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米経済回復への期待 はがれ落ちれば緩和バブル崩壊も

エミン・ユルマズの未来観測

混迷を深める世界経済や国際秩序。時代の先を読み解くヒントを、トルコ出身のエコノミスト、エミン・ユルマズ氏が独自の視点から解説します。
ロイター

米金利動向、分かれる市場関係者の見方

米長期金利の上昇がマーケットの波乱要因になった3月に比べると、足元は金利上昇が一服し、市場も落ち着きを取り戻しているように見えます。しかし、依然としてグロース(成長)株を中心に、相場の先行き不透明感はくすぶっています。

米長期金利の上昇に対する市場の見方は割れています。強気派はこれを米経済の回復に伴う「良い金利上昇」と捉えています。コロナ禍からの経済の立ち直りが進んでいる上、米バイデン政権による総額約1.9兆ドルに及ぶ経済対策がそれに弾みをつけるという見方です。この観点からすれば、金利上昇に対して過度の警戒は不要ということになります。

3月17日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米連邦準備理事会(FRB)が少なくとも2023年末までゼロ金利を継続すると表明したのも、強気派の自信を深めています。FRBが景気過熱を容認する姿勢を示したことで、緩和マネーが株式市場を押し上げる構図は変わらないとみているのです。実際、FOMC直後の日米株式市場は揃って上昇しました。

半面、長期金利の上昇は財政悪化やインフレ懸念に伴う「悪い金利上昇」になるとみる向きもあります。約1.9兆ドルの経済対策は過大であり、既に巨額となっている米財政赤字をさらに拡大させるものだとみているのです。この観点からすれば、強気相場は長続きしないということになります。

私の株式市場に対する見方は弱気派に近いものですが、長期金利の上昇が続くとは思っていません。むしろこれから下落に転じるとみています。そして、それがバブル化した米株式市場のクラッシュにつながると考えています。

緩和がゆがめた市場の価格発見機能

なぜ長期金利の下落が株式市場の崩壊につながるのかを説明する前に、一本の興味深い論文を紹介しましょう。野村アセットマネジメントのクオンツやファンドマネジャーによる、「バリュー投資の再考」という論文です。

エコノミストのエミン・ユルマズ氏

この論文では、1年先の企業業績が完全に予測できていたと仮定した場合に、業績から見て割安な銘柄に投資した時の成績をはじいています。それによると、10年までは年率10%以上の超過リターンを出せていましたが、18~19年になると日米共に急速に悪化。19年に至っては、米株のリターンはマイナスに沈んだのです。

この背景には、日米両国の金融緩和政策があります。緩和マネーがグロース株に集中した結果、市場の価格発見機能はゆがめられたのです。行き過ぎた金融緩和がバブルを作り出していると言い換えることもできます。

過剰な緩和政策の結果、機関投資家の現金比率は大きく低下し、資金を株式などのリスク資産に集中する「フルインベスト」に近い状態となりました。コロナ禍を受け、この傾向はさらに加速したとみています。今年に入って余剰マネーは原油などのコモディティーや仮想通貨にも向かい、相場を急速に押し上げています。ただ、これは少しのきっかけでアンワインド(巻き戻し)しかねない、脆弱な状況であるとも言えるのです。

米景気の回復力は本物か

ここで米長期金利に話を戻しましょう。米長期金利が上昇したのは、経済対策やコロナ禍の収束で経済が回復するという期待があるからです。

ところが、足元の米経済指標には弱さもみられます。例えば米民間雇用サービス会社ADPによる3月の非農業部門の雇用者数は2カ月連続で市場予想を下回りました。3月の米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数が約37年ぶりの高水準となるなど米景気は好調に見えますが、景気指標自体はまだら模様なのです。

もし雇用の弱さが続くのであれば、米長期金利の上昇の根拠となっている経済回復期待は剥落しかねません。その場合、楽観に傾いていた市場心理は一転し、株式などのリスク資産から債券などの安全資産にマネーが逃避するでしょう。それに伴う金利低下がトリガーとなり、流動性が失われて緩和バブルが一気にはじけることになると懸念しています。

米政権、追加対策に立ちはだかる壁

景気が思うように回復しなければ、追加での経済対策を打てばいいのではと思う方もいるかもしれません。しかし、上院の民主党の議席数は、ちょうど半数の50議席に過ぎません。政権与党なので上院で多数派は確保していますが、共和党の反発が強い中でフィリバスター(議事妨害)を阻止するために必要な60議員の賛成を取り付けるのは困難な状況です。

仮に賛成を取り付けたとしても、財源の問題が残ります。3月末にバイデン大統領は8年間で2兆ドル規模に上るインフラ投資計画を発表しました。この財源は企業などへの増税により15年かけて賄う方針とのことです。

現状では増税の影響について市場が本格的に織り込んでいるわけではありません。しかし、仮に増税が具体化すれば市場の警戒感は高まるでしょう。これも相場を崩す要因となり得ます。

21年1月のバイデン政権誕生以降、市場は楽観に傾いています。米株式市場で特別買収目的会社(SPAC)の上場件数が、3月時点で過去最多だった20年を上回ったのもその一例です。しかし、これは長年続いてきた緩和バブルの最終局面、つまり「メルトアップ」ではないかとみています。中国との対立激化といった地政学リスクも強まっている現状では、相場の先行きにはなおのこと慎重になった方がいいと感じています。

エミン・ユルマズ
トルコ出身。16歳で国際生物学オリンピックで優勝した後、奨学金で日本に留学。留学後わずか1年で、日本語で東京大学を受験し合格。卒業後は野村証券でM&A関連業務などに従事。2016年から複眼経済塾の取締役。ポーカープレーヤーとしての顔も持つ。
日経マネー 2021年5月号 日経平均3万円からの株の勝ち方入門
著者 : 日経マネー
出版 : 日経BP (2021/3/19)
価格 : 750円(税込み)
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