保有特許に注目 技術を伸ばす「卸売業」の成長株
工藤特許探偵事務所

技術の経済的価値から有望銘柄を探す「工藤特許探偵事務所」。その価値を示すYK値(下囲み参照)の過去2年間の成長率が高い銘柄を、業種ごとに紹介している。今回取り上げる業種は「卸売業」だ。
一見、特許とは縁遠い業種にも思えるが、流通システムは重要な技術分野の一つ。関連特許も多い。特にIoT(モノのインターネット)やビッグデータを活用した在庫管理システム、物流システムなどの領域では各社が技術開発にしのぎを削っている。また近年は自社製品を作るための製造部門を擁する商社も多い。医療や食品を扱う商社の一部では技術開発も活発で、高度な製造技術を持っていることは珍しくない。以下、YK値成長率上位の4銘柄を紹介する。
第1位はメディパルホールディングス。医薬品卸の最大手だ。近年は製薬企業の新薬開発に投資してリターンを得つつ、新薬を優先して販売する事業なども展開する。強みとなっている配送管理システムに関する特許でYK値を伸ばしている。同社のシステムは配送効率が高いだけでなく、配送中の薬品の温度管理やトレーサビリティーにも優れる。今後の市場拡大が期待されるバイオ医薬品や再生医療関連製品には高度な温度管理が必須。この配送システムを活用し、同社は堅実に業績を伸ばしていくだろう。
第2位の因幡電機産業は配線器具や産業機器を取り扱う商社。中期経営計画の重点施策として自社製品の開発・拡充や首都圏市場シェア拡大などを挙げている。近年は自社製品である振れ止め金具に関する技術を伸ばしている。これは吊り下げ式の空調などに用いる金具で、簡単な施工で地震対策ができるというもの。大規模地震や首都圏での直下地震への警戒が高まる中、耐震施工の需要は今後拡大すると考えられる。本製品の将来も有望だろう。
第3位はスズケン。医薬品卸大手の一角で薬品製造も手掛ける。保険薬局事業や介護事業も展開する。韓国や中国などアジアでの事業にも注力する。製造では様々な形の錠剤を造る製剤技術に特徴がある。医薬製剤に関する特許と、医薬品の在庫管理システムに関する特許でYK値が上昇している。メーカー機能と商社機能の両面で技術力を高めており、今後の活躍が期待できる。
第4位の日本ライフラインは医療機器などを手掛ける商社。心臓ペースメーカーなど循環器系を得意としており、カテーテルや人工血管などは自社製品も手掛ける。近年は自社製品の温度センサー付きカテーテルに関する技術力を伸ばしている。これはカテーテルの先端にレーザーなどを付けて手術する際に、患者を傷付けないように温度を監視するもの。安全性の問われる医療分野での需要は多いと考える。
今回は卸売業ながら自社で製品を作り、その技術を磨いている会社が目立った。販売・流通網と企画・開発力は車の両輪だ。その点でも技術力を伸ばしている卸売会社は注目できよう。今回紹介した4銘柄以外では、医薬品外観検査システムに強みを持つ第一実業、傘下の食品関連事業で高い技術力を持つ三菱商事、医薬品卸大手で医薬製造も手掛けるアルフレッサ ホールディングスなども技術優良銘柄として挙げられる。
この連載では、企業が保有する特許(=技術力)に着目して有望銘柄を発掘する。「企業が保有する特許の経済価値(技術力)の総和と時価総額(株価)には相関がある」という仮説に基づき、成長株を探していく。
YK値とは? 技術力(特許価値)で成長株を探す方法
YK値は工藤一郎国際特許事務所が開発した指標で、出願された特許に対する閲覧請求や無効審判など、ライバル企業が特許の内容を調べたり、無効にするために弁理士に支払った費用から算出する。弁理士コストは50万~100万円程度、訴訟を含めた場合は数百万円程度であり、YK値はこの金額を基準として算出する。なお、実際の手続きには弁理士コスト以外も必要で、全体では弁理士コストの10倍、数千万円程度になることもある。ただし、全体のコストと弁理士コストはおおむね比例するため、弁理士コストから技術の価値は推定できる。YK値は特許価値評価ウェブサービス「PATWARE」で参照可能。


著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/10/21)
価格 : 750円(税込み)
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