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公的年金の目減り 2~3年の繰り下げ受給でカバーも

ニッセイ基礎研究所上席研究員・中嶋邦夫さんに聞く

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人生100年時代を迎え、終身年金である公的年金の重要性がますます高まる一方、若い世代を中心に「年金不安」も増大している。将来の年金額はどうなるか、年金制度はどう変わるか。ニッセイ基礎研究所・上席研究員の中嶋邦夫さんに見通しを聞いた。

――新型コロナウイルスの感染拡大がもたらした経済危機で、公的年金にどのような影響がありましたか。

未曽有の事態によって、年金も大きな打撃を受けたのでは、と心配する人も多いでしょう。ただ、企業が倒産したり、社員の給料が減ったりすると将来の年金の給付も減るので、年金財政への長期的な影響は中立です。一方で、超金融緩和による株高で、積立金の運用は絶好調。トータルで考えると、年金財政はコロナ前よりも改善しているといえます。

――出生数が年間80万人割れの予測になるなど、一段と少子化が進んでいるのも気掛かりです。

確かに出生率の低下が進んでいますが、2017年の厚生労働省の予測でいえば、現状は中位と低位の間ぐらいの水準。予測を超えるほどの低下ではなく、過度に心配する必要はないでしょう。

ただ、足元の低下傾向がコロナ禍の産み控えによる一時的なものなのか、趨勢として続くのかは注視する必要があります。出生率の低下は、マクロ経済スライドの調整期間が延びるリスクになります。

――将来の年金額はどれぐらい減ると予測されていますか。

厚生労働省が2019年に公表した財政検証の経済前提を基に、独自に試算しました。将来の経済が「やや悲観」(財政検証のケースⅣ)の場合、現在の年金額に比べて、今50代の人は約1割、40代の人は約2割、30代以下の人は約2~3割、目減りする予測になります。

特に、年収が低い世帯ほど目減りが大きくなる点に注意が必要です。これは、厚生年金よりも基礎年金の方が将来の目減りが大きく、基礎年金の割合が高い低所得層が影響を受けるためです。

受給を2〜3年繰り下げれば回復

――年金の目減りに対し、どのように対策すればいいでしょう。

現実的な対策の一つが「繰り下げ受給」です。 年金の受け取り開始を65歳から遅らせると、1カ月につき年金額が0.7%増えます(最低でも12カ月の繰り下げが必要)。現在からの目減りが2割程度であれば、受給開始を2~3年繰り下げれば取り戻せます。

また、60歳以降も働き続けることや、基礎年金だけでなく厚生年金に加入することも重要になります。例えば、夫が平均年収500万円、妻が平均年収100万円(基礎年金のみ)で20歳から40年間勤務した世帯を考えましょう。65歳から受け取れる年金額は夫婦で月21万6000円です。これを、夫が60歳から年収300万円で5年間追加で働くと月22万2000円に、妻が平均年収106万円で厚生年金に加入して40年間働いていた場合は月23万4000円にそれぞれアップします。

22年4月から本格的に施行される年金制度改正法は、「高齢期就労の阻害防止」や「厚生年金の適用拡大」などが大きな柱になっていて、こうした動きをサポートするものです(下表)。

――結局、60歳を過ぎても働き続けなければいけないのですね。

今後、日本の人口の約4割が65歳以上になります。子供が約1割と考えると、国民の半分が働かない国はあり得ないでしょう。イヤかもしれませんけど、働かなければいけない時代になるでしょうね。

基礎年金の給付水準維持の対策に注目

――今後の年金改革の見通しは。

一番の課題は、基礎年金の水準低下への対策です。先述の「やや悲観」のケースでは、マクロ経済スライドによる調整が厚生年金は2030年に終わるのに対し、基礎年金は53年まで続きます。その結果、基礎年金の目減りが続き、低所得層ほど苦しくなります。

この対策として、厚労省が20年12月に公表した「追加試算」が注目されます。これは、基礎年金の保険料支払いを65歳まで延長すると同時に、マクロ経済スライドの終了時期を厚生年金とそろえるという案です。これが実現すると、年金の給付水準が総じて上がると共に、全ての人の減少率が同じになります。

ただ、21年9月に田村憲久前厚労相がこの案について記者会見で言及した際、厚生年金の積立金の一部を財源として活用する考えを示したため、ネットを中心に炎上する事態になりました。

これについては、誤解も多いと思います。まず、基礎年金の水準が上がれば、結果的にほとんどの会社員世帯の年金額も増えます。会社員世帯にも恩恵の大きい案なのです。また、保険料アップなど、追加負担が発生するものでもありません。何より、現行制度では低所得層ほど将来不利になってしまうことを考えると、大いに検討に値する案といえます。

(聞き手は市田憲司)

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