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不動産バブルと産業規制強化 高まる中国リスクに警戒

エミン・ユルマズの未来観測

見えないコロナ禍の出口と世界景気の行方

感染力の強いデルタ型の登場で、新型コロナウイルス感染拡大の終わりが見えなくなっています。8月に発表された米中の経済指標は、市場予想を下回る結果が続きました。中国では工業生産をはじめとする7月の指標が軒並み弱い内容でした。米国ではミシガン大学が発表した8月の消費者態度指数が、約10年ぶりの低水準に沈むネガティブサプライズとなりました。

一般に中国の経済指標は先行指数(数カ月先の景気の動きを示す)、日本は一致指数(景気の現状を示す)、米国は遅行指数(半年から1年遅れで反応する)といわれています。製造業中心の中国、製造業とサービス業が混在する日本、サービス業が多い米国では、データが数字に表れる時間軸が異なるからです。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

今回の結果は、コロナ禍による落ち込みからいち早く回復していた中国をはじめ、世界中で景気の減速懸念が強まっていることを示しています。これらが物語っているのは、ワクチンの普及により世界経済が正常化に向かうという、昨年秋の「ワクチン相場」が期待だけで終わったということです。現にワクチンの接種率は50%まで持っていくのは簡単でも、それ以上に引き上げるのは難しいとされています。ワクチン効果でパンデミック(世界的大流行)が終わるという楽観的な見方の後退が、現在の相場の弱さの背景にあると言えるでしょう。

米国株式市場ではダウ工業株30種平均株価が最高値圏で推移していますが、これは指数連動型の「パッシブ運用」での売買が多いためです。実際、上昇基調にあるのはGAFA(グーグルの持ち株会社アルファベット、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コム)などに代表される一部の銘柄のみで、他の多くは下落が目立っています。足元でSPAC(特別買収目的会社)経由や従来のIPO(新規株式公開)が増えたことで、新規上場銘柄に資金を振り向けるため、保有株を売却する動きが出たことも相場の重荷となっています。

中国の不動産バブル崩壊のリスク

株式需給が悪い中、中国では2つの「相場急落サイン」が出始めています。

一つは不動産バブルです。これまで開発にしのぎを削ってきた不動産開発業者は今、同国で巨額債務を抱えています。中国不動産大手の中国恒大集団は、銀行から十分に資金を調達できず、資金繰りが厳しくなりました。株価は昨年末比で約7割下落しています(8月末時点)。

同国では不動産市場が飽和状態にあり、以前のように不動産ビジネスで収益を稼ぐことが難しくなりました。開発業者が事業を縮小せず、様々なビジネスに手を出し始めた結果、拡大路線が裏目に出て財務体質が悪化。中国の不動産市場は、かつての日本の不動産バブル崩壊前と似た状態になっています。

社債市場では外貨建てハイイールド債の利回りが足元で急速に上昇(価格は急落)。格付け会社のフィッチ・レーティングスなどが中国恒大集団の格付けを引き下げたことも、追い打ちをかけました。社債のデフォルト(債務不履行)は増加の一途をたどっており、いずれリーマン・ショックのようなインパクトを世界に与えるリスクもあるとみています。

テック企業への規制に警戒

2つ目は中国政府によるテック企業(IT分野などを専門として開発・運営をしている企業)への規制、中でもインターネット企業への規制強化です。ネット企業は個人情報など膨大なビッグデータを掌握しており、国家の競争力をも左右します。海外に上場する中国企業は多く、政府は、対立する米国などへのデータ流出を強く警戒しています。

中国のネット企業はEC(電子商取引)大手アリババ集団や動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)などを除けば、海外で外国人向け事業に力を入れている企業は多くありません。

それよりも中国政府にとっては台湾問題などの地政学リスクが悪化し、半導体の供給網が閉ざされることの方が問題です。半導体は、スマートフォンやパソコン、テレビなどの電子機器だけではなく、軍事転用もできる最先端技術だからです。事実、中国政府の通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)に対する対応は、アリババ集団やネット大手の騰訊控股(テンセント)など、ネット企業への対応とは大きく異なります。中国当局は巨額の補助金で半導体事業を育成するなど、半導体製造やEV(電気自動車)、代替エネルギーを重要業種として位置付けているのです。

規制強化は今やネット企業だけではなく、教育業界などにもわたっています。対象はさらに広がる可能性が高いでしょう。

習近平(シー・ジンピン)国家主席が8月、貧富の格差縮小を目指す「共同富裕」を強調したことも懸念材料です。欧州市場では発言を受けて、「グッチ」などを持つ仏ケリングや仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン、独ポルシェや伊フェラーリの株価が下落する場面がありました。所得再分配を促す同国の制度改革は、富裕層への締め付けを強め、高級品の消費意欲を減退させるでしょう。日本でも新型コロナウイルスの感染収束後のインバウンド(訪日外国人)消費に影を落としそうです。

中国リスクが経済や株価にグローバルに影響を及ぼす可能性に警戒しておく必要があるでしょう。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日経マネー 2021年10月号 配当生活入門
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/8/20)
価格 : 750円(税込み)
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