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株式相場急落に警戒 高まる地政学・政治リスク

エミン・ユルマズの未来観測

駆け引きの舞台は2022年の北京へ

新型コロナウイルスの感染拡大で1年延期され、ほとんどの会場で無観客開催となった東京五輪・パラリンピック。異例ずくめの「平和の祭典」の裏では、国際政治の駆け引きが、早くも2022年2月に開催される北京冬季五輪・パラリンピックに移っています。

米国などでは新疆ウイグル自治区や香港の人権問題を理由に北京冬季五輪をボイコットすべきだとの声が上がっています。米民主党のペロシ下院議長は、元首や首脳といった外交使節を派遣しないよう各国に呼びかけました。英国では議会下院が7月、新疆ウイグル自治区などの人権状況が改善しない限り北京冬季五輪に閣僚らを派遣しないよう政府に促す決議を採択しました。

こうした発言が足元で表立って広がらなかったのは、中国による東京五輪のボイコットを避ける思惑があったからでしょう。共産党が創立100周年を迎えた中国にとっても、東京五輪が混乱すれば北京冬季五輪に影響が及ぶ可能性があるため発言は限られたとみられます。ただ外交ボイコットの議論は米英のみならず、カナダや欧州連合(EU)にも広がっており、東京パラリンピック後に顕在化する可能性は高いとみています。

自粛疲れと高まる政治リスク

警戒すべきは地政学リスクにとどまりません。各国の政治リスクにも目を配る必要があります。

例えば日本では秋までに衆院選が予定されていますが、菅義偉政権にとっては非常に厳しい戦いになることが予想されます。

日本経済新聞社が実施した7月23~25日の世論調査では、4度目の発令となった緊急事態宣言について、感染拡大の防止に「効果があるとは思わない」と答えた割合が70%に達しました。国民が宣言発令に価値を置けず、政府の新型コロナ対策を評価していないことや、発令と解除の繰り返しによる深刻な「自粛疲れ」の状況にあることがうかがえます。

日本経済新聞社とテレビ東京が同期間に実施した調査では、菅内閣の支持率は34%と前回調査の6月から9ポイント低下。20年9月の政権発足以降の最低を記録しました。衆院選を控える中での支持率低下は、政権運営にとって大きな逆風です。

昨年8月に安倍晋三前首相の辞任意向報道が伝わると、日経平均株価が600円超下落する場面がありましたが、すぐに値を戻しました。しかし、今回は様相が異なります。菅政権が国民の支持を思うように得られず、議席数が減少した場合は政権の求心力を一段と弱めることになるからです。

日経平均は2月の高値から10%超下落しました(7月末時点)。最大の要因は日銀が政策修正でETF(上場投資信託)の買い入れペースを落としたことですが、政治の不安定化を投資家が懸念していることも大きな要因でしょう。政権交代とまではいかずとも、小泉純一郎政権以降の、首相が1年前後で入れ替わる時代に巻き戻る可能性はあります。厳しい選挙戦による政権基盤の不安定化が足元の軟調相場を物語っていると言えるかもしれません。

各国で政治が不安定化するリスクも

この問題は日本にとどまりません。例えば24年のオリンピック・パラリンピックの開催国であるフランスでは、マクロン大統領が東京五輪の開会式出席のために来日したことで反対運動が起きたと聞きます。同国では新型コロナ対策のロックダウン(都市封鎖)やワクチン接種促進を図る政府の強硬策に抗議する大規模デモが実施されており、22年春の次期大統領選での再選を危ぶむ声もあります。

南アフリカではアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後で最大規模となる暴動が起こりました。理由の一つは、コロナ感染拡大により長期間の失業と食料不足が深刻化したこと。国際的なサプライチェーン(供給網)の寸断は、トウモロコシや小麦など食料品の価格上昇を引き起こしました。新興国を中心に、十分な食料が手に入らず、窮地に立たされている国や地域は増えています。

歴史を振り返ると、第2次世界大戦期のチャーチル英首相が連合国の勝利を主導したにもかかわらず、総選挙で敗れた話は有名です。今回も感染収束後に各国で政権交代が相次ぐことは十二分に考えられるでしょう。仮に政府が掲げる感染対策が正しかったとしても、感染者数の減少にうまくつながったという科学的根拠を示せなければ、感染に終わりが見えないまま国民の自粛疲れはたまる一方です。一国のリーダーに責任を取ってもらおうとする心理が働きやすくなっても仕方がありません。

米国株式市場では、8月入りダウ工業株30種平均が連日で最高値を更新しました。バブル状態の指数をけん引するのは、GAFA(グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)を中心とした一部の銘柄ですが、これらのIT(情報技術)銘柄は金利上昇などに伴い、一気に下落するリスクがあります。

米国ではマージンデット(証拠金債務)と呼ばれる信用取引の融資(買い)残高が急増し、高水準で推移しています。米金融取引業規制機構(FINRA)によれば、証拠金債務は6月末時点で8821億ドルに達しました。何らかのきっかけで相場が下落した場合、高いレバレッジをかけている投資家が保有株の売りを急ぎ、急落を助長する可能性には注意が必要です。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
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