。「業種のビジネスモデルを理解して、利益の源泉となる重要な資産や指標が何かを考えることが鍵になる」と植松さんは続ける。

例えば航空会社は、1機当たり数十億~数百億円の航空機を調達して、それを運用することで収益を得ている。そのため、航空機が重要な資産になり、決算書では有形固定資産の金額が大きく膨らむ。航空機の調達費用を長期借入金で賄うので、有利子負債の金額も多くなる。さらに、計画的に航空機を入れ替えるため、設備投資もかさみ、それも有形固定資産が膨らむ要因になる。

このような業種の特性を踏まえた上で、次に同業種の企業の間で業績に差が生じる要因について考えていく。その結果、航空会社の場合は、「航空機の保有数」「航空機の質」「資金調達の方法」「運航路線の採算性」「接客などのサービスの質」といった様々な要因が思い浮かぶはずだ。

これらの要因を念頭に置きながら、決算書や決算書以外の開示情報に目を通して、それぞれの要因の状況を分析していく。そうすれば、ある会社が同業他社に比べてどの要因で優位に立ち、どの要因で劣っているのかが分かり、会社の経営状態を深く理解できるようになるという。

営業利益と営業CFの照合も重要

さらに植松さんは「難度は高いが、売上高、営業利益と営業CFとの照合が重要だ」と指摘する。「増収増益にもかかわらず、営業CFが減少している場合は、何らかの問題を抱えていると考えられるからだ。増収増益なのに資金繰りに行き詰まって倒産する黒字倒産のリスクもある」

黒字倒産が起きるのは、手形による決済などを通して、商品やサービスを提供した時点と代金を受け取る時点とにタイムラグが生じるためだ。損益計算書に売り上げは計上されても、実際には代金は回収できていない。その間に仕入れや給与などの支払いが滞れば、黒字にもかかわらず倒産する事態が起きる。その兆しを察知するためにも、損益計算書だけでなくキャッシュフロー計算書もチェックして、資金繰りが悪化していないかどうかを確認するといい。

ただし、ここでも例外がある点に留意したい。例えば、戸建て住宅を除く建設業では、工事代金の回収は建築物の引き渡しから数カ月後になるのが通例だ。そのために、営業CFが営業利益を下回って推移することが多い。また、成長の初期段階で売り上げが急速に伸びている会社にもそうした傾向が見られる。ここでも、業種の特性や個々の企業の経営環境を勘案する必要がある。

(中野目純一)

日経マネー 2021年6月号 ここから上がる最強の日本株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/4/21)
価格 : 750円(税込み)
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