/

顕在化する地政学リスク 株価急落のサインか

エミン・ユルマズの未来観測

政治の不安定化により高まるリスク

11月下旬、外国為替市場でトルコリラが対ドルの史上最安値を更新しました。世界の中央銀行が引き締めに動く中、トルコ中央銀行が3会合連続で利下げに踏み切ったことがリラ売りを促しました。これは高金利を嫌うエルドアン大統領の意向を反映したもので、度々の大統領介入を許すトルコ中銀は、中央銀行としての中立性を維持できていません。

石油や天然ガスをロシアや中東諸国からの輸入に頼るトルコでは、世界的なエネルギー価格高騰に伴う供給不安も経済へ打撃を与えています。今後政治が不安定化し、大混乱に陥る可能性は高いでしょう。

地政学リスクの火種はトルコにとどまりません。様々な国がリスクを抱えており、2022年の株式相場の急落を招きかねないと私はみています。

米中間選挙で民主党は苦戦か

懸念材料の一つは22年の米国の中間選挙です。米国では国民の政府に対する不満が強まっています。最近では米ウィスコンシン州で、黒人差別への抗議デモ参加者を射殺したとして殺人罪に問われた白人男性が、裁判で無罪評決を言い渡され、人種差別への批判が高まりました。米連邦準備理事会(FRB)が一時的としていたインフレも終わりが見えず、警戒が続いています。

さらに米国企業の構造問題として、ほぼ全ての業種で上位数社が市場を独占している点が挙げられます。例えば、エンターテインメント業種はウォルト・ディズニー、製薬業種はファイザーやジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)など数社による独占状態です。GAFA(グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、旧フェイスブックのメタ、アマゾン・ドット・コム)は巨大IT(情報技術)企業の代表例です。

これらの企業は合併や買収を繰り返しながら成長するにつれ、競争相手が限られるようになりました。供給制約に伴うコスト高を背景に値上げを実施しつつ収益を拡大させ、自社株買いを進める企業は多く存在します。値上げの判断が正しいかは疑問が残るでしょう。

共和党のドナルド・トランプ前政権は大企業優先政策を推し進めてきました。民主党で中道派のジョー・バイデン政権はこの行き過ぎた政策からの転換を期待され支持されてきましたが、蓋を開ければ何も変わっていないと感じる国民は増えています。

22年の中間選挙では民主党の苦戦は免れない一方、共和党の富裕層優遇に反対する国民も多いことから、将来的にはバーニー・サンダース氏のような社会主義者が大統領に選ばれる可能性は高いでしょう。歴史を振り返ると、1929年の大恐慌後に就任し、ニューディール政策を打ち出したフランクリン・ルーズベルト元大統領は、社会主義的な思想を持っていたといわれています。

足元ではEV(電気自動車)、グリーンエネルギー、不動産、IT、暗号資産(仮想通貨)、コモディティー(商品)など様々なところでバブルが起こっています。市場では、ITバブルとの相似を指摘する声がありますが、価格高騰がIT関連株にとどまらない分、何らかのきっかけでバブルがはじけた時のショックは大きいでしょう。

米中のパイプ断絶への懸念

中国のリスクも忘れてはいけません。同国では22年に予定される共産党大会で、習近平(シー・ジンピン)氏が終身国家主席になるとみられており、党大会を前に「米国通」を冷遇する動きを見せています。米中対立を背景に、米国とパイプがある政府要人や企業の経営陣の影響力をそぐ狙いがあるとみられます。

トルコやロシア、中国といった独裁的な国家では、政治基盤が弱い段階では海外に詳しい有識者を招き入れるものの、権力が強まると排除するといった特徴がみられます。コロナ禍で人の往来が減少し、海外渡航が制限されることになったからこそ、中国は米国通冷遇の動きを強めたとも言えるでしょう。米国とのパイプがない人を政府の重要ポストに起用すれば、有事の際に両国の衝突を緩和できず、危険な方向に進む可能性は高まります。

21年の株式相場は、17年から18年にかけての動きに似てきました。地政学リスクを背景に、18年2月に発生した世界同時株安「VIXショック」のような株価急落が22年に起こり得ると私はみています。

日本株は投資妙味が高まる

外的要因に影響を受けやすい日本市場ですが、国内特有のリスクが他国と比べて少ない分、22年は投資への魅力が高まりそうです。金融面では、日本の国際金融ハブ機能の強化が期待されています。加えて米中対立を背景としたサプライチェーン(供給網)の再構築では、先端半導体の量産技術で世界トップの台湾積体電路製造(TSMC)が熊本県での新工場建設を発表するなど、海外からの技術者が増え、人材育成や周辺産業の強化が進むと見込まれます。

さらには、長らく続いた緊急事態宣言が10月に解除されて以降、消費関連企業の株価の戻りが鈍いことから、今後は旅行、外食、レジャーなどの株価上昇に期待しています。

もっとも国内特有のリスクとして、岸田文雄首相が政策の一つに掲げる、株式の配当や譲渡益にかかる金融所得課税強化には引き続き警戒です。日本は米国と比較して家計に占める金融商品の割合が低く、課税見直しは株式相場にとって逆風となりそうです。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日経マネー 2022年1月号 1億円で安心リタイア
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/11/20)
価格 : 850円(税込み)
この書籍を購入する(ヘルプ): Amazon.co.jp 楽天ブックス

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン