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東証の市場再編で稼ぐ 億万投資家の4つの投資ワザ

「イベント投資」を応用 昇格・降格銘柄の売買でもうける

現在の4市場から3市場体制に移行し、各市場の性格を明確にしてマネーを呼び込む――。東京証券取引所はこうした趣旨で2022年4月に市場再編を実施する。それに向けた上場企業の準備が本格化している。一方でこの動きを利用して株を売買し、着実に利益を上げている個人投資家がいる。「イベント投資」と呼ばれる投資法を手掛けるスゴ腕たちだ。彼らの投資術を取材した。

東京証券取引所の市場再編では、現行の東証1部・2部、新興企業向けのマザーズ、ジャスダックは全て廃止される。代わって、グローバル企業を念頭に置いた「プライム」、中堅企業向けの「スタンダード」、成長企業向けの「グロース」の3市場が新設される。22年1月11日には、上場各社が新たに所属する市場を東証が公表する。

それに向けて本格化しているのが、上場企業の準備作業だ。東証から通知された新市場への適合状況を踏まえて、プライム、スタンダード、グロースのどの市場への上場を申請するか検討を進める。既に東証に申請を済ませた企業も出ている。申請の期限は21年12月30日だ。

個人投資家は、この市場再編劇を利用してどんなトレードを実行できるのか。特定のイベントに合わせて株価が特有の動きを示す現象に着目して、先回り売買で利益を上げる「イベント投資」。この投資法を得意としている3人のスゴ腕個人投資家の実践例を取材した。

投資戦略1 プライム昇格銘柄の値上がりを狙う

取材からは4つの投資戦略が浮かび上がった。まずは、現在の最上位市場である東証1部以外の市場に上場している企業が、再編後の最上位市場のプライムに"昇格"するパターンを対象にした戦略だ。

この戦略は、他市場から東証1部に昇格する銘柄を対象としたイベント投資の応用だ。これまでは他市場から東証1部に昇格すると機関投資家の買いが集まって、価格が大きく上昇するという現象が起きた。「投資対象は東証1部のみ」というルールを持つ機関投資家が購入に動いたからだ。

同様に東証1部以外からプライムに昇格すれば、「投資対象はプライムのみ」という新たなルールを採用する機関投資家の買いが集まる。「それで大きな値上がりが期待できる」。イベント投資で1億円を超える資産を運用する30代の専業投資家、まつのすけさん(ハンドルネーム)はこう語る。

既にプライム昇格を有力視されている複数の銘柄が物色され、大きく上昇した。まつのすけさんも、日本マクドナルドホールディングスセリア(10月29日にスタンダードの選択申請を発表)などの先回り買いに動いた。短期で大きく値上がりしたため、既に売却して利益を確定したという。

「9月後半から10月上旬に相場全体が下落し、値上がりしていた昇格有力銘柄にも、大きく値下がりしたものが多い。安値で買って値上がり益を狙うトレードはまだ取り組める」とまつのすけさんは話す。

「他市場から東証1部に昇格する銘柄の場合、機関投資家の買いが集まって上昇し始めるのは、昇格に伴って東証株価指数(TOPIX)に組み入れられる日の1カ月前が、経験上多かった。市場再編で東証1部以外からプライムに昇格する銘柄も、同じような値動きを見せるはずだ」

イベント投資で数億円の資産を運用する50代の会社員投資家、羽根英樹さんはこうした見方を示し、再編の1カ月前に昇格銘柄を売買するチャンスが再び訪れると読む。

このトレードには留意点もある。昇格有力銘柄が全てプライムに自動的に移るわけではないことだ。プライムに移行する基準(新規上場基準)を全て満たしていても、精密減速機メーカーのハーモニック・ドライブ・システムズや中古ブランド品の買い取り専門店「なんぼや」を展開するバリュエンスホールディングスのように、あえてスタンダードやグロースを選ぶ企業も少なくない。プライム昇格の有力銘柄がプライム以外への申請を発表すると、それを引き金に株価が急落する恐れもあるので要注意だ。

戦略2 親子上場の解消を目的としたTOBを利用する

他の3つの戦略は、いずれも昇格候補ではなく降格候補の銘柄を対象にしたトレードだ。「市場再編に伴って上場維持基準が厳しくなり、東証1部からプライムへ移行できない銘柄や、3市場の基準を全て満たせず上場廃止になる可能性のある銘柄がかなりある」。羽根さんはこう指摘する。

2番目の戦略で狙うのは、親会社の保有株が多いために流通株式比率の基準をクリアできていないケースだ。この場合、親子関係を維持するために流通株式数を増やすことができず、上場を断念する可能性がある。既にセコムがセコム上信越を株式公開買い付け(TOB)で完全子会社化するなど、複数の実例が出ている。

上場子会社の株をTOBで買い付ける場合、株を手放すことを保有者に促すため、買い付け価格を市場価格より高く設定するのが一般的だ。そこで親会社が完全子会社化に動く可能性のある銘柄を先回りして低い価格で買い、TOBに応じて利ざやを稼ぐ。

「この戦略は難度が高い。必ずTOBを実施するという保証はなく、実施する時期も予測できないからだ。長期間待ち続けることになる可能性もあり、忍耐力が求められる」(まつのすけさん)

羽根さんはそうした忍耐力を発揮して、ミサワホームが今年5月から6月に実施したミサワホーム中国(7月28日に上場廃止)のTOBで売却益を上げた。

「19年12月にミサワホームがトヨタ自動車パナソニックの共同出資会社の傘下に入って、上場廃止になった。その時にミサワホーム中国が取り残された形になり、必ずTOBによる非上場化があると考えて買い集めてきた」(羽根さん)。最後の購入は今年3月上旬で買値の平均は220円台。TOB価格は320円だったので、45%前後のリターンが出た計算だ。

