「火災保険で無料修理」の宣伝に要注意 トラブル急増中
生保損保業界ウオッチ

先日、知人宅に不動産業者の紹介で自称コンサルタントなる人物がやって来ました。そのコンサルタント氏曰く「火災保険を使えば無料で建物を修理できる。(被災の)ストーリーはこちらで作る」。
言うまでもなく、火災保険は偶然な事故や風水災が原因の損害をカバーするもの。被災による損害でなければ補償は受けられません。
すがすがしいほど堂々と出任せを披露されると、こちらも二の句が継げませんが、これは事実を捻じ曲げて保険金をだまし取る「保険金詐欺」。立派な犯罪です。
発覚すれば、契約者が損保会社から保険金返還請求を受け、契約を解除されるだけでは済みません。契約者自身が詐欺罪を問われ、刑事事件になる可能性もあるのです。
「タダ」より高いものはない
「保険金詐欺」とまでいかなくても、「火災保険で無料修理」をうたう業者との契約トラブルが近年激増しています。国民生活センターと全国の消費生活センターに寄せられた相談件数は、風水災が多かった2019年度には、東日本大震災前の24倍にも上りました(グラフ参照)。

業者は被災地に限らず現れ、電話が掛かってきたり、チラシもまかれたりします。「無料点検実施で3万ポイント付与」「キャンペーン期間」とウェブサイトでお得をあおる新手の業者もいます。無料ならと応じた結果、「保険金の3~5割の手数料を請求された」「業者の見立てと異なり、損害の原因は老朽化で保険金が支払われなかった」「不審に思い契約破棄を申し出ると、高額の違約金を求められた」などのトラブルが起きています。
そもそも保険金を支払うのは業者ではなく損害保険会社。保険金の対象になる損害なのか、保険金がいくらになるかは損保会社の調査結果次第であり、業者には決められません。「損保会社は保険金を出し惜しむ」「損害調査は一度しか行われない」などと損保会社への不信感をあおり、契約を結ばせようとするケースも耳にしますが、損保会社の調査は当然、根拠に基づき行われます。調査結果に納得できない時は、契約者は再び調査を受けることもできます。契約者も根拠に基づき、再度調査を依頼すればよいだけのこと。
住宅の無料点検と保険金請求サポート、あるいは請求サポートと住宅修理を一連で行う業者もいます。なかには無料点検と言いながら、「作業前に契約を強要された」「解約を申し出ると高額な違約金を請求された」、あるいは「廃材などを使ったずさんな住宅修理をされた」などの事例もあります。
やはり、タダより高いものはありません。損害を受けたら、まずは契約先の損保会社へ連絡をしましょう。安易に契約するのは避けるべきでしょう。
うっかり契約してしまったら、クーリングオフの利用を検討しましょう。特定商取引法では、訪問業者等に対し消費者への書面交付を義務付けています。書面を受け取った日から8日間以内は消費者が一方的に契約を破棄でき、工事開始後も代金が戻されます。
学生時代から生損保代理店業務に携わり、2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。翌年、生活設計塾クルー取締役に就任。『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。財務省「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」委員。社会福祉士。
[日経マネー2021年6月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/4/21)
価格 : 750円(税込み)
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