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バブル崩壊に慌てない投資家になろう(澤上篤人)

「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信会長

投資業界のカリスマの一人、澤上篤人氏が考える長期投資のあるべき姿を、同社最高投資責任者の草刈貴弘氏との対談形式で紹介する。

暴落が来てもうろたえないか?

澤上篤人さん(以下、澤上) そう遠くない未来に訪れるだろう金融バブル崩壊。その時うろたえないためにも、今回は投資家としての覚悟や社会意識といったところを考えてみたい。

リーマン・ショックから約13年半。この間、多くの投資家が市場に参入してきた。そして壮大なカネ余りを背景に、株式市場はバブルの様相を強めている。その金融バブルは、いつ崩れてもおかしくない状況だ。

草刈貴弘さん(以下、草刈) カネ余りバブルと言っても投資に縁のない一般の生活者は実感を持ちにくいでしょうね。何度も警告を発してきた澤上会長は、さらっと「バブルははじける」とおっしゃいますが、ここは重要なポイントだと思います。

現在の超低金利はリーマン・ショックによってもたらされたと言っても過言ではありません。日本は2000年代初頭からずっとゼロ金利だったと思われがちですが、06年に小幅ながら利上げをしています。その後、リーマン・ショックで世界の金融システムが崩壊し、先進国を中心に金融緩和が行われてきました。

米国は一時正常化にかじを切りましたが、コロナショック対応で引き締め分を吹き飛ばす緩和を行っています。結果、生活者が体感している実体経済と金融経済の乖離(かいり)が顕著になっています。

このゆがみを正すには、どちらかが歩み寄るしかありません。実体経済が金融経済の成長に追い付くのが理想でしょうが、金融経済は自己増殖するように膨らみ続けており、追い付けるようには見えません。金融市場の方が縮小して、実体経済の実力値に戻るしかない。

20年末時点の世界の株式と債券発行残高は世界のGDP(国内総生産)総額の2.7倍です。これはITバブル時の2倍、リーマン時の2.3倍をしのぎます。乖離が大きければ調整幅も大きくなりますから、えらいことになりますよ。

澤上 暴落のきっかけは何でもいい。暴落相場の中で多くの投資家が淘汰されていく。その様は、いつのバブル崩壊でも同じだよ。大やられした個人投資家は「もうコリゴリだ」とつぶやきながら市場から去って行く。バブルに踊ってきた企業や金融機関は、巨額損失と売るに売れない含み損の株券を抱え、塗炭の苦しみに喘ぐことになる。

草刈 金融市場で行われたばくちの後始末は、実体経済にも悪影響を及ぼすでしょう。ツケは国民全体に回されます。弱い者がより苦しくなるというこの構図にもやり場のない怒りを感じます。

年金基金が運用する資金は、普通の人々が老後のために営々と積み立てているお金です。そんなお金が金融市場で暴れまくり、結果、資金の出し手である普通の人たちの生活を脅かすことになるのです。

だからといって金融の全てを否定するつもりはありません。金融全般を否定してしまうと、新たな産業は育たないし、経済も成長しません。金融はあくまで道具。トラブルは道具を使う側の問題です。

時代が求める本物の投資家とは

澤上篤人氏(写真:竹井俊晴)

澤上 そこで問われるのが、資金の出し手は本物の投資家なのか、という点だよ。バブル相場に乗って儲けようとしてきた投資家は、個人も機関投資家も、バブルが崩壊すれば戦線縮小を迫られる。大損の後始末に追われたり、撤退を決めたりで右往左往することになろう。

だが我々のような長期投資家にとってはバーゲン・ハンティング・タイムの到来だ。崩壊のかなり前から準備をしているので「待ってました」の買い出動さ。

この違いは、どこからくると思う? 投資観の違いだよ。普通の投資家は、ひたすら値ザヤ稼ぎを狙う。値ザヤさえ稼げるのなら、投資対象は何だって構わない。上昇していれば、そこに頭を突っ込み、どこまでも上昇を追い掛ける。

一方、長期投資家は「より良い世の中をつくっていく」方向で、お金に働いてもらおうとする。この企業をトコトン応援しようというスタンスでマーケットに参加する。

草刈 長期投資と言うと株の保有期間が長い投資だと思っている方が多いですよね。実際、長期保有するわけですが、長期で物事を捉えているという点が重要。

投資先の実質的な価値が長期的に上昇するのか、その価値上昇の源泉は、社会に必要とされている事業なのか……という視点です。

澤上 投資先は社会に必要な応援したい企業だ。皆が株を売っている時こそ応援しがいがあるというもの。だから買いにいく。逆に、皆がガンガンの強気で買っている時は、「応援はしばらく彼らに任せよう」と売り上がっていく。このようなスタンスだから、バブル相場では早めに売り上がり、暴落相場では断固たる覚悟で買い向かえる。

草刈 「応援したい」という思いに加え、実質的な価値という点も重要です。期待値だけが上がっても、期待のままであれば、それは詐欺と変わりません。米血液検査ベンチャー、セラノスのスキャンダルも、実質が伴っていれば問題にはならなかった。

確かに期待値の高いところをうまく渡り歩けば高いパフォーマンスが出ます。しかし実体がないところに投資をするのは、詐欺の片棒を担いでいるのと同じでしょう。最近流行のSPAC(特別買収目的会社)も同様です。何を買収するか決まっていない器に価値を見いだす投資には違和感を覚えます。

澤上 まさに、その通り。売買益という数字だけを追い求める無機質な投資に、実質的な価値なんてはなから念頭にない。今や年金など機関投資家の運用も、数字だけを求めるディーリング主体に成り下がっている。そういった年金の運用担当者には猛省を促したいね。

もっとも来る金融バブル崩壊では、年金運用の成績がガタ落ちするだけでなく、運用ポートフォリオ全体がズタズタになる。それこそ暴力的に年金運用システムの見直しが迫られよう。

一つだけ、例を挙げておこうか。最近では、インデックス運用やインデックスの先物が、年金基金の株式運用の主体となっている。インデックス運用では、玉石混交の企業をパッケージにして投資する。バブル崩壊後は石コロ銘柄群が足を引っ張って、パッケージ運用は長く低迷を余儀なくされるだろう。

玉と思える企業群を厳選して投資する我々のアクティブ運用とは、大きな差が出るだろうね。

草刈 いずれにしても早く市場が本来の機能を取り戻し、ゆがみが是正され、経済が健全に成長する状態に戻って欲しいものです。バブル崩壊から力強く再生する経済の姿は、新しい時代の象徴となるのではないでしょうか。

草刈貴弘氏(左、写真:竹井俊晴)
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘(くさかり・たかひろ)
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2021年8月号の記事を再構成]

日経マネー 2021年8月号 コロナ後相場の稼ぎ方&勝負株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/6/21)
価格 : 800円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

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