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会社分割発表後も買われぬ企業、打開策は

広木隆のザ・相場道

異例の会社分割を発表した東芝

東芝が時間軸や収益構造が異なる事業を3つの会社に分割すると発表した。独立によって意思決定を早め、効率的な経営を目指す。会見で綱川智社長兼CEO(最高経営責任者)は「企業統治を改善させ資本配分を効率化する」とも語った。複合企業が主要事業ごとに分割して上場する日本初の事例だ。

不祥事を繰り返し、虎の子事業を幾つも手放してきた東芝にとって、分割案は次なる再生の道として、最後まで残った案のようである。日本の総合電機メーカーに多い「コングロマリット・ディスカウント」の解消が進むという期待があるが、少なくとも今のところ市場の評価は芳しいものではない。

「コングロマリット・ディスカウント」とは、複合企業の評価が各事業の価値を足し合わせたものより小さくなることをいう。その理由として「経営者の目が行き届かない」「意思決定が遅れ、経営効率が悪くなる」「複雑な事業構成が企業分析を難しくするため、専業会社と比べ投資家からも敬遠される」といったことが挙げられる。

会社分割よりも収益性や成長性が株高材料に

しかし、「ディスカウント」はコングロマリットという組織の体制によるものなのだろうか。例えばソニーグループ。アクティビスト(物言う株主)から再三、要求を突き付けられた事業分割を拒み続けて最高益を達成。今や「コングロマリット・プレミアム」の状態にある。結局は、その企業が抱える事業そのものが、どれだけ収益性や成長性があるかということではないだろうか。

そうは言っても、やはりソニーは例外なのだろう。東芝の事業分割発表と同じタイミングで、米国でもゼネラル・エレクトリック(GE)やジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)も会社分割を発表した。どうやら会社分割は世の中の潮流らしい。

大きくなり過ぎると当然、経営判断は遅くなる。人間の集団には適した人数というのがあるらしく、英国の人類学者ダンバーが提唱した「ダンバー数」によると、およそ100~250人の範囲、一般には150人が「団結したグループとして安定した関係を築くのに適切な人数」とされ、軍の中隊がそれに当たる。中隊は英語でCompanyだ。

さすがに上場企業で従業員が150人というのは少な過ぎるように思われるかもしれないが、新興企業がIPO(新規株式公開)を果たした時点の従業員数は、平均すればそのくらいだ。言ってみれば、企業にとって上場時の体制が組織として最適なのかもしれない。

上場企業数は高水準も新興市場に懐疑的な見方あり

そのIPOの数は2021年、前年比3割増の120社を超え、IPOブームに沸いた06年以来15年ぶりの高水準となった。06年と言えばライブドア事件があった年だ。新興企業のオーナーが高級外車を乗り回したり、六本木ヒルズにオフィスを構えたり、どこか拝金主義的なムードがあった前回のIPOブーム。それに対して、最近の起業家はずっと地に足が着いていて、起業を通じ、社会的課題を解決したいという高い理念を掲げる者が少なくない。

それでもまだ新興市場に懐疑的な目を向ける向きが残るのはなぜだろう。それは経営者の不祥事や虚偽記載、上場直後の下方修正などが後を絶たないからだ。先日も東証マザーズ市場に上場する家電メーカーで、インサイダー取引まがいの株取引があったことが発覚した。こうしたことを防ぐには上場審査を厳しくすること、特にコンプライアンス(法令順守)の体制や質を厳しく審査することが欠かせない。だが、それを証券取引所に任せることはできるだろうか。

来春に迫る東京証券取引所の市場再編についても、投資家の間で冷めた見方が広がっている。現在東証1部上場の企業は再編時に基準を満たしていなくても、企業が改善計画書を提出すれば、当面は最上位のプライム市場でいられる経過措置があるからだ。

ではどうすればよいか。最後は企業の自主判断に任せるしかない。逆に言えば、ここで賢い選択ができるかどうかは企業選別の判断基準になる。本当はプライム市場の資格がないのに経過措置に甘んじて背伸びしてプライム市場を選択する企業か、あるいは身の丈に合ったスタンダード市場を選ぶか。

もはや「東証1部」はブランドでも何でもない。大企業でさえ会社を分割する時代。大より小、体面より実質を選択すべきなのである。

広木隆(ひろき・たかし)
国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。
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