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好況しか知らない投資家に伝えたいこと(澤上篤人)

「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信創業者

写真はイメージ=PIXTA

投資業界のカリスマの一人、澤上篤人氏が考える長期投資のあるべき姿を、同社最高投資責任者の草刈貴弘氏との対談形式で紹介する。

投資は順風満帆の時だけではないよ

澤上篤人(以下、澤上) ここ数年で投資家の裾野は随分と広がった。これは結構なことだし、この傾向がずっと続いてほしいと思う。その願いを込め、今月は投資を始めて間もない人に改めて投資の心構えについてお伝えしたい。

今、書店には株で大もうけをしたといった内容の投資本がずらりとならんでいるが、その手のサクセスストーリーに触発されて投資を始めた人も多いのではないかな。忘れてほしくないのは、出版ラッシュの背景には世界的なカネ余りが引き起こしている株高があること。ここ数年、マーケットはバブルと言っていい状況になっている。

草刈貴弘(以下、草刈) 新聞の広告欄に投資本の広告が増えたら気を付けろ、という格言めいたものもありますよね。

米国の株式市場は、数度の調整はありましたが、リーマン・ショック以降、ほぼ右肩上がりという上昇相場が続いています。SNS(交流サイト)では「投資でもうけるのは簡単」といった個人投資家による強気の発言が目に付きますが、これだけ右肩上がりの相場が続けば、そう思ってしまうのも仕方ないですよね。

澤上 あえて言っておきたいのは、「投資環境なんて、いとも簡単に変わるよ」ということだ。株式を含め、相場というものは買い手が増えればどんどん上がっていくが、一旦、売りとなれば、売りが集中して一挙に下がる。

現在進行中の世界的な株高も、いつ大きく崩れるか知れたものではない。数年にわたるバブル相場で買われてきたのだから、売りとなれば、反動ですさまじい暴落相場となることは十分に考えられる。

草刈 自由競争が行われる資本主義経済下では、好況期と不況期が交互に訪れます。対をなすように金融市場では金利が上下します。景気が過熱すれば金利が上がり、冷え込んできたら金利が下がる。いわば景気の自動調整機能です。

株式や不動産も同様で、市場での自由な取引によって適正な価格が決まり、結果として経済が回っています。この「価格発見機能」は市場の果たすべき最も重要な役割です。ところが、リーマン・ショック後に世界の中央銀行が始めた未曽有の金融緩和と、これに拍車を掛けたコロナショックが、この重要な機能をマヒさせてしまいました。

つまり現在の株価は、価格発見機能が壊れた市場で値付けされたものです。もし市場が正常化したらどんな値が付くのでしょうか。

澤上 こういう話をすると、経験の浅い投資家は不安になるかもしれないな。バブル株高の熱気に誘われて株式投資を始めてみたものの、買った銘柄は大きく値下がりしてしまった。さあ、どうしようか?

草刈 ある著名エコノミストが興味深いリポートを書いています。日本の投資家を投資を始めた年代別に分けて分析し、名前を付けているのですが、平成バブルの頃に投資を始めた世代を「トラウマ世代」、平成バブル崩壊後から2002年ごろに始めた世代を「氷河期世代」と命名しています。

トラウマ世代はバブル崩壊で投資はこりごり、氷河期世代はバブル崩壊の影響が残る中、就職氷河期にも見舞われたという趣旨です。私は氷河期世代に該当するのですが、妙に納得してしまいました。

リポートは03年以降に投資を始めた世代を「トラウマから解放された投資に前向きな世代」と分析していますが、ここから急激な調整に入ってしまったら、新たなトラウマ世代が生まれかねませんね。

澤上 いざ株式市場が暴落を始めたからといって、そこで泡を食ってはいけない。長期投資では、マーケットの暴落の前後にどういった投資行動をするかが決定的に重要となる。

高値は追わず、調整で逃げない

澤上篤人氏(写真:竹井俊晴)

澤上 具体的に言うと、ちょうど今のようなバブル株高局面では、ここで買ってさらなる株高を期待するようなことを長期投資家はしない。むしろ、いつ始まるか分からない暴落相場を警戒し、それほどバブル買いされてこなかった銘柄群に投資対象をシフトしておく。

投資で成功する鍵は、大きな下げを食らわないこと。早め早めの売りに徹し、決して上昇相場を最後まで追い掛けないことだ。

草刈 いかにして市場に残り続けるかが重要ですよね。「チャートを見て上値を追い掛ける、上昇トレンドの時は早く降りない(売らない)こと」を是とする投資指南をあちらこちらで見掛けますが、いつがピークかなんて誰にも予想できません。規律を持って行動すべきだと思います。つまり、確実に利益を確定して次の原資にする。

澤上 「バブル高値で売って現金をたっぷりと抱えておく。そして、株式市場の暴落を待って、おもむろに買いにいく」といった話もよく聞くが、そんな芸当ができるのは経験を積んだ手だれの投資家だけだよ。大抵の人は暴落相場に直面したら、もう怖くて買えない。

草刈 買えないどころか、手持ちの株すら怖くて持ち続けられないかも。

澤上 あるいは「底値はどこら辺だろう」とか、ああだこうだ言って下げ相場を見守るばかり。なかなか買えないうちに暴落相場は一段落し、反転上昇のきっかけ待ちの様相を見せ始める。

そうなると今度は「ここで買うのは悔しい、もう少し下げたところで買おう」と、ようやく下値に買い注文を入れ始める。これを安値覚えと言うが、結局、買えないまま上昇相場に乗り遅れてしまう。

草刈 下げ相場で動けない人は2種類ですよね。株価の基準がなかった人と基準が厳し過ぎた人。基準が厳し過ぎた人は、基準を改めれば次の下落相場をものにできるかもしれませんが、そもそも基準がない人は投資の検証すらできない。

ニュースや勘に頼った投資では、後々、なぜ、その株価で買ったのかも分かりません。結局は似たような失敗を繰り返し、退場を迫られるか、退場に至らずとも、成功もしないので自ら撤退するかのいずれかになってしまう。

そうならないためにも信頼できる投資先に長期でコツコツと資金を投じることを勧めたいのです。長期の積み立て投資を続ける中で、自分なりの投資との付き合い方を模索し続ければ、無駄な時間も省けますし、リスクも抑えられます。

澤上 そうだね。大事なのは「マイペースの投資をリズム良く続けること」なのよ。経験の浅い投資家の皆さんは、日々の相場動向とは付かず離れずというスタンスを守り、安ければ買っておく、高くなれば、早めに売り上がるという自分なりのリズムを確立してほしいな。

澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年にあえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘(くさかり・たかひろ)
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。
草刈貴弘氏(左、写真:竹井俊晴)

[日経マネー2021年11月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年11月号 上昇期待の好業績株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/9/21)
価格 : 750円(税込み)
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