日本株「一極集中相場」の裏にあるもの
広木隆のザ・相場道
2020年を通した日経平均株価の騰落率は13%(本稿執筆時の2020年12月25日時点)だった。コロナ禍という災厄に見舞われた年の株価としては上出来と言えるだろう。ただ、これを「日本株が上がった良い年だった」と総括できるだろうか。
よく指摘されるのが、「一極集中相場」が顕著だったことだ。例えば日経平均の騰落率トップ5銘柄を除いた残り220銘柄の年初来リターンを単純平均すると、何とマイナス7.9%である。
ここで押さえたいのは、「平均」には3つの測定法があるということだ。平均値(average)、中央値(median)、最頻値(mode)である。
3つの平均にみる日経平均の真実
平均値は全ての数字を足して全体の個数で割って求める。このため、飛び抜けた値が含まれると平均値はその異常値に引っ張られてしまう。日本企業のサラリーマン100人の中に、米テスラのイーロン・マスクや米アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスを入れて「平均年収」を算出すれば、ゆがんだ値となるのは想像に難くない。
中央値は文字通り真ん中の値だ。日経平均の年初来リターンの順位から見ると、113位のソフトバンクがそれに該当する。同社の年初来リターンはマイナス11.9%で、これが中央値になる。
最頻値はデータの中で最も多く観察される値だ。年間リターンを10%刻みで度数分布を見ると、マイナス10~マイナス20%の分布が51銘柄で最も多い。その前後を含めた0~マイナス30%の領域には、225銘柄の約半分に当たる116銘柄が含まれる。つまり、日経平均採用銘柄の過半の銘柄がマイナスリターンだったわけだ。

そして、日経平均が13%上昇したというのは、「騰落率が飛び抜けて高い一部の銘柄に引っ張られたゆがんだ結果」と結論付けるのは、半分正しく半分正しくない。確かに先に挙げた例のように、極端な値が平均値を引き上げてしまうことはある。しかし、日経平均では上位5銘柄による平均値の引き上げはそれほど大きくないのだ。
上位5銘柄を除いた220銘柄の年初来リターンを単純平均するとマイナス7.9%だが、上位5銘柄を入れた225銘柄全ての年初来リターンの単純平均もマイナス5.5%とやはりマイナスだ。
世界同時進行する株式市場の二極化
なぜこんなことが起きたのか。それは一定の処理を加えた上で株価を平均して算出したものが日経平均だからだ。つまり、「225銘柄の年初来リターンの単純平均」と、「日経平均の年初来リターン」は違う。従って、どうしても株価が高い銘柄が日経平均に与える寄与度は大きくなるのだ。
例えばファーストリテイリング1銘柄の寄与度は10%もある。20年は、日経平均への寄与度が大きいこうした値がさ株のパフォーマンスが飛び抜けて良い年だった。
騰落率上位の銘柄は軒並み寄与度が大きい。騰落率トップのエムスリーは寄与度ランキング5位、騰落率4位のソフトバンクグループは寄与度ランキング2位。騰落率6位の東京エレクトロンは寄与度で3位だ。指数への寄与度が大きい銘柄が飛び抜けて高いリターンをマークしたことが日経平均の高いリターンの要因と言えよう。

ともあれ、20年の株式相場は二極化相場だったことは確かである。そうなった背景はやはりコロナ禍だろう。米国のIT大手企業群「GAFAM」を考えれば分かりやすい。コロナ禍で社会のデジタル化が進み、GAFAMはますます優位な立場になった。日本でも騰落率上位にはデジタル関連や巣ごもり関連銘柄が並ぶ。
一方、下位にはコロナ禍で苦戦を強いられている鉄道や空運、オフィス関連などが並ぶ。だが、コロナ禍がなかったとしても二極化相場にはなっていただろう。なぜなら、インターネットで様々なコストが低下し参入障壁が低くなった結果、多くのモノやサービスはあっという間にコモディティー化していくからだ。よほどユニークなビジネスモデルでない限りは生き残れない時代であり、コロナ禍はそれを加速させただけと言える。
二極化相場の流れはデジタル化や規制改革でさらに進むだろう。投資家の観点からは、勝ち組を選択すれば大きなリターンが得られる状況だ。今はパッシブ運用が全盛だが、アクティブ運用の魅力が高まる素地は整っている。
2万6000〜2万8000円
【ここに注目】
1月下旬からの4~12月期決算で上方修正が相次ぐ。ここで日経平均はもちあいを上に放れる。


著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2020/12/21)
価格 : 750円(税込み)
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