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高まる米インフレ圧力、警戒は必要か

広木隆のザ・相場道

金融市場でインフレ懸念がくすぶり続けている。きっかけは、5月半ばに発表された4月の米CPI(消費者物価指数)が、前年同月比4.2%上昇と、市場予想(3.6%)を大幅に上回る高い伸びとなったことだ。だが、この数値が新型コロナウイルスの感染拡大が引き起こした「異常値」であることを忘れてはならない。

4月の米CPI上昇は一時要因にすぎない

第1に、昨年の今頃は新型コロナの影響で経済が完全にストップし、指数が大きく落ち込んでいた。当時と比べれば物価が上がるのは道理である。前年比べースの上昇率が特に高くなりやすいこの状態は「ベース効果」と呼ばれるものだ。

第2に、4月のCPI上昇の最も大きな要因とされる中古車価格の高騰は一種の「特需」であり、いずれ平常に戻る可能性が高い。中古車の値上がりの理由は半導体不足で新車生産が減少したことに加え、コロナ感染を嫌い公共交通機関を避けるために、自家用車のニーズが高まっていることにある。感染が落ち着けば、その特需は剥落していくだろう。

第3に、人手不足に伴う米国の賃金上昇は一時的で、長くは続かない。米連邦政府はコロナ対策の一環で、失業保険の上乗せ給付を9月まで延長。賃金の安い仕事に就くより失業保険をもらった方がよいとなれば、労働市場に人は戻らない。しかし足元では上乗せ給付を打ち切る州が相次いでおり、この先、米国経済が正常化すれば、給付延長はない。低賃金でも就職しないと無収入となれば、失業者が労働市場に戻り平均賃金に低下圧力がかかる。工場などの製造業に人が戻り、供給不足が解消に向かえば物価全般が下がるだろう。

こうした見方はだいぶ浸透し、金融市場は、CPIの発表直後に比べれば幾分落ち着いてきたようにも見える。しかし、懸念材料が全て解消されたわけではない。例えば足元のインフレの要因とされる供給制約はいつ解消されるのか、答えはそう簡単には見いだせない。背景には構造的な変化があるかもしれないからだ。国際政治による様々な制限(ハイテク製品・通信サービスに関連する取引など)、金融緩和による資産価格の上昇、サプライチェーン(供給網)やライフスタイルの変化など新型コロナが生み出した社会変化は実に多い。

米国のテーパリングは最速で秋以降か

市場にとっての最大の関心事は米連邦準備理事会(FRB)がいつテーパリング(量的緩和縮小)の議論を開始し、決定を下すかだ。インフレの動向次第となろうが、ここで筆者の結論を示したい。

足元のインフレが異常値である可能性が高い一方、構造的なインフレ圧力も考慮しなければならないとすれば、それらをデータで確認するまでFRBは政策変更の決定はできないというのが結論だ。つまり、最速でも秋以降に出てくるデータを見てからとなるだろう。

もともと、パウエル議長をはじめとするFRBの現執行部は「FEDビュー」の持ち主が多い。「FEDビュー」とは、①金融引き締めを急がない②早く動いて景気回復に水を差すことを嫌う③仮に対応が遅れバブルとなっても、金融引き締めによりいくらでもバブルに対応できる――というスタンスをいう。ちなみにその反対、早期引き締め選好のスタンスは「BIS(国際決済銀行)ビュー」と呼ばれている。

9月に失業保険の上乗せが終了し、10月以降の労働市場にどのような変化が表れるか、FRBは賃金や物価指標と合わせて見ていくことになる。それらの統計が出そろうのは年末近くになりそうだ。そこから本格的な議論を開始すると仮定すれば、テーパリング開始となる場合、2022年4〜6月期以降を見ておきたい。

筆者のこの見立ては市場予想よりかなり後であり、市場はより早期のテーパリングを見込んでいる。仮に早期にテーパリングが開始されたとしても、恐れる必要はない。まずテーパリングは「緩和の縮小」であり「引き締め」ではない。次に、市場は実際にテーパリングが開始される頃にはその材料を十分に織り込んでいるのでネガティブな反応は示さない。実際、14年にテーパリングが開始されると、長期金利は低下し、株価は上昇基調が続いた。金融を正常化できるような経済環境の好転を株式市場はポジティブに評価したのである。それを踏まえれば、やがて実施されるテーパリングも過度な警戒は不要と思われる。

広木隆(ひろき・たかし)
国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。2010年からマネックス証券で顧客向けに情報を発信。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評がある。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。
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