生保に新潮流 「健康増進」テーマに新商品・サービス
ITやAIで進化する「新しい保険」(下)
リスクの「予防」も目指す
生命保険商品のうち、死亡保障の保険は必要のある人が限られる。そのため、各社が注力しているのは医療保険だが、保障内容の拡充は既に限界まできている。そこで「健康増進」を新たなテーマに据えた商品やサービスの開発競争が進んでいる。生命保険も、死亡や病気・ケガでの入院といったリスクに備えるためだけでなく、リスクを抑える、あるいは予防するためのものにもなりつつある。
例えば、24時間利用できる健康・医療相談サービスは、多くの保険会社が提供している。収入保障保険などでは、優良体・健康体割引もある。契約時にたばこを吸わず、BMI(体格指数)と血圧が一定範囲だと「優良体」や「健康体」となり、保険料が割引される。BMIとは、体重(㎏)を身長(m)の2乗で割って肥満度を判断する指標だ。
それを発展させたのが、ネオファースト生命保険の医療保険「ネオdeからだエール」。3年ごとの更新時に健康年齢が実年齢より低いと保険料が安くなる。健康年齢は、健診データや診療報酬明細書(レセプト)等のビッグデータを使って将来の疾病の発生率等を分析したもので、更新時に提出する診断書等で判定する。
アフラック生命保険の「健康応援医療保険」も健康年齢が実年齢未満だと年に1回、保険料の一部がキャッシュバックされる。ネットで契約し、スマホかPCで健康診断結果を入力すると、健康年齢が判定される。
健康増進型医療保険のもう一つのタイプは、歩くことによって健康が維持できることに着目したもの。専用アプリで毎日の歩数を計測し、その結果に応じて保険料が割り引かれたり、キャッシュバックが受けられたりする。

健康増進の付加サービスも
保険商品そのものではなく、健康増進のための特約やサービスを提供する会社もある。中でも力を入れているのが住友生命保険だ。
主力商品である総合型の保険あるいは医療保障の保険に加えて「Vitality健康プログラム」に加入すると、専用アプリによる健康状態のチェック、健康診断の受診、日々の運動、スポーツイベントへの参加などよってポイントが付与され、獲得ポイントで判定されるステータスに応じて保険料が変動する。また、スポーツ用品やウェアラブルデバイス、フィットネスジムなどが割引で購入・利用できる。サービスの利用には毎月880円かかるが、同社広報室によると「2020年度は、主力商品契約者の約7割がこのサービスを利用している」という。
こうした健康増進型の保険やサービスは、利用者の健康増進につながるだけでなく、保険会社にとってもメリットがある。病気になる人が減れば、将来支払う給付金・保険金が減るからだ。さらに、「データの蓄積によって加入基準の精査が進めば、今までの基準では健康上の理由で加入できないとされた人が、入れる商品ができるかもしれない」(FPの平野敦之さん)といった将来的な期待もできる。
保険は保障内容で選ぶ
健康増進型の保険やサービスについて、専門家はどう見ているのか。FPの清水香さんは、「割引やキャッシュバックがあったとしても、元の保険料が高いこともある。そもそも保険は、保障の必要性と合理的な保険料かを考えて選ぶべきもの。"健康増進"に惑わされない方がいい」と厳しい評価。平野さんは「健康増進は国の政策で、それに沿った保険商品は方向としては間違っていない。個人でも健康意識の高い人には利用価値があるだろう」と指摘しつつも、「保険料の割引やキャッシュバックで恩恵を受けられる人は限られる。今加入している保険から乗り換えるほどのメリットはない」と話す。
今後もテクノロジーを活用した新しい商品やサービスが登場してくるとみられるが、「シンプルで保険料のリーズナブルなものを選ぶ」という保険選びの基本セオリーは変わらない。加入の際は、商品の中身をしっかりチェックすることが大切だ。
(ファイナンシャルプランナー・馬養雅子)
[日経マネー2021年6月号の記事を再構成]
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