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米株高、随所に潜む急落リスク 強気すぎる個人に警戒

エミン・ユルマズの未来観測

ロイター
混迷を深める世界経済や国際秩序。時代の先を読み解くヒントを、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏が独自の視点から解説します。

米バイデン政権誕生以降、株式市場は株高に沸いています。金融緩和の継続によるカネ余りに加え、新政権がコロナ禍への対応として打ち出す1.9兆ドル(約200兆円)の経済対策への期待があるからです。

1月5日の米ジョージア州の上院選決選投票の結果、大統領と上院・下院の多数派が全て民主党となる「トリプルブルー」となり、経済対策をはじめとしたバイデン大統領が望む政策が通りやすくなったのは確かです。ただ、大型経済対策やカネ余りへの期待に依存した足元の株高には、危うさもあるように思えます。

新政権で米国の経済政策は大転換へ?

まず重要なのは、今回のバイデン大統領就任は、米国の経済政策の大きな転換点になり得るという点です。米国はレーガン政権から始まる40年間、企業や家計の減税や規制緩和を軸とする経済政策を重視してきました。マクロ経済学的には、供給側(サプライサイド)に立った政策とも言えます。

これに対し、バイデン政権は富裕層増税と最低賃金の引き上げといった格差の是正を強調しています。いわば需要側(デマンドサイド)に立った政策です。必然的に新政権は大きな政府を志向するようになるでしょう。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

この変化はマーケットに対してはネガティブです。特に新政権が打ち出す経済対策第1弾に最低賃金の引き上げが含まれたという点は無視できません。ただでさえ財政赤字の拡大懸念で長期金利が上昇している中で、インフレ圧力を一段と強めかねないからです。

また、インフレが進めば米連邦準備理事会(FRB)内に量的緩和縮小(テーパリング)を主張する声も強まってくるでしょう。仮にこれが実行されれば、今の株高を支えるカネ余りという大前提が崩れる可能性があります。

FRBのジェローム・パウエル議長は早期のテーパリング実施に否定的な姿勢を崩していません。ただ、市場の自律性を重視するジャネット・イエレン財務長官は、長期金利の上昇とそれに伴うドル高をある程度黙認するでしょう。インフレと景気の過熱をどこまで容認するのか、FRBは難しいかじ取りを迫られることになります。

もちろん、バイデン新政権がコロナ禍をどこまで収束できるのかという点も不透明です。コロナワクチン接種のペースは当初見込みより大幅に遅れています。1日当たりの新規感染者数は峠を越したものの、依然世界最悪の水準です。こうした状況下で再び感染が拡大傾向になった時、政権が全米の都市封鎖(ロックダウン)に踏み切るような事態となれば、楽観は急速に薄れることになるでしょう。

危うい個人投資家の強気

もちろん、こうした懸念が全て現実のものになるかは分かりません。トリプルブルーとはいっても、上院における民主党と共和党の議席数は同数であり、法案を通すには共和党の一定の協力が不可欠です。大規模経済対策にしても、内容や規模については変更が加えられる可能性はあります。

ただ、市場はショックに弱い構造になっているように見えます。そう考える理由の一つは、個人投資家が強気に傾き過ぎていることです。コロナ禍に伴う給付金を元手に投資を始めた彼らは、米テスラを中心としたグロース(成長)株やビットコインといった暗号資産(仮想通貨)に資産を振り向けています。SNS(交流サイト)に端を発したゲームストップ株への投機的取引と、それによる同株の暴騰劇は、個人の強気を象徴するものと言えます。

彼らはより高いボラティリティ(変動率)を求め、リスク性の高い金融商品に向かっています。例えば、米国のオプション市場において、コール(買う権利)の売買高の約20%を個人投資家が占めているというのは驚くべき現象です。額面が1ドル未満で、店頭市場で取引される「ペニーストック」も個人の人気を集めています。

こうした商品は、値下がりすると一転して暴落に向かう危険性をはらんだ商品でもあります。相場急落局面において、これまでのけん引役だった個人投資家が真っ先に大きな損失を抱えることは十分考えられるのです。

彼らが主な投資対象とするグロース株の優位性も揺らぐかもしれません。気になっているのは米10年物国債利回りと米2年債利回りの差(スプレッド)が拡大していることです。徐々にグロース株の割高さが意識されやすい状況であるのは無視できません。

グロース株相場は「終わりの始まり」へ

私はグロース株優位の相場が実は既に崩れ始めていると感じています。米国を代表するグロース株であるIT大手「GAFAM(グーグル親会社のアルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム、マイクロソフト)」の株価はナスダック総合株価指数を昨夏以降アンダーパフォームするようになっています。相場のけん引役は、既に減速傾向に入っているのです。

同様の現象は、2000年のITバブル崩壊前夜にもありました。当時相場をけん引していたIT大手の株価は、バブルが崩壊した00年末の半年ほど前から下がり始めていたのです。つまり、バブル崩壊を察知した機関投資家は、少しずつマネーを退避させていたというわけです。今回も同様の動きがあってもおかしくはありません。

いつ相場が急落するか、その谷の深さがどれぐらいかは分かりません。ただ、相場急落のリスクが随所にある中、強気一辺倒に傾くのが危ういのは言うまでもありません。相場急落に伴い、グロース株からバリュー(割安)株に物色が向かう局面もそろそろ想定した方がいいように思います。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
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