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中小企業の活性化が日本経済復興の近道(澤上篤人)

「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信会長

写真はイメージ=PIXTA

投資業界のカリスマの一人、澤上篤人が考える長期投資のあるべき姿を、同社最高投資責任者の草刈貴弘氏との対談形式で紹介する。

変わりつつある地方の中小企業

澤上篤人(以下、澤上) 今回はコロナ禍からの経済復興と中小企業の位置付けを考えてみたい。日本経済を地下の岩盤のように支えているのが中小企業だ。そこが元気であり続けてもらうこと、それこそが日本の経済復興の鍵となる。

草刈貴弘(以下、草刈) コロナ禍によって世界経済は大きな打撃を受けています。ここからの復興を考える際、日本では地方と中小企業にフォーカスして諸問題の解決を図るべきだと思います。

日本では就労者の約70%が中小企業で働いています。大都市に比べて中小企業が多い地方に限れば、その割合は8割を超えるといわれています。

つまり日本にとっては、中小企業が元気なことが何より重要なのです。会社が大きくなり、生産性が上がり、賃金が上がれば、日本全体の消費の活性化にもつながる。

ところが現状は、この循環がうまく機能せず、ただただ厳しい消耗戦を強いられています。特に地方は顕著です。仕事は減り、賃金は上がらず、都市部へと人材が流出し、それにつれて地域の消費も小さくなるという負のスパイラルに陥っています。

消費の規模だけでなく、働き手の減少にも備えなければならないことを考えると、地方における投資(設備・研究開発)と人材育成は急務ではないでしょうか。

澤上篤人氏(写真:竹井俊晴)

澤上 確かに日本の中小企業の現状を俯瞰(ふかん)するとそんな感じだね。ただ、生産性の向上という点については、それほど簡単な話ではない。

これまでの日本は大企業を中心に経済を運営してきた。脆弱な中小企業はずっとピラミッド構造の最下部に組み込まれてきたという事実は忘れてはならない。いわゆる、下請けの孫請けとか、その孫請けといった地位だ。

大半の中小企業や町工場は部品などの生産を大企業から委託されるが、どれも賃仕事で価格決定権などない。むしろ、買いたたかれ続けてきた。これでは、生産性など上げようがなかった。

ただ、経済のグローバル化やネットの普及によって、大企業の支配力は随分緩んできている。この流れに乗り、自助自立の精神で独自の経営にかじを切る中小企業があちこちで出てきている。彼らの収益力は驚くほど高い。ドイツなどでよく見られる、小粒でもピリッと辛いサンショウのような中小企業が続々と出現している。

草刈 下請けでは駄目だと気付いて経営方針を変え、自力で市場を切り開く中小企業は増えていますね。

今はBtoBであろうとも国境をまたいだビジネスが簡単にできます。むしろ国内だけで大丈夫だと考えている企業の方が危うい。

経営のかじ取りを誤れば、大企業でもあっという間に没落する時代です。10年前までは超優良、一流とされるグローバル企業だったのに、今は事業を切り売りして生き残りを図っているといった事例はいくらでもあります。実は大企業にも下請け、サプライヤーの面倒を見る余裕などないというのが本当のところでしょう。

だからこそ、中小企業はとがった製品やサービスで勝負しなければならないはずです。デジタル化の進展で、経営をサポートする多くのサービスが低廉かつ存分に使えるようになっています。あらゆるリソースを総動員、フル活用して生産性の向上も図ってほしいものです。

市場もライバルもグローバルの時代

澤上 中小企業の経営を語る際は、生産性の高低で一概に切り捨てるのではなく、「何とかやっていけるのか、否か」という物差しも大事だと思うよ。地味な経営ながら、安定した雇用を地域に生み出しており、無くなったら地域社会が困るといった中小企業は地方にいくらでもある。

そういった企業は、自分で食べていけているだけで十分。存在自体が地域経済の基盤であり、存続だけでも立派なものだと高く評価されよう。

草刈 もちろん全ての企業に生産性を上げろというのは酷な話だと思います。ほどほどでよい企業もあるでしょう。地域の中小企業で、自社の周辺だけが商圏なら、物理的距離という壁が商売を守ってくれるかもしれません。ただ、ネット社会の今はそれすら危うい。

モノづくりであれば競争はグローバルになります。コストのみならず、あらゆる土俵で勝負に勝たなければなりません。それには付加価値を高めること、効率を上げることの両面から生産性を上げる必要があります。そして規模を拡大し、交渉力を高めることも重要になるでしょう。

それができれば逆にチャンスです。販路は世界に広がります。そのような企業が地方に続々と出てきてくれれば、新たな雇用が生まれ、投資が行われ、人が集まり、消費が生まれる。このような循環が必要なのだと思います。

ゾンビ企業には退出を迫ろう

澤上  そのあたりは全くの同感だよ。実際、元気のある地方企業は草刈が言うように、ネットなどを駆使して販路をどんどん広げている。

ただ、ずっと地域経済の活性化を手伝ってきた経験から言わせてもらうと、多くの地方企業が自助の意識を欠いているのが実情だ。その欠如ぶりは目を覆いたくなるほど。利権絡みの商売で何とか食いぶちにありつけるから潰れていないという惨状だ。税金で食って安穏としていて、それが地域の雇用を守っていることになっている。何ともおかしな図式だが、なかなか崩れない。これは日本社会の根っこの問題でもあるな。

草刈 確かに雇用を守るという名目で税金が無駄に使われているというケースは多いですね。リーマン・ショック時の中小企業の返済猶予しかりですが、今回のコロナ禍でも、公的融資制度で事業資金として貸し出されたお金が、一部の中小企業オーナーのぜいたくに消えているという話も耳にします。

市場が備える淘汰機能をマヒさせた上に、ばらまきのような大ざっぱなセーフティーネットを用意したら、経済が活力を取り戻せるはずがありません。

復興に際しては、お金をばらまくだけではなく、職業訓練や教育投資の充実を前提に労働市場を活性化させて、金利や市場が持つ競争原理の正常化を図る必要もあると思います。

澤上 そうだね。コロナ禍を奇貨としてゾンビ企業には退出していただく。金利を正常化するだけでもその多くは淘汰されていくはずだ。その横で、自助自立の気概を持つ地方の中小企業を応援することが日本再生への近道かもしれないな。

草刈貴弘氏(左、写真:竹井俊晴)
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘(くさかり・たかひろ)
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2021年4月号の記事を再構成]

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