高騰する新築マンション価格 資金計画はしっかりと
「住まいにかかるお金」総点検(上)
コロナ禍でも住宅観は大きく変わらず
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、テレワークや巣ごもり生活など自宅で過ごす時間が長くなった。それに伴い住まいへの関心が高まっているが、コロナ前と現在とで変化はあるのだろうか。
住宅取引に関する情報サイト「e住まい探しドットコム」代表で住宅コンサルタントの平賀功一さんは、「テレワークや在宅勤務の導入で、住まいは郊外でいいという人がいる一方、交通の利便性や娯楽・商業施設が充実したアーバンライフを求める人も多い」と指摘。「コロナによる住宅観の変化は限定的」とみる。
メディアでは、コロナ禍をきっかけに地方へ移住した人が取り上げられることがあるが、それが大きなムーブメントになっているとは言い難い。特にサラリーマンの場合、コロナ収束後はテレワークや在宅勤務を利用しづらくなる可能性や子供の学校のことなどがあり、簡単に地方へ移住できる状況にはないのが実情だ。
根強いタワーマンション人気
コロナ前の住宅市場のトレンドは「職住近接」だった。それを端的に示すのが都心のタワーマンション人気だ。その理由として平賀さんは、「勝ち組・成功者のイメージやセレブ感などのステータス性、充実した共用設備、売りやすさ・貸しやすさといった高いセールスバリュー」を挙げる。夫婦共働きで世帯収入が高水準の「パワーカップル」を中心に、都心で駅近のタワーマンションの人気はウイズコロナ時代も揺らいでいない。
高額なタワーマンションが売れていることもあって、新築マンションの平均価格は右肩上がりだ。2020年には首都圏で6000万円を超え、東京23区に限ると7000万円超と、高額化が進んでいる。手が届きづらい価格水準にあるため中古物件を検討する人もいるが、新築価格の高騰に伴い中古物件の価格も上がっている。

共働き夫婦は駅近マンションを求める傾向
マンション価格が高騰する中、働く人の所得は伸び悩んでおり、年収に対する住宅価格の倍率は7倍を超えている。年収倍率の上昇は建売住宅よりマンションの方が顕著だ。住宅価格が高騰し、一定以上の収入がないと購入が難しい現状では、共働き世帯が買い手の中心に。そのため駅から遠い戸建てより、駅にも職場にも近い都心のマンションが人気化する、という流れになっている。一方、住宅の床面積は減少傾向にある。「床面積を犠牲にしてでも利便性を選ぶ人が多い」(平賀さん)という状況が見て取れる。
住宅価格が上がっている背景には人件費や原材料費の高騰があり、建築コストの高いマンションの価格への影響が大きい。さらに、タワーマンション開発を手掛けている大手デベロッパーは資金的に余裕があり、マンションの価格設定に強気で、売り急いで価格を下げたり値引きをしたりしない。こうした状況が変わらなければ、タワーマンションをはじめとする新築マンションの価格は高止まりし、当面下がることはなさそうだ。
「家賃並みの返済額」には要注意
住宅価格が上昇しても、マイホームが欲しいという人は減らない。住宅購入や住宅ローンの相談に数多く応じてきたファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんは、「都心の賃貸マンションに住んでいる共働き夫婦だと月15万円前後の家賃を払っていることが多い。『高い家賃を払い続けるのがもったいないのでマイホームを買った方がいい』と考えがちだ」と指摘する。こうした夫婦がマンションのモデルルームなどへ見学に行き、「家賃並みの返済額で買えます」というセールストークを真に受けて、十分な貯蓄もないまま購入してしまうケースは少なくないという。
だが、「家賃並み」とする住宅ローン返済計画は、今のような低金利が35年続き、夫婦とも収入が年々増えていくといった、現実的でない前提条件を基に作られていることが多い。そのうえ、ローンの返済額がそれまでの家賃と同じだったとしても、購入後には毎月の管理費・修繕積立金が新たな支出となる。さらに固定資産税もかかるため、住宅関連費は賃貸時代を大きく上回ることになる。
住宅価格が上がり、コロナ禍で経済の先行きや将来の収入の見通しが立ちづらい中では、マイホーム購入はこれまで以上に慎重に考える必要がある。
(ファイナンシャルプランナー・馬養雅子)
[日経マネー2021年9月号の記事を再構成]
著者 : 日経マネー
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