保有特許に注目 食感・味の改善を競う「食料品」企業
工藤特許探偵事務所

この連載では、技術の経済的価値を示すYK値(下囲み参照)の過去2年間の変化率に着目し、業種ごとに成長企業を紹介している。今回取り上げる分野は「食料品」だ。
食べることは人類普遍のテーマ。食品会社は現在も新技術でしのぎを削っている。注目されているのは、加工食品の技術だ。特に食味の改善や利便性の向上などに関する技術の特許出願が多い。中小企業では食品用原材料の技術開発も活発だ。また、新型コロナの影響で外食から中食・内食へとシフトしている社会状況は食品メーカーに新商品開発の機会を増やしている。以下、YK値の成長率が高い技術成長銘柄を紹介する。
1位は昭和産業。製粉・油脂大手で、穀物取扱高は国内食品メーカーの中でトップ級。食用油や粉製品を中心に食品材料を提供している。近年は東南アジアなど海外にも積極的に展開している。技術成長の観点でトップの企業だが、保有技術に比べて株価が割安な技術割安銘柄でもある。
競争力が高まっているのは、製パン用の食品材料など食品製造の基礎に関わる分野。既に国内トップクラスのシェアを誇るが、今後は技術力を生かして海外市場でさらなる成長を果たしていくことだろう。
2位のミヨシ油脂は、食品用原材料と化成品を強みとする。マーガリンなどの食用油脂と油化技術を利用した化成品が主力。自社製品のトランス脂肪酸の低減にも取り組む。この2年で食品用原材料では保形性に優れたホイップクリームなどに関する特許のYK値が伸びた。また、化成品では繊維の吸水性能を高める薬剤に関する特許が伸びたが、これは紙おむつやマスクなどへ応用できるもの。培った技術を水平展開して積極的に製品領域を拡大している点を評価したい。
3位は伊藤ハム米久ホールディングス。食肉加工品の大手。2016年に伊藤ハムと米久が経営統合。近年は環境負荷の少ない植物由来の代替肉にも注力している。伸びたのはやはり食肉加工品関連の技術だ。特に、肉の食感を保ちながら調味肉(調味料などを染み込ませた肉)や食肉製品を製造する方法に関する特許がYK値を大きく押し上げた。手軽に上質な肉料理が食べられることは消費者にとって大きな魅力。同社のシェアもさらに伸びていくのではないか。
4位のニップンは製粉と加工食品を手掛ける企業。加工食品では特にパスタ関連に強い。ヘルスケアやバイオ関連にも進出し、事業の幅を広げている。製粉と加工食品の両面でYK値が成長したが、特に注目したいのは、食感や食味を改善したパスタソースや麺類などに関する特許だ。カルボナーラソースなどに限定した特許もあり、味へのこだわりが強く感じられる。
今回紹介した4銘柄以外では、即席麺の先駆者であり、かつトップシェアを誇る日清食品ホールディングスや、冷凍野菜に強みがあるニチレイ、ミドリムシ関連製品で著名なユーグレナなどが食料品分野の技術優良銘柄として挙げられる。絶え間ない技術開発により、食品の質向上を追求する企業群。引き続き注目したい。
YK値とは? 技術力(特許価値)で成長株を探す方法
YK値は工藤一郎国際特許事務所が開発した指標で、出願された特許に対する閲覧請求や無効審判など、ライバル企業が特許の内容を調べたり、無効にするために弁理士に支払った費用から算出する。弁理士コストは50万~100万円程度、訴訟を含めた場合は数百万円程度であり、YK値はこの金額を基準として算出する。なお、実際の手続きには弁理士コスト以外も必要で、全体では弁理士コストの10倍、数千万円程度になることもある。ただし、全体のコストと弁理士コストはおおむね比例するため、弁理士コストから技術の価値は推定できる。YK値は特許価値評価ウェブサービス「PATWARE」で参照可能。


[日経マネー2021年8月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
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