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「投資で早期リタイア」ブームにひと言(澤上篤人)

「ゴキゲン長期投資」のススメ さわかみ投信会長

写真はイメージ=PIXTA

投資業界のカリスマの一人、澤上篤人が考える長期投資のあるべき姿を、同社最高投資責任者の草刈貴弘氏との対談形式で紹介する。

株高のバブルに浮かれてないか?

澤上篤人(以下、澤上) 世界的にすごい株高が続いている。その波に乗ってFIRE(Financial Independence, Retire Early、経済的自立と早期リタイア)を人生の目標に据える若い人たちが増えているという話を聞くけれど、バブルのにおいがプンプンするよ。

例えば現役世代が株の配当金だけで生活していこうとしたら、最低でも3億円は欲しい。現在、東証1部上場企業の予想配当利回りは平均1.8%台だから、配当金収入は年間約540万円だ。ここから税金を払うと手取りは約430万円。社会保険料も掛かる。生活費の安い地方なら、家族がいても何とかなるかもしれないが、決して楽な暮らしではないだろう。

草刈貴弘(以下、草刈) 最近は投資雑誌だけでなく経済誌でも株で1億円を超える資産をつくった人を紹介するような記事が増えていますね。働きながら投資で資産をつくり、将来は悠々自適に暮らしたい。確かに夢があるし、憧れる気持ちは分かります。

早期リタイアはともかく、経済的自立(以下、FI)を目指すことは、これからの日本を考えるとやはり必要だと思います。公的年金がどうなるか分かりませんし、人生100年時代とやらが本当にやって来るなら、いくら老後資金を用意すればいいのか見当がつきません。誰だって年老いてからお金のことで困りたくないと思います。

ただ、蓄えたお金を取り崩して暮らしていくという考え方だと、寿命より先にお金が尽きたらどうしようという不安が残ります。一方、株の配当なら蓄えた資金を株式として温存できますから、その心配は小さい。

澤上 問題は3億円をどう築くかだ。たとえ、今のバブル株高がずっと続いたとしても、資産3億円を達成するのは容易な話ではない。過去2年ぐらいの間には、株価が5倍とか10倍とかになった銘柄が幾つもあった。それを思い浮かべているのかもしれないが、株価5倍、10倍でもそれぞれ6000万円とか3000万円の元本がなければ3億円には届かない。

草刈 私は配当を得るために全財産を株式で持つという点が気になります。今のように株式市場が堅調な時は良いですが、いつまでも上昇し続けることは無いでしょう。

配当金で暮らしている人が、株価下落で資産評価額が急速にしぼむような状況になった時、今と同じ精神状態で投資を続けられるのかが心配です。

研究によると、人は同じ金額でも利益と損失では感じ方が違うことが分かっています。例えば同じ100万円でも利益の喜びより、損失のダメージの方が大きい。

配当を生み出す資産が目減りする痛みに耐えられるのかは、FIとは別な話です。いくら資産の評価額が大きくなっても、投資している資産を守り続けることは、増やすことと同じくらい難しく、重要であることは忘れてはいけないですよね。

本格的な長期投資をベースにした経済的自立

澤上篤人氏(写真:竹井俊晴)

澤上 まさにその通り。株高に乗って資産を増やし、FIを成し遂げたつもりになっていたとしても、それは絵に描いた餅にすぎない。株価が下がれば、たちまち早期リタイアどころではなくなってしまう。

我々さわかみ投信もずっと世にFIを提唱してきた。というか、日本ではその草分けだよ。ただし我々の提唱してきたFIは、本格的な長期投資という心強い味方をベースにしたものだ。

さわかみファンドで積み立て投資を実践してきたとすると、過去21年半の間で平均年6%ちょっとのリターンを得ている。これは12年で2倍。複利効果を考慮すると、24年で4倍、36年で8倍というペースでFI達成に向けた歩みを進めてもらっている。

この21年半の間には日本のバブル最終処理やリーマン・ショックという2度の暴落相場も経験している。そういった難局をも乗り越えたうえでの年6%ちょっとという実績なのだ。我々の提唱するFIは、こういった実績を背景としている。FI自体を人生の目標とするのではなく、本当の人生の目標を立てるためのFIだ。

草刈 働き続けるか、リタイアするかは別にして、FI達成後も社会との接点を持ち続けることは大切です。ある意味で生き方が問われてくる。仕事を辞め、何かやりたいことを始めるなら、それは引退ではありません。

自分のお金、時間、能力を自分のためだけではなく、他者や社会のためにも使うという理由でFIREするならすてきですよね。

さわかみファンドを積み立てている人の中には仕事を辞めてNPOを立ち上げられた方や、ボランティアのような形で働かれている方もいます。

子供はもちろん、大人も楽しく学べる場の提供や、コロナ禍で食事に困っている世帯への援助、東日本大震災の被災者の未来への手助けなど、その奮闘ぶりを拝見すると本当に頭が下がります。

こういった方々は、一般的な感覚でいうところの「莫大な財産」を築いたわけではありません。しかし、当人の気持ちとしてはFIREを達成されているわけです。

長期の積み立て投資が目標達成のお役に立っていることはありがたい限りです。

澤上 本当の意味での財産づくりも、その結果であるFIも、いきなりできるものではない。長期投資は安定性も再現性も高い。だからFI達成に合っている。

だが、長期投資はFI達成の道具ではないことは、しっかり認識しておきたい。本格的な長期投資とは、より良い世の中をつくっていく方向で頑張っている企業を応援するために、お金に働いてもらうものだ。間違えても、自分のもうけのためとか次元の低いことを言ってはいけない。

草刈 投資は自分の資産を増やす行為ですから、当然もうけは必要です。とは言え、そのもうけ方が大切だということですよね。

部分最適を追求すると、全体のバランスが崩れることもある。例えば自分の年金を増やすための投資行動が、巡り巡って自分の仕事を奪っていた、地域を破壊していたといったことも起こり得る。

澤上 そうなんだよ。バブル株高に乗ってのFIREなんて、浮かれ過ぎもいいところ。本格派の長期投資家はもっと地に足の着いた考え方をしようよ。それが長期投資というものなのだ。

草刈貴弘氏(左、写真:竹井俊晴)
澤上篤人(さわかみ・あつと)
1973年ジュネーブ大学付属国際問題研究所国際経済学修士課程履修。ピクテ・ジャパン代表取締役を務めた後、96年あえてサラリーマン世帯を顧客対象とする、さわかみ投資顧問(現さわかみ投信)を設立。
草刈貴弘(くさかり・たかひろ)
2008年入社。ファンドマネジャーを経て13年から最高投資責任者(CIO)。

[日経マネー2021年5月号の記事を再構成]

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