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米ゲームストップ株騒動 日本のカリスマ個人はこう見た

日本株市場への波及を懸念 空売りのリスクを教訓に

ロイター
SNS(交流サイト)掲示板の「レディット」で情報を交換した不特定多数の個人投資家が、ヘッジファンドが空売りしていた複数の銘柄を共同で買い上げ、株価が乱高下――。米株式市場を揺るがしている個人投資家の反乱劇。日本のスゴ腕個人投資家たちは、太平洋の向こう側で起きた狂騒をどう受け止めたのか。4人のカリスマ投資家に話を聞いた。

「ツイッターで知って、アメリカの市場はやはりスケールが違うなと思った」

五月(ごがつ)のハンドルネームでも知られる著名個人投資家の片山晃さん。65万円で始めた株式投資で150億円もの資産を築いたカリスマ投資家は、第一印象をこう語る。

個人投資家が群れをなして買いまくった銘柄のうち、ビデオゲーム小売りチェーンを展開する米ゲームストップの株価は1月28日、昨年来安値の約188倍の483ドルまで急騰。時価総額は336億ドル(約3兆5280億円)に達した。空売りを仕掛けていたヘッジファンドが、株価の上昇で買い戻しを余儀なくされ、それがさらに株価を押し上げる。「踏み上げ」と呼ばれる現象が急激かつ大規模に起きたためだ。米ヘッジファンド大手のメルビン・キャピタル・マネジメントは1月、年初時点の運用資産の53%に当たる約66億ドル(約6930億円)もの巨額の損失を被ったとされる。

日本株の空売りも手掛ける片山さんは「米国株市場のスケールの大きさに改めて魅力を感じた人も多いかもしれないが、自分は日本株を売買する日本人投資家で良かったと思った。米国で空売りをしていたら、同じような目に遭って破滅しているかもしれない」と続ける。

株式評論家としてメディアに出演するこころトレード研究所所長の坂本慎太郎さん。「Bコミ」というハンドルネームを持つ個人投資家としても知られるが、彼もまずは騒動のスケールの大きさに驚嘆したという。「日本で踏み上げが起きるのは、時価総額の小さい小型株だけだ。時価総額が日本円換算で1兆円を超える銘柄で踏み上げが発生したことに目を見張った」

米国株投資ブロガーとして有名なたぱぞうさん(ハンドルネーム)。米国株市場に上場している個別企業の株やETF(上場投資信託)の売買で2億円を超える資産を運用しているこのスゴ腕は、「個人投資家がヘッジファンドを打ち負かしたことで、時代が変わったなという感慨を抱いた」と振り返る。

デイトレードで株式投資を始め、投資法の幅を広げて累計40億円以上の利益を上げてきた著名個人投資家のテスタさん。このデイトレーダーのスターは、他の3人と異なる感想を漏らす。「ツイッターで知って面白いとは感じたが、それだけ。対岸の火事としか思えない」と冷静な反応だ。

ポイント1 今回の騒動で最も注目した点は?

では、4人のカリスマ投資家は、今回の騒動のどこに最も注目したのだろうか。

片山さんは「投機マネーの規模の大きさを改めて実感した」と語る(撮影:都築雅人)

片山さんは、米連邦準備理事会(FRB)の金融緩和によって蓄積された投機マネーの規模の大きさを改めて実感したという。

「日本とは桁違いの投機マネーが米国では循環している。それが株や暗号資産(仮想通貨)など、様々な資産の価格を実態とは大きくかけ離れた水準まで押し上げてきた。今回の騒動はそれを最も象徴する事件になった」

坂本さんは「個人投資家の投機集団とヘッジファンドの対決という構図が前面に出過ぎている報道に違和感を覚えた」と話す。

「ゲームストップについては、株価が割安過ぎると考えた有力な投資家がまず値上がりを見込んで購入し、それに対してヘッジファンドが空売りを仕掛けるという序盤戦があった。個人投資家は最初に有力投資家の動きを見て参戦しており、全く値上がりする見込みのない株を買ったわけではない。そこがあまり報じられていない」

たぱぞうさんはSNS上の呼びかけで個人投資家の共同買いが広がった点に注目した。「ツイッターやユーチューブなどで強い影響力を持ち、インフルエンサーと呼ばれる個人の情報発信力が、メディア以上に大きくなっていることを改めて痛感した」と語る。

一方、テスタさんは次のように淡々と語る。「あくまで対岸の火事。実際に何が起きたのかはよく分からない。自分にとって重要なのは、株の売買で利益を上げられるかどうか。今回の事件を分析することには関心がない」 

ポイント2 日本の株式市場にはどんな影響がある?

