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師走のIPO、30年ぶり高水準 スゴ腕個人の戦略は?

IPOに詳しい3人が上場ラッシュの攻略法を伝授

毎年12月は3月と並んで新規株式公開(IPO)が多い。この12月は32社がIPOを予定(プロ向け市場の東京プロマーケットを除く)。単月では1991年11月以来30年ぶりの活況となる。師走の上場ラッシュにスゴ腕の個人投資家はどう臨もうとしているのか。3人の投資戦略を取材した。

相場全体が軟調な時にも値上がりを期待できる――。こんな投資妙味を持つのが、IPO銘柄だ。

「既存の銘柄が連れ安して他に行き場を失った資金がIPO銘柄に流入し、逆行高になる傾向がある」。IPO関連の投資を中心に2億円を超える資産を運用する50代の会社員投資家、JACKさん(ハンドルネーム)はこう話す。

「毎年12月は3月と並んでIPOの件数が多く、IPO銘柄の売買が盛り上がる月だ」。金融情報サービス会社のモーニングスターが運営するオンライン新聞の株式新聞Web。同新聞編集長の鈴木草太さんはこう指摘する。2021年は年間でも例年に比べてIPOの件数が多く、年末までに143社が新規上場する。2007年以来14年ぶりに年間のIPO件数が100社を超える(プロ向け市場の東京プロマーケットを除く)。

IPO銘柄の売買も堅調だ。初値を公開価格で割って算出した初値上昇率は、12月2日までに上場した90社の平均で約1.6倍と高い水準になっている。初値上昇率が2倍以上になった銘柄が22社に上る一方で、初値が公開価格を下回った銘柄は9社にとどまった。

IPO銘柄は、発行株数よりも注文株数が多い場合には抽選が行われ、それに当たらないとIPOの前に手に入らない。「21年に一度も抽選に当たっていない人は当選の確率が高まっている。諦めずに応募した方がいい」。JACKさんはこうアドバイスする。

JACKさん自身はSharing InnovationsHCSホールディングス日本電解シンプレクス・ホールディングスの4銘柄の抽選に当たって、上場前に購入した。Sharing Innovationsは公開価格の約1.6倍の初値が付き、JACKさんは初値で売って大きな利益を上げることに成功した。

日本電解とシンプレクスは初値が低かったことから、IPO後に買いが集まるとみて、初値では売らずに持ち続けた。その結果、日本電解は公開価格の約1.3倍、シンプレクスは同約1.1倍の値段で売り切ったという。

一方、東証1部に上場した紀文食品テスホールディングスは、IPOの当日に初値で購入した。紀文食品は、かまぼこなどの水産練り製品や中華総菜などの製造を手掛ける老舗企業。テスホールディングスは、再生可能エネルギーや省エネルギーの設備の設計・調達・施工をワンストップで行い、再エネの発電事業や電気の小売り供給も手掛ける。

この2銘柄の売買は、東証1部に新規上場した銘柄の価格が直後に上昇する傾向に着目した取引だ。値上がりするのは、上場の約1カ月後にTOPIX(東証株価指数)に組み込まれるため。TOPIXに連動する投資信託などを売買する機関投資家の買いが入り、株価が上昇する。それを先回りして待ち構えるわけだ。紀文食品は上場日の翌日に高騰したのを受けて売却し、利益を確定。テスホールディングスは購入から1カ月余りかかったが、売却益を上げた。

JACKさんは、12月にIPOを果たす銘柄では、湖北工業三和油化工業に注目していると語る。滋賀県長浜市に本拠を構える湖北工業は、1959年に創業した老舗の電子部部品メーカー。光海底ケーブルに欠かせない「光アイソレーター」と呼ぶ部品で世界シェアが5割を超えるニッチトップ企業だ。上場で調達した資金は、車載用などで需要が伸びているリード端子の生産能力の増強や光デバイスの研究開発に充てる。

愛知県刈谷市に本社を構える三和油化工業は、1970年に設立された化学品メーカー。化学品および油剤製品を製造・販売する事業のほか、それらの使用後の産業廃棄物を収集して、中間処分や再資源化する事業を営んでいる(12月にIPOを実施する企業の詳細データはこちら)。

直近にIPOした銘柄の物色も盛り上がる

値上がりが期待できるのは、上場の時だけではない。「12月に上場した銘柄は、上場直後の相場の波が大きくなる傾向がある」と鈴木さんは語る。これは毎年1~2月はIPOが少なく、代わりに直近のIPO銘柄が物色される傾向があるからだ。

「その中に短期間で急騰する銘柄が出る可能性がある」。JACKさんやテクニカルアナリストで自身でも個別企業株の短期投資を手掛ける横山利香さんはこう期待する。

JACKさんは機能やデザインにこだわった家電製品を開発・販売するバルミューダと建築図面・現場管理アプリケーションソフト「SPIDERPLUS」をネットワーク経由で提供するスパイダープラスを既に購入した。「バルミューダは株主優待を新設したら、株価が大きく上昇するだろう」(JACKさん)

さらに、価格が手ごろになれば購入を検討したい銘柄として、前出の紀文食品、日本電解、シンプレクスの3銘柄に加えて、室町ケミカルNexToneの2 銘柄を挙げる。「紀文食品も株主優待を新設したら株価が大きく上昇すると期待している」とJACKさんは続ける。

一方、横山さんは個人投資家の関心が高いテーマの関連銘柄を物色する方針を示す。最も注目しているテーマは電気自動車(EV)だ。

「脱炭素が長期にわたって続くテーマであることに加えて、足元の原油高でもEVに対する関心が高まる可能性がある。車載用半導体メーカーの株が21年夏に物色されたので、次の物色は半導体の部材や検査といった周辺の銘柄に向かいそうだ」

横山さんはこう話し、大規模集積回路(LSI)の設計や半導体検査装置の開発・製造を手掛けるシキノハイテックと、光学分野における酸化物単結晶や光部品、レーザー光源、計測装置などの開発や製造、販売を手掛けるオキサイドを有望株に挙げる。また、脱炭素や原油高を背景に再エネ関連の銘柄にも物色の矛先が向かう可能性があるとも指摘。前出のテスホールディングスを有望視する。

さらに人気化しそうなテーマとして、リユース・リサイクル、SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)、フィンテックを挙げる。リユース・リサイクル関連銘柄では、地元で情報を探す人と情報を発信したい人をマッチングさせる掲示板を運営するジモティーを有望視する。「利用者としてジモティーのサービスが拡大していることを実感した」(横山さん)

中長期で大化けする銘柄も

また、IPO銘柄の中には中長期で大きく値上がりする銘柄がある。「大化けを期待する銘柄は直近にIPOした銘柄から選んでいる」。200超の銘柄に分散投資して数億円を運用する40代の専業投資家、DAIBOUCHOUさん(ハンドルネーム)はこう話す。

IPO銘柄の多くは、IPOからしばらくの間は投資家の関心が薄れて買いが集まらず、売りばかりがかさんで下落し、公開価格を大きく下回る価格で低迷する傾向がある。だが、上場後も業績を伸