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先行き不透明な日本株 バリュー銘柄に好機か

エミン・ユルマズの未来観測

混迷を深める世界経済や国際秩序。時代の先を読み解くヒントを、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏が独自の視点から解説します。

経済正常化への期待と懸念材料

国内主要企業の2021年3月期決算発表が一巡し、業績の回復見通しが明らかになりました。ただこの見通しは、「新型コロナワクチンが早期に普及し、経済が正常化する」という前提に立ったもので、楽観的なシナリオだと私はみています。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

日本経済新聞がまとめた3月期決算企業1476社(5月18日までに純利益予想を開示した企業)の集計によると、22年3月期の純利益は前期比28%増の見通しとなりました。36業種中、自動車や鉄鋼など約7割が増益または黒字転換するとみられ、損益改善余地が大きいことがうかがえます。

注意すべきは、これらが外部環境の早期改善期待に基づいた見通しである点です。例えば、ANAホールディングスの業績予想は「ワクチンが普及し、年内に主要各国の出入国規制が緩和される」という想定に基づいています。しかし足元ではワクチンの普及が遅れ、感染第4波の真っただ中です。これまで感染の波はおよそ4カ月置きに到来しており、前例に沿えば、東京オリンピック後の8月には第5波が来る可能性もゼロではありません。予想通りに企業業績が着地するかは不透明なのです。

期待先行で買われてきた日本株

JR東日本が「鉄道を利用する顧客は以前の水準には戻らない」との見通しを示したように、上場企業の経営者は、業績の先行きや事業環境について慎重な姿勢を崩していません。増収増益の見通しを出していても「ピークはずっとは続かない」と発言する経営者もいます。半導体不足や原材料価格の高騰などの懸念材料もあり、リスクは完全に拭い切れていないのです。

企業業績がワクチンの接種状況に左右される現在の状況下では、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に基づく業績相場への移行は難しいでしょう。国内景気が19年のコロナ前水準に戻っていないにもかかわらず、株価は期待先行で買われてきました。仮に見通し通りの業績で着地しても、株価には既に織り込み済みでしょう。海外投資家は、今回の決算発表後に日本株に対する評価を大きく上方修正したとは言い難く、日経平均株価は当面、上値が重い状況が続きそうです。

割安な製造業は狙い目か

では日本株は投資家の運用対象とはなり得ないのでしょうか。私は自動車や自動車部品、素材、化学、鉄鋼など、これまで割安に放置されてきた製造業は買いの好機とみています。例えば21年3月期決算発表で、22年3月期の最終損益の黒字転換予想が目立つ鉄鋼業種は、コロナ禍でコスト改革を進めてきました。売り上げが減少したとしても、利益を出せる体質があれば、感染収束後の業績は戻りやすいとの期待が持てます。

コロナ禍で体験や経験に価値を見いだす「コト消費」がしづらくなり、商品の所有に価値を見いだす「モノ消費」が改めて評価されたことも追い風です。リモートワークで郊外の住宅を求める傾向が強まり、自動車の購入が増えているのがその一例と言えそうです。

日本株相場は当面、割高なグロース(成長)株からバリュー(割安)株への資金のローテーションが起きる可能性が高いでしょう。一方で、グロース株が現状、総崩れしていないのはなぜでしょうか。理由は、世界でインフレとデフレ、両方の懸念が併存しており、今後一体どちらの方向に進むのか投資家が結論を出せておらず、迷走しているからだとみています。

5月に発表された4月の米CPI(消費者物価指数)が市場予想を大幅に上回ったことをきっかけに、市場では、インフレが加速するとの警戒感が強まりました。これに対し、米連邦準備理事会(FRB)は「インフレ圧力の高まりは一時的」との見方を示し、足元では金融緩和の早期縮小観測はひとまず後退しています。

投資家が結論を出すのは、少なくても半年以上にわたってCPIが高い数値となるか確認してからになるでしょうが、個人的にはFRBと同じく、インフレは一時的なものとみています。なぜなら、足元の物価上昇は、前年の低迷や供給制約に伴うコストプッシュによるところが大きいからです。コロナ禍でサプライチェーン(供給網)が寸断され、物流が混乱したことによる物資不足が物価上昇に与えた影響は大きく、決して需要が高まったわけではありません。事実、高騰していた銅や木材などのコモディティー(商品)価格は既に天井をつけ始めており、物価上昇が秋以降も続く可能性は低いでしょう。

危ういデフレリスク

むしろ警戒すべきはデフレです。先に述べたように、新型コロナは私たちの生活を大きく変えました。たとえ収束しても、世の中は元には戻りません。それにもかかわらず、株式市場では、主要国が金融緩和と財政出動を当面続けるとの見方がいまだ強く、量的緩和縮小を意識した値動きとはなっていません。財政・金融政策による景気回復を前提とした「リフレトレード」は、投資家の都合の良い解釈にすぎず、ひとたびデフレが起きれば、全体相場が調整局面入りする可能性は高いとみています。

中国は今年7月、共産党が創立100周年となる一大イベントを控えています。トランプ前米大統領が課した対中制裁関税を発端に米中対立は先鋭化しており、東京オリンピックの最中の地政学リスクにも目が離せません。投資家は常に様々なリスクを想定しておく必要があるでしょう。

エミン・ユルマズ 
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日経マネー 2021年8月号 コロナ後相場の稼ぎ方&勝負株
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/6/21)
価格 : 800円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

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