片山さんは、米国市場で起きた今回の騒動の余波が既に日本市場に及んでいる可能性があると指摘する。下落が見込まれる銘柄を空売りして、上昇期待の銘柄を買い持ちする「ロング・ショート戦略」を採用しているヘッジファンドは、手じまう際に空売りした銘柄を買い戻すと同時に買い持ちしていた銘柄を売却する。それで大量に発生した売却が全体相場を押し下げる要因となった節があるからだ。その相場の下げは日本市場にも及んだ可能性があるとみる。

「(海外投資家の保有が多い)エムスリーの株価が1月下旬に大きく下落したのは、ヘッジファンドの持ち高解消の一環だったのではないか。日本でも空売りが多いと思われる銘柄が不自然に上昇する動きが目立ってきた。これが続けば全体相場にも思わぬ影響を与える可能性はある。騒動の余波はまだ続くかもしれない」(片山さん)

坂本さんは「ヘッジファンドの換金売りで暴落が起きる恐れがある」と警戒する(撮影:陶山勉)

「騒動はまだ継続中で、日本の市場に影響が本格的に出てくるのはこれから」という見方を示すのは坂本さんだ。

「解約が相次いだヘッジファンドが、顧客へ返金するために保有株を売る動きが今後出てくる。その規模によっては、世界的に相場が暴落する恐れもある」と続ける。

テスタさんも「日本の株式市場には大きな影響はないだろう」とした上で、次の点を懸念する。

「ヘッジファンドがリスクを下げるために、空売りだけでなく買い持ちのポジションも閉じれば、全体の相場の急落につながる。急落が散発する可能性がある」

たぱぞうさんは、相場の値動きよりも規制に影響が出る可能性を挙げる。「日本でも、著名な個人投資家が特定の銘柄についてツイッターやユーチューブで言及し、フォロワーたちが一斉に購入して急騰するケースが出ている。今回の騒動を受けて米国で新たな規制が導入されれば、日本でも同様の規制を取り入れる機運が高まりそうだ」

片山さんは規制の問題について「今回の件が、マーケットのルールをはじめとしていろいろなものを見直すきっかけになりそうだ」と指摘しつつも、次のような考えを示す。

「ネットで情報が拡散するスピードは、今後さらに加速していく。ネット上で特定の銘柄を買いあおったり、それに乗じてもうけようとしたりする動きを完全に封じる手立てはない。ルールが変わって新たな規制が課されても、同じようなことは形を変えて起こるだろう」

ポイント3 日本でも「個人」と「プロ」の対決は起こり得る?

片山さんは「日本の個人投資家は米国ほど強い存在ではない。同じような対決は起きにくい」という見方だ。「今回の騒動は、取引手数料を無料にして個人投資家を呼び込んだスマートフォン専業証券のロビンフッド・マーケッツというインフラなくしては起き得なかった。日本にはまだそうしたインフラがない」

坂本さんは次のように指摘する。「ゲームストップなどで桁違いの踏み上げが起きたのは、米国株市場の特殊事情によるところが大きい。日本では個人投資家とプロの対決の前に、それを可能にする大規模の踏み上げがそもそも起きない」

日本では、大きく値が動いた個別銘柄の取引を停止する「ストップ高・ストップ安」があるのに対して、米国には全体相場の急落時に全面的に取引を中断するサーキットブレーカー制度はあるものの、個別株ごとに取引を停止する仕組みがない。また米国株では、踏み上げが起きる一因となった個別銘柄のオプション取引が幅広く行われているが、日本では普及していない。これらの違いから、日本では極端な踏み上げは起きないのではということだ。

たぱぞうさんは「日本では、個人投資家がプロの機関投資家を敵視して対立するという状況がまだ生まれていない。当面はそういう状況にはならないのではないか」と予想する。

ポイント4 日本の個人投資家がくみ取るべき教訓は?

テスタさんは「今回の一件を自分に落とし込むことが大切だ」と話す

「今回の騒動に乗じて大きくもうけても、同じ売買を再現することはできないだろう。宝くじに当たったようなもので、本当の勝ちではない」

テスタさんはこう指摘した上で次のように続ける。「大切なのは、今回の一件を自分に落とし込むこと。注目すべきなのは、ロング(買い持ち)とショート(売り持ち)のリスクが同じではないことを鮮烈な形で示した点だ」

買い持ちならば、信用取引で証券会社から上限まで借金して個別株を買って、株価がゼロになっても、損失は元本の3.3倍までだ。一方、空売りした銘柄の価格が踏み上げで上昇すると、その価格で買い戻して、証券会社から借りた株を返却しなければならない。

「時価総額の小さい小型株は、1つの材料で何十倍にも急騰することがある。その銘柄を空売りしていたら、損も何十倍になる。今回の件は空売りのリスクを正しく理解する重要性を示してくれた」(テスタさん)

片山さんと坂本さんも、同様に空売りのリスクを教訓として挙げる。「日本でも、20年の年末に個人投資家を中心に空売りが積み上がっていたグローバルダイニングが踏み上げによって急騰する例が見られた。空売りを手掛ける個人投資家は、同じようなケースが再発するリスクを警戒すべきだ」(坂本さん)

さらに片山さんはこうも指摘する。「ネット上に流れている怪しい情報を利用して売買するのも個人の自由だが、タイミングを間違うと大きな損をする恐れがある。そのリスクも考えた上で売買すべきだ」

たぱぞうさんは「自分の投資を見つめ直す機会にするといい」とアドバイスする。「空売り銘柄の共同買いに参加した個人投資家のように、トレンドや需給に注目した投資をしたいのか。それとも、個別企業の業績動向などに着目した投資をしたいのか。どちらのスタイルを実践していくのかを再考する好機になる」

(中野目純一)

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