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コロナ禍で変わる株主総会 有望株見極めの好機に

スゴ腕個人投資家の株主総会活用術(上)

消毒を呼びかけるなど、感染対策をして行われたトヨタ自動車の株主総会(6月16日午前、愛知県豊田市)
個人投資家が企業の経営陣に会って質問もできる株主総会。スゴ腕の個人投資家たちはその機会を上手に生かし、投資の判断に結び付けている。新型コロナウイルスの感染対策でネット配信が広がるなど、今年の株主総会には大きな変化が生じている。そうした中、スゴ腕たちは変化にどう対応しているのか。コロナ禍における彼らの総会活用術を取材した。

株式会社の最高意思決定機関である株主総会。1年に1度開く定時株主総会では、企業の経営者が1年間の事業状況を報告し、株主が経営の重要事項を決議する。

株主総会は、株主が企業の経営陣に直接会って話を聞き、質問もできる貴重な場でもある。投資判断の変更につながる有用な情報を得られることも多い。そのため、スゴ腕の個人投資家たちは、株主総会に積極的に参加している。

その株主総会の開催の仕方が大きく変わり始めている。きっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大だ。感染拡大防止の観点から、株主にインターネットによる議決権行使を促して来場の自粛を要請したり、抽選制などで入場を制限したりする動きが広がっている。

オンライン配信に不満の声

来場の代替手段として注目されたのが、総会の模様をオンラインで同時中継する「バーチャル株主総会」だ。会場で進行する総会を視聴するだけの「参加型」とオンラインで質問や議決権行使もできる「出席型」の2種類がある。

コロナ対策でバーチャル株主総会を実施する企業が急増。3月期決算企業の株主総会が集中する今年6月には、前年同月の3.5倍の318社が実施を予定している(東京証券取引所の調べ、6月13日時点)。

バーチャル株主総会ついては「ネット配信で参加しやすくなった」との声が聞かれる一方で、「臨場感がない」といった意見もある。夫と共に主に投資だけで生活している女性優待株投資家、mtipsさん(ハンドルネーム)は昨年、ソフトバンクサンリオの株主総会をネットで視聴した。「会場で社長のプレゼンテーションや質疑応答を見聞きするのとは臨場感が違う。全くもって物足りない」と話す。

株主の来場抑制の一環で会社説明会、懇親会やお土産の中止・廃止も拡大。それらを楽しみにしている個人株主からは、不満や落胆の声が上がっている。

コロナ禍で株主総会の開催方式が様変わりする中、今年3月にはエポックメーキングな事件も起きた。創薬ベンチャーのラクオリア創薬の株主総会で、筆頭株主の個人投資家、柿沼佑一さん(本業は弁護士)の株主提案が可決されて経営陣の刷新が実現したのだ。この結果は、企業の個人株主対応に一石を投じた。

コロナ禍で控えていた総会参加を再開

来場自粛を呼びかける企業の動きに加えて3回の緊急事態宣言が出されたこともあり、スゴ腕たちも会場に足を運ぶ株主総会の数を絞っている。mtipsさんは20年に60社の株主総会に参加。参加回数は、19年(89社)の3分の2に減少した。

割安成長株投資で約3億円の運用資産を築いた専業投資家のアイルさん(ハンドルネーム)。このスゴ腕投資家は、20年に15社の株主総会に参加した。この数は例年(50社以上)の3割。この6月に開催されている株主総会も、厳選して会場に足を運んでいる。

逆張り投資を主軸に3億円以上の資産を稼いだ専業投資家の内田衛さんは、コロナショック後は控えていた株主総会の参加を今年再開した。「コロナ禍で深刻な打撃を受けた外食の現状を知るため、5月27日にDDホールディングスの株主総会に参加した」と明かす。

一方、3億円を超える資産を運用する専業投資家のろくすけさん(ハンドルネーム)は、19年に勤務先の上場企業を退職してアーリーリタイアを果たしたのを機に積極的に参加。19年は12社、20年は17社の株主総会に参加した。「来場を抑制する企業がある一方で、総会を株主との交流の場として重視し、感染防止策を徹底して会場で開く企業も少なくない。今年は、株主総会の開き方で企業の株主に対するスタンスを見極める好機になる」と指摘する。

ソフトウエアベンダーのサイボウズは今年3月に会場と併用でバーチャル株主総会(出席型)を開催。総会の模様を動画投稿サイトで同時配信した

では、株主総会を有効活用する個人投資家は、具体的にどんなメリットを見いだしているのだろうか。5人のスゴ腕の取材から見えたポイントを紹介しよう。

メリット1 社長の人柄やリーダーシップを感じ取れる

通常はめったに会えない投資先企業の社長に必ず会える。5人のスゴ腕たちは全員、このメリットを最初に挙げた。

株式評論家としてメディアで活躍するこころトレード研究所所長の坂本慎太郎さん。Bコミというハンドルネームで1億5000万円を超える資産を運用する個人投資家としての顔も持つこのスゴ腕は、次のように指摘する。「株主総会には、経営者のカラーが濃く出る。議長として総会を仕切る社長の言動を観察すると、人柄や力量が分かる」

