火災保険料が再値上げ 気候変動の影響ここにも
生保損保業界ウオッチ(損害保険)

2022年10月以降に契約する火災保険は、保険料が引き上げられるケースが増えそうです。損害保険会社が火災保険料のベースにする「参考純率」が21年6月に大幅に引き上げられ、大手損保が火災保険料を見直すからです。
保険料引き上げ後も赤字

業界団体である損害保険料率算出機構が算出する参考純率は、14年以降の5年間で、既に3回引き上げられています。その理由は主に、風水害の保険金支払いが増加したためです。
加えて14年改定では、最長36年間の保険期間が10年間に短縮されました。自然災害の長期的なリスク評価が困難になったためです。19年改定では、住宅の築年数による料率較差も設けられました。古い住宅でより多く損害が発生することが明らかになったからです。
ところが同年、台風15号、19号が襲来し、各地で深刻な被害が発生。支払保険金が2年連続で1兆円を超えるという、過去に例のない事態となりました。
度々改定が行われてきたにもかかわらず、過去10年の火災保険収支はこうして赤字が常態化。巨大災害に備えて積み立てられている異常危険準備金の残高も枯渇状態にあります。
こうして4回目の改定となった今回は、19年度、20年度の保険金支払い実績を踏まえ、全国平均でプラス10.9%と高い引き上げ率になりました。同時に、火災保険期間が最長10年間から5年間に短縮され、長期契約の保険料割引はより縮小します(既に最長5年とする損保会社もある)。
ただ改定率は全国平均で、引き下げられたケースもあります。損保各社はこの改定を踏まえ、さらに自社でかかる営業経費等を加味した上で、独自に火災保険料を決定することになります。
地球規模の急激な気候変動
風水害が度々起こる背景には、世界中で災害を引き起こしている急激な気候変動があります。
国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の21年第6次報告書では、急激な気候変動の原因が人間活動によることに「疑う余地がない」とし、これを受けて脱炭素社会の実現に向けたアクションが世界中で加速しています。それでも40年までに平均気温は1.5度上昇する可能性が高く、10年に1度の大雨が降る頻度は産業革命前の1.5倍と見込まれます。
これでは、今後も火災保険料の引き上げが続くと考えざるを得ません。さらに現在、水災リスクに応じて立地ごとに違う保険料を設ける検討が金融庁で進められており、水災リスクの高い土地の保険料が先々特に上がる可能性も出てきました。
公平性の観点から、リスクに応じた保険料が設定されることは原則ですが、わが国は災害国。生活基盤を守る必需品である火災保険が、加入困難なほど高くなるのは適切とは言えません。そうなれば、加入時の保険料補助など公助も検討されるべきです。火災保険は難しい局面に差し掛かっています。
学生時代から生損保代理店業務に携わり、2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。翌年、生活設計塾クルー取締役に就任。『地震保険はこうして決めなさい』(ダイヤモンド社)など著書多数。財務省「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」委員。社会福祉士。
[日経マネー2022年2月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/12/21)
価格 : 750円(税込み)
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