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投資の目的は早期リタイア 若年層にじわり拡大中

FIRE達成への道(上)

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写真はイメージ=PIXTA
まとまった資産や十分な副収入を手に入れ、早く会社を辞めて自由に生きたい……。サラリーマンの多くが一度は思い描くであろう「脱サラ」の夢。米国でも「アーリーリタイア」は今も昔も成功者の証しだ。そんな早期退職が今、「FIRE」という新たな名前を得て若者たちの熱い視線を集めている。その実情と、実際に若くしてFIREを果たした人たちの資産形成方法やライフスタイルを3回にわたり紹介する。

自由のためなら質素な暮らしや軽労働はいとわず

FIREとはFinancial Independence, Retire Early(経済的に自立し、早く引退しよう)の頭文字をつなげた米国発祥の言葉だ。厳密な定義はないが、給与収入の大半を貯蓄や手堅い投資に回し、必要最低限まで生活費を絞り込んで、40代前後など早期のリタイアを目指す。退職後もシンプルに暮らし、自分のペースで働けるなら働くことも厭わない――というイメージだ。

出世と引き換えに60歳までの時間を会社に捧げるのではなく、一生遊んで暮らせる大金を稼ぐことを人生の目標にするのでもなく、自分の生活や家族との時間を優先してシンプルに暮らしたいと考える米国のミレニアル世代(1981~96年生まれ)を中心に熱い支持を集めつつある。

最近では、昔ながらのアーリーリタイアのように、投資収益だけでのんびり暮らす「Fat FIRE(豪勢なFIRE)」や、投資収益が少ない分をアルバイト等の収入で補う「Side FIRE(サイドビジネスでFIRE)」といったバリエーションも誕生。医療保険が高い米国では、保険に加入する権利を得るために、コーヒーショップでパートのバリスタ店員などとして軽い就労を続ける「Barista FIRE」というFIREスタイルも登場している。

このFIREブームは日本の個人投資家の間にも着実に浸透しつつある。表は投資をしている会社員に「投資の目的」を尋ね、その答えを年齢層別にまとめたものだ。

全体の1位は「老後資産づくり」だが、若くなるほど投資の目的を「早期リタイア」に据える会社員の比率が増えていることが分かる。

FIRE達成に必要な資産は?

FIRE達成の鍵を握るのは「お金をかけない生活」と「辞めても困らないだけの資産」だ。実際、20~30代でFIREを達成した人には、徹底した節約生活で投資資金を捻出して、早期に資産を築いたケースが少なくない。お金をかけずに暮らすスキルは、FIRE達成のためにも、FIRE達成後の生活のためにも重要だ。

ところでFIREをするには最低限、どのくらいの資産が必要になるのだろう。米国で多くのFIRE志願者が見積もりの参考に使っているのが「4%ルール」だ。これはトリニティ大学の教授が発表した退職後のお金についての研究結果で「トリニティ・スタディー」とも呼ばれる。

リタイアした時点で、手元資金を運用しながら一定割合で引き出す場合、何年持つかを、過去の米国株・債券の値動きを用いて検証した研究だ。それによると、年間生活費の25倍をリタイア資金として用意し、これを米国株のインデックス連動型ETFに50、米国債に50の割合で運用すると、ここから年4%ずつ生活費を引き出しても、30年間は枯渇しない可能性が高いという。30年以上持たないと困るという人もいるだろうし、この4%ルールは日本の税制も為替も考慮していない。とは言え、一つの目安にはなりそうだ。

単身者35歳が完全リタイアするには1億円必要

日本でのFIREにはいくら必要なのか。生活経済研究所長野所長の塚原哲さんの力を借りて試算してみた。

大手メーカーに勤める会社員が定年前に会社を辞め、働かずに100歳まで生きるとしたら生活費がいくら不足するかを計算し、 これに予備費として退職時の年収を加えた額を「FIRE目標額」とした(試算の前提条件は文末に掲載)。

結果は独身者が35歳でFIREする場合の目標額は約1億2000万円、50歳の場合は約6200万円、50歳妻子ありの場合は約9900万円だ。

塚原さんは「若くしてFIREを目指す人は、高齢期の支出をあまり考えていないことが多い。試算では75歳で施設に入居するものとした。単身者は老後資金を考慮しておいた方がよい」という。また高齢期になると賃貸住宅を借りるのは難しいのが現実。試算では住宅購入も前提条件としている 。

一見、達成は厳しそうな金額だが、「生活費のパラメーターを変えれば、 目標額はいくらでも変えられる。 生活費を絞り、住居も安い中古マンションなどにすれば、FIREも意外とリアリティーがあるなというのがシミュレーションを終えた感想」 (塚原哲さん)とも。

実際、FIREの難易度は、年収、退職時の年齢、生活水準、扶養家族や住宅ローン、相続財産の有無といったその人の属性・環境によってかなり左右される。それでも、専業主婦(夫)の配偶者と子、そして住宅ローンを抱え、一見すると給与収入だけでは早期リタイアするのは困難に見える人でも、投資の成果によってFIREを実現した人はいる。次回は投資でFIREを達成した人の実例を紹介する。

FIRE目標額試算の前提条件
・年収: 516万円( 30歳の時)~830万円( 60歳の時)のペースで昇給
・貯蓄:29歳時点で669万円(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査[単身世帯調査]」(2019)、年収 300万~500万円の人の平均貯蓄額を採用
・資産運用:前年の貯蓄の半分を運用に回す
・住居: 持ち家( 30歳の時にローンで購入)、 75歳で施設に入居(月20万円)
・退職金:企業型確定拠出年金、月5.5万円拠出、70歳一括受け取り

(本間健司)

[日経マネー2021年9月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年9月号 年後半の上昇期待株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/7/19)
価格 : 750円(税込み)
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