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米中対立で進む半導体供給網の再編 日本にメリットも

エミン・ユルマズの未来観測

コロナ沈静化が国内消費の追い風に

日本が9月、新型コロナウイルスのワクチン接種率で米国を逆転しました。コロナ感染の波はおよそ4カ月に1回のペースで来ており、年末に「第6波」が発生する懸念は残るものの、接種の進展に伴い感染者の山は低く抑えられるでしょう。国内消費にとっては大きな追い風になりそうです。

その意味では、自民党の岸田文雄新総裁の誕生は良いタイミングでした。菅義偉前政権時は、政府の需要喚起策「Go To」キャンペーンの迷走が指摘されたり、東京五輪・パラリンピックの開催に批判的な見方が集まったりしましたが、これは感染拡大に歯止めがかからなかったことが要因です。ワクチン接種が進んだことで、現政権下では経済政策に注力できるようになりました。10月1日には緊急事態宣言と「まん延防止等重点措置」が全面解除され、旅行やホテル、外食、エンターテインメント業界の回復が期待できます。株式市場では割安に放置されてきたこれらの関連銘柄が魅力的となりそうです。

米国と中国が抱えるリスク要因 

国内で懸念材料が少ない中、引き続きリスク要因とされているのは米国と中国の問題です。

米国では、米連邦準備理事会(FRB)が9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、テーパリング(量的緩和縮小)を年内に始める方針を示しました。背景には、物流の停滞や人手不足など供給制約に伴うインフレの加速があります。

足元では、原油などのコモディティー(商品)価格の他、船の運賃も高騰しています。PPI(卸売物価指数)の伸び率も市場予想を上回っており、物価の上昇は今後も続くと思われます。

一方、米国がテーパリングを開始し、2022年中にも利上げに踏み切れば、金融環境が引き締められ、将来の景気減速につながりかねません。

中国では、9月に不動産大手、中国恒大集団の経営危機が表面化。同社の過剰債務問題は中国の不動産バブルへの懸念を高めました。格差是正を掲げる習近平(シー・ジンピン)指導部にとって不動産価格の高騰は容認しにくいこと。恒大の資金繰りが世界的に問題になる中でも、中国政府は事態収拾に向けた方針を示していません。対応次第では、中国経済が低迷期に入る可能性があるでしょう。

株式市場では、恒大の債務問題を巡る不安が一旦後退したとの見方がありますが、これは一時的な「リリーフ・ラリー(安堵感からの相場上昇)」にすぎません。08年の米投資銀行リーマン・ブラザーズ破綻のように金融危機の引き金となる可能性はゼロではありません。

米政府は08年、破綻の危機に直面した米証券大手ベアー・スターンズを救済しました。しかし、米国株の買い戻しは長くは持ちませんでした。ウォール街批判が強まったことで政府はリーマン・ブラザーズの公的支援を断念。世界的な金融危機に発展したからです。今回の恒大問題も何らかの金融危機の兆候となっている可能性があります。

半導体分野は重要な焦点に

米中の問題で忘れてはならないのが、両国の覇権争いです。この問題が特に影響を与えたのは半導体のサプライチェーン(供給網)でしょう。

米国は半導体の供給網から中国を締め出し、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)や、中国最大のファウンドリー(半導体受託生産会社)、中芯国際集成電路製造(SMIC)は大きな打撃を受けました。一方、対抗する中国は、巨額の補助金を投じて半導体の国産化に乗り出しました。世界で半導体の需給が逼迫する中、同国の存在感は強まっています。

半導体が使われているのは自動車や電子機器だけではありません。半導体技術は軍事分野にも転用されています。両国にとって譲れない重要分野であることは間違いありません。

半導体生産技術で最も先行する企業はファウンドリー世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)です。中国が台湾を巡る情勢で優位に立とうとし、米政府がTSMCに米国内での製造を要請したのは、最先端の製造工場が台湾に集中しており、米中の覇権争いの生命線となっているからです。

台湾問題以外では、中国の新疆ウイグル自治区の人権侵害もリスクでしょう。米国は強制労働が疑われる同自治区産の綿製品などの輸入を禁止しました。価値観の対立でも米中は譲歩せず、デカップリング(分断)が止まらないとみています。

分断が日本にもたらすメリット

サプライチェーンの再構築は、実は、日本にとってプラスの面ももたらしています。日本と米国、オーストラリア、インドの4カ国の首脳は9月に共同声明を発表し、半導体などのサプライチェーン確保や高速通信規格「5G」展開で協力する姿勢を示しました。米国は中国からの輸入を減らす代わりに、ハイテク製品に技術力がある日本からの調達を増やす可能性が高いでしょう。

既に医療分野では、先進するインドを代替先にしています。同国内で景気回復期待が高まっていることも働き、インドの代表的な株価指数であるSENSEXは9月、初めて6万を付けました。

米中の対立が深まる中、長期的には防衛関連の重要度は増すでしょう。日本の株式市場で割安の水準で推移する関連銘柄は、買いのチャンスかもしれません。

エミン・ユルマズ 
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。

[日経マネー2021年12月号の記事を再構成]

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