「東証の新たな定義で流通株式比率を個人投資家が正確に計算することは困難だ」と羽根さんは指摘する。例えば、週刊経済誌の『日経ビジネス』が10月4日号や電子版で「一挙公開 東証プライム市場、当選上300社リスト」という特集を組んで、流通時価総額や流通株式比率の基準ごとに当落線上にいる企業のリストを掲載している。こうしたメディアの情報が参考になるだろう。

戦略3 優待新設銘柄の値上がりを狙う

第3の戦略は、流通株式時価総額がネックでプライムに残留できるかどうかの瀬戸際にいる銘柄のトレードだ。直近3カ月の流通株式時価総額の平均がプライム基準の100億円に達していない東証1部上場企業は、QUICKによると11月9日時点で597社。これらの企業の中には、残留を確実にするために増配や株主優待の新設・拡充といった手段で株価を押し上げようとする会社が出てくる可能性が高い。

特に優待の新設を発表した銘柄は、優待を愛好する個人投資家の買いが集まって、短期間に株価が上昇する傾向がある。羽根さんはこの傾向を利用して、優待新設の発表直後に買い、上昇の勢いが鈍ったら売るというトレードを実践する。

その際にポイントとなるのは優待品の内容だと羽根さんは指摘する。「500~1000円のQUOカードや図書カードといったありふれたものでは値上がりしないか、上がっても勢いが1~2日しか続かない。地方の特産品や高級食品といった魅力的な内容なら、上昇が5~10日続く。値上がり幅も大きい」(羽根さん)

実際に今年に株主優待を新設した銘柄の値動きを見てみよう。3月に優待新設を発表した水産物卸売りの築地魚市場。100株以上200株未満の保有で3000円相当、200株以上で6000円相当の水産加工品の詰め合わせを贈呈するという内容に個人投資家の人気が集まり、優待新設の発表から株価が続伸。一時は発表前の終値の3倍まで急騰した。

一方、金属材料やプラスチック材料を扱う専門商社の白銅が6月に新設を発表した優待は、「白銅プレミアム優待倶楽部」。保有株数に応じて付与されたポイントを専用サイトに掲載された優待品と交換できる。同社の株価は発表の翌日から上昇して6月29日に年初来高値を更新したが、上場幅は2割超にとどまった。

戦略4 売り出しや分売を実施する銘柄でもうける

第4の戦略は、流通株式数が少ないために流通株式比率の基準を満たせず、そのままだと降格や上場廃止になる可能性がある企業の株を対象にした売買だ。こうした企業では、大株主の保有株を売却して流通株式数を増やす可能性がある。

この場合、市場を通さずに証券会社を通じて売却する「売り出し」や、市場の取引時間外に小口に分けて売却する「立会外分売」を採用して、株価の大幅な下落を避けるのが一般的だ。それでも流通株式数が増えて需給がゆるむので、株価が下落する傾向がある。この傾向を利用する。

トレードのパターンは2つある。まずは、売り出しや立会外分売を実施する銘柄を空売りして、株価の下落で利益を出すパターンだ。ただ、このパターンについて羽根さんは次のように忠告する。「毎年11~12月は相場全体が上昇することが多い。売り出しや立会外分売を実施する銘柄も連れ高することがあるので、この時期は空売りを控えた方がいい」

2つ目のパターンは、売り出しや立会外分売を実施する銘柄が大きく下がった時点で購入し、売り出しや立会外分売を実施した後の反発で値上がり益を得るパターンだ。「こちらのパターンの方が手掛けやすい」と羽根さんは語る。

先述した東証1部に昇格する銘柄の先回り買いを主に手掛け、運用資産を1億6000万円に増やした30代の兼業投資家、v-com2さん(ハンドルネーム)は立会外分売に応募して、値上がり益を狙う取引を実践している。

取引の対象となる銘柄の目安は、①分売の株数が30万株以上②空売りが可能な貸借銘柄――の2つだ。前者の30万株以上という目安は、申し込みが多くて抽選になった場合に当たる確率が高まるというのが理由。後者の貸借銘柄という条件は、立会外分売の直前に空売りが入りやすいからだ。

さらにv-com2さんは次のように補足する。「業績予想の進捗度が高く、予想PER(株価収益率)で見て割安で、配当利回りと優待品の価値を金額に換算して算出した優待利回りが高いとなおいい」

この取引は分売後の反発で売却益を上げる短期売買が基本だ。ただし、配当利回りと優待利回りが高い銘柄や、業績予想に対する実績の進捗度が高くて中長期で値上がりが見込める銘柄は、短期で売らずに持ち続ける。

今年5月には、保険代理店を展開するアドバンスクリエイト、ジェネリック医薬品の原薬の輸入販売を手掛けるコーア商事ホールディングスの立会外分売に応募。抽選に当たって購入した。

分売の株数はアドバンスが95万1000株と非常に多く、コーア商事も39万6200株とやや多め。両銘柄とも複数の証券会社で当選した。優待利回りが高いことから、分売直後に売らずに持ち続けることにしたという。

「立会外分売は購入株数に上限があるので、大量に購入して大きな利益を上げることはできない。その半面、購入金額は少なく済むので資金の少ない人でも手掛けやすい」とv-com2さんは語る。

東証の市場再編に際し、これまで見てきたようなアクションを取る企業は、東証が新市場への申請を締め切る年末までに多く出てくるはずだ。それを生かして、年内にもう一稼ぎしようと試みるのも一考に値するだろう。

(中野目純一)

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