特に、社長の人柄やリーダーシップの有無が現れるのが、質疑応答における役員とのコミュニケーションだ。担当役員の回答を自分の言葉で補足する社長は、会社を掌握していると考えられる。逆に回答を役員に丸投げしたり、いちいち担当役員に確認したりする社長は、会社を掌握し切れていないとみるのが妥当だ。

mtipsさんは、社長のプレゼンテーションを注視して手腕をチェックしている。「グローバル企業やIT企業の社長のプレゼンには目を見張るものがある。この人が経営しているなら大丈夫と、銘柄保有の安心感が増す」と語る。

メリット2 企業の体質をうかがい知ることができる

経営者のカラーと同様に、企業のカラーも株主総会には濃く出る。これも5人のスゴ腕たちに共通する認識だ。mtipsさんは「受付の対応など、ささいなことにもその会社のカラーが出る。例えば総会で社員たちの連携がスムーズな会社は、他の部署でも同じだろう。逆に連携がスムーズでない企業では、全社的にそうなのだろうと想像できる」と言う。

「いまだに『異議なし』という声が上がり、拍手が鳴り響く総会がある」と指摘するのは坂本さん。さらに、株主総会の終了後に開く懇親会が「自社のOB株主を接待する場になっている企業もある」とも。「そうした企業の体質には問題がある」とみる。

ろくすけさんも、「『異議なし』の合唱と拍手が響くような総会を開く企業には、社員が自由に意見を言い合う風土はあるのかといつも感じる」と語る。

メリット3 質疑応答で社長や役員に質問できる

「IR(投資家向け広報)の担当者に聞けることには限りがある」と語るのはろくすけさんだ。さらに次のように続ける。「例えば、企業の将来イメージは社長しか答えられない。株主総会の質疑応答では、社長や事業の担当役員だからこそ回答できる質問をするようにしている」

その一例が、2021年4月に開催されたダブルエーの株主総会での質問だ。「オリエンタルトラフィック」ブランドを中心に婦人靴の企画・販売を手掛ける同社は、20年5月に百貨店向け婦人靴メーカーの卑弥呼を買収して子会社化した。卑弥呼は1年で黒字化を達成。ろくすけさんはその秘訣をダブルエーの取締役を兼務する卑弥呼社長の新井康代さんに聞いた。

新井さんは「社内をヒアリングして在庫不足で販売機会を失っていた問題などを把握した。そして社員がやりたかったことをやれる環境を整えた」と回答。それで、卑弥呼が売れ残りを防ぐために、アウトレット品を売る店舗を新設したという事前情報の背景が分かった。「合理的な経営をしていることが分かり、保有に対する自信が深まった」(ろくすけさん)

こうした投資判断に役立つ情報が得られるのは、経営陣からだけとは限らない。専業投資家の内田さんはこんな経験を披露する。

「あるフランチャイズチェーンの株主総会で、株主として参加していたフランチャイズオーナーが不満を述べたことがあった。自分が経営しているフランチャイズ店の近くに本部が直営店を出して、客を奪っているという話だった。フランチャイズビジネスにはそうした問題点があることが分かり、視野が広がった」

メリット4 他の参加者の質問で株主のレベルが分かる

「良い会社にはレベルの高い株主が集まる」とろくすけさんは指摘する。「レベルの高い質問が多く出るのは、長期保有を前提に企業を調べ上げ、そこで抱いた疑問を聞く株主が多いから。そうした企業の株は安心して持てる。対照的に、不平不満ばかりが出る企業の株は売却を検討した方がいい」

坂本さんも、総会に参加している株主の顔ぶれを吟味している。「個人と機関投資家のどちらが多いのか。取引先の人はどれくらいいるのかなどをチェックする。機関投資家が多い場合は、彼らの長期保有で株価が安定することが期待できる。個人でも若い女性が多い場合は、その企業の商品やサービスのファンで株主優待目当ての保有も多いと推測できる。やはり株価の安定が期待できる」

メリット5 投資家としての判断力が磨かれる

5番目のメリットは、株主総会で見聞きしたことを分析して保有の是非を検討することで、投資の判断力を磨けることだ。

19年までは毎年50社以上の株主総会に参加していたという専業投資家のアイルさんは、「総会に参加し続けて様々な経験を積み重ねた。それが色々な形で投資に役立っている」と語る。例えば、総会における言動を継続して見ることで、社長が信用できる人なのかどうかを判断できるようになったそうだ。銘柄を分析している時にも、「あの会社の株主総会で、あんなやり取りがあった」などと思い出し、参考にすることがよくあるという。

mtipsさんは株主総会で企業分析のポイントを学んだと振り返る。「総会の質疑応答で機関投資家などのプロの質問を聞き、彼らの着眼点を学んだ。財務諸表の見方も総会で覚えた。株主総会は株式投資を勉強する最高の場と言ってもいい」と話す。

(中野目純一)

[日経マネー2021年8月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年8月号 コロナ後相場の稼ぎ方&勝負株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/6/21)
価格 : 800円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

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