バフェットも狙う優良株の条件 参入障壁の「堀」とは? - 日本経済新聞
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バフェットも狙う優良株の条件 参入障壁の「堀」とは?

ろくすけさんの勝てる株式投資入門(11)

株式投資で3億円を超える資産を築き、アーリーリタイアしたブロガーのろくすけさん(ハンドルネーム)。会社員投資家の夢を実現した実在のスゴ腕投資家が、会話形式のフィクションストーリーを通して、株式投資の取り組み方やノウハウをやさしく解説していきます。
●ろくすけ 実在する本連載の著者。人気ブログ「ろくすけの長期投資の旅」を運営(容姿は本人と変えています)。
●ゴロー 大学院を修了後、化学メーカーに就職して1年目の青年。旅先で出会ったろくすけさんに師事するという設定。
●ナナコ ゴローの妹。大学で経営学を専攻している。兄と一緒にろくすけさんに株式投資の基本を学ぶという役どころ。

米国の著名投資家、ウォーレン・バフェットの購入対象になるような「素晴らしい企業」。その条件の1つが、堅固な競争優位性を持って参入障壁を築いていることだと教わったゴローとナナコ。今回は、企業が参入障壁を築くパターンを学んでいきます。

ゴロー 「堀」と呼ばれる参入障壁があると、「あの企業と戦っても到底勝てない」と競争相手が戦う前に諦めてしまう。戦わずして勝つという点は、中国の兵法書『孫子』の有名な一説を思い出します。

「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」

ナナコ 出た! ろくすけさん、アニキは鉄道だけでなく、古典もマニアなんですよ。でも、戦わずして勝てれば、競争相手との値下げ合戦に陥らずに済むので、企業は大きくもうけられそうです。

ろくすけ 堅固な競争優位性を持って築かれた参入障壁のことを英語では「エコノミックモート」、直訳すると「経済的な堀」と呼ぶんだ。この経済的な堀として5つの典型的なパターンがある。今回はそれを1つずつ説明していこう。

堀のパターン1 ブランドなどの無形資産で参入を防ぐ

ろくすけ 1つ目は、無形資産で他社の参入を防ぐパターンだ。無形資産には特許やブランド、行政の許認可といったものがある。いずれも、企業が独自の地位を確立することに結びつく。

ゴロー 就職活動をした時に研究したのですが、特許によって独占的な地位を築いている企業といえば、製薬会社が代表ですよね。薬になる物質の特許を取得することで、その薬の製造・販売を独占できますから。ただ、特許で独占販売できるのは10年程度で、失効した後は同じ成分を使用した後発医薬品(ジェネリック医薬品)を低価格で専門メーカーが出してくるので、売り上げが急減します。

ろくすけ そうだね。だから製薬会社は新薬を出し続けていかないと売り上げを維持することができない。そうした開発力が備わっているかどうかがポイントになる。

ナナコ ブランドについては、大学の授業でブランドを持つ企業の製品やサービスに対し、ユーザーが強いロイヤルティー(愛着感)を抱いているかどうかがポイントだと習いました。講義の中で強力なブランドを築いている例として紹介されたのが、テーマパークの「東京ディズニーランド」を運営するオリエンタルランドです。ディズニーランドのファンが強いロイヤルティーを持っているから、値上げが度重なっても、リピーターが減らないという説明でした。

ろくすけ アトラクションやイベントを追加して、「夢と魔法の王国」の魅力を進化させ続けているからね。だから、ファンは値上げを受け入れる。このようにブランドを磨き続けて独自の魅力を絶えず高めていかないと、独自の地位を維持していくことは不可能だ。単にブランドとして知られているだけでは、競争優位を保てない。

ブランドについてさらに補足すると、抜き難い習慣というものも強いブランドにつながる。君たちにも日ごろよく買う飲料や日用品があるだろう?

ゴロー 僕は毎日、伊藤園の「お~いお茶」を買っています。

ろくすけ そのように消費者が繰り返し買ってくれる製品を持つ企業も、安定的に利益を上げられる。行政の許認可で独占的な地位を築いている例といえば、携帯電話会社が挙げられるね。許認可が壁となって新規参入が困難になっているわけだ。一方、法改正でルールが突然変更されたり、自社だけのビジネスを展開しにくかったりといったデメリットもある点は要注意だ。

堀のパターン2 スイッチングコストが高い

ろくすけ 次に進もう。2つ目のパターンは、「スイッチングコスト」が高い状態だ。これは、自社の製品やサービスのユーザーが容易に他社のものに乗り換えられない状況を指す。だから、高い値付けも可能になる。代表例が米マイクロソフトのアプリケーションソフトだ。なぜだと思う?

ゴロー ユーザーがエクセルやワードに慣れ切っているからでしょうか。別のソフトの操作を覚えるのも大変です。そのソフトで作成した文書が蓄積されている点も大きそうです。エクセルで作ったデータを活用できなくなったら、仕事に支障が生じます。

ろくすけ そうだね。機能に満足していなくても、使い続けざるを得ない域まで達している。

もう一つ例を挙げよう。連結会計・連結決算を行うためのシステムを開発・販売しているアバントは、顧客企業のグループ会社から集まるデータを基に、顧客企業の経営判断を支援する分析ツールを使いやすい形で提供したり、決算作成作業のアウトソーシング(外部委託)を引き受けたりして顧客企業との関係を強化し、スイッチングコストを高めている。それで、利益の安定性と成長性の両方を追求できているんだ。

このように顧客が特定の商品やサービスの代替品を探し出すのが困難なケースは、スイッチングコストの一種である「サーチ(検索)コスト」が高い状態になる。

ナナコ 自社のことをアバントがよく理解しているから取り換えられない。かかりつけの医者や行きつけの美容室のようです。

堀のパターン3 ネットワーク効果を発揮する

ろくすけ 3つ目のパターンは「ネットワーク効果」と呼ばれるものだ。利用者が増えれば増えるほど、特定の製品やサービスの利便性が増して価値や効用が高まる現象を示す。クレジットカードがその典型だ。カードの決済を利用する消費者や企業が増えるほど、使える範囲が広がって利便性が増し、利用者はさらに増える。このネットワーク効果は、先のマイクロソフトのアプリやLINEの対話アプリ、メルカリのフリーマーケットアプリにも当てはまる。

この他にも、中古車のオークション会場を運営するユー・エス・エスが思い浮かぶね。同社は、青空駐車場などで人力による競売を行っていた中古車オークションに、建物の中でコンピューター制御による効率的な競売を行うシステムを導入したんだ。

するとシステムの利便性が好感されて中古車がどんどん出品されるようになり、落札したい人も集まるようになった。それを見てさらに出品者が増えるという好循環が生まれ、圧倒的なシェアを獲得した。

ゴロー そういう状況を他社がひっくり返すのは難しそうですね。

ろくすけ ユー・エス・エスの好循環は、革新的なシステムの導入とオークション会場の全国展開の相乗効果によってもたらされた。こうしたケースでは、製品やサービスの認知度を高めるために広告宣伝などのコストが先行し、赤字になることも多い。その先に黒字に転換できるかどうかを見極めることが大切だ。この点も覚えておくといい。残る2つのパターンは次回に説明しよう。

(次回に続く)

今回のまとめ 企業が参入障壁を築く方法には典型的なパターンがある

[日経マネー2021年2月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年2月号 2021年は最強日本株で勝つ!

著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/12/21)
価格 : 750円(税込み)
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