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進むESG投資 企業の取り組み強化は株高要因か

広木隆のザ・相場道

拡大する米国のESG投資

10月、ESG(環境・社会・企業統治)関連の大きなニュースが報じられた。米労働省が年金基金の運用に係る法律であるエリサ法を、気候変動リスクなどESGも考慮して投資先を選べるように変更するという。既に米国はグローバルで見て最大のESG投資の残高を有するが、エリサ法改正によって、さらに米国のESG投資が拡大することは間違いないだろう。

世界持続的投資連合(GSIA)が2年ごとに発行している「世界サステナブル投資レビュー」2020年版によれば、世界のESG投資残高は、20年に35兆3010億ドルとなった。18年より約15%伸び、世界の運用資産総額に占める比率は35.9%となった。中でも米国のESG投資残高は、18年の11兆9950億ドルから20年には17兆810億ドルへ42.4%増加した。 

欧州ではサステナブル投資の定義変更に伴い、単純な「ネガティブスクリーニング(特定の基準を満たさない企業を投資対象から外す投資戦略)」は「ESG投資」とは見なされなくなったことで、同項目の残高が大幅に減少。ESG投資残高も減少した。米国の残高が大きく伸びたことと、ネガティブスクリーニングの定義変更に伴う欧州の残高減少により、ESG投資残高は米国が欧州を抜いて最大となった。

多様化する投資戦略、ESGインテグレーションが最大に

一口にESG投資といっても、色々な戦略がある。下のグラフはESG投資の内訳を戦略別の残高で示したものである。

最新の調査で最大の運用残高となった戦略は「ESGインテグレーション」である。投資先の決定において、従来利用している財務情報にESG関連等の非財務情報をインテグレーション(結合)して銘柄選択を行う戦略である。

2番目に残高が大きいのは、前回調査まで最大の残高で、最も歴史の古い戦略である「ネガティブスクリーニング」だ。武器、たばこ、石炭火力発電、環境破壊、人権侵害などESGの観点にそぐわない企業を投資対象から除外する。欧州ではESG投資の定義から外されたが、米国では依然存在感は大きい。「ポジティブスクリーニング」は文字通りESG評価の高い企業を積極的に組み入れる戦略である。

これらの戦略は、投資先の企業を通じた環境や社会への貢献度を測定・開示する「インパクト投資」の一部を除き、全て市場平均を上回る高いリターンを追求するアクティブ運用であるが、ESG運用はその目的を達成できているだろうか。残念ながらこれまでのところ、ESG運用が市場平均を明確に上回るリターンを上げるというのは、理論的にも実績的にも明らかにされていない。

ESGに取り組む企業の株価修正に期待

しかし、希望はある。筆者は東証1部で温暖化ガス排出量のデータが15年~20年度まで継続的に取得できる約350社の企業について、排出量とバリュエーション、株主資本コスト(投資家が求める最低限のリターン)との関係を調べた。企業規模や業種の影響をコントロールした上で回帰分析を行った。

その結果、排出量の多い企業ほど、PBR(株価純資産倍率)とPER(株価収益率)が低く、株主資本コストが高いということが統計的に有意な結果となった。これは日本の株式市場が「カーボンディスカウント」、つまり炭素の排出量に比例して株価が割安になっているということである。温暖化ガス排出量の多い企業には、より高い資本コストを要求する。その結果、株価がより大きくディスカウントされてバリュエーションが低くなっているのだ。

そうであるなら、将来的に温暖化ガス排出量を削減すれば、それに伴って株主資本コストが低下、「カーボンディスカウント」が解消されて企業価値が向上するはずである。そもそも資本コストが高いというのは、投資家の要求リターン=期待リターン(将来の値上がり益と配当の合計)が高い、ということである。その「期待」を「実現」させるのは、まさに企業の温暖化ガス削減の努力次第である。 さらには、企業にその努力を促進させるべく、市場が、投資家が、そして社会が働きかけていくことが必要だろう。その結果、温暖化ガスが削減され、企業価値が向上し、そして投資家が良好なリターンを得る。これがESG投資の理想的なゴールだ。

広木隆(ひろき・たかし)
国内外の運用機関でファンドマネジャーなどを歴任。株式・為替からマクロ経済まで幅広い知見を基に自らヘッジファンドも立ち上げた。バイサイド時代の経験から斬る相場分析や展望に定評。青山学院大学大学院(MBA)非常勤講師。神戸大学大学院・経済学研究科後期博士課程修了。博士(経済学)。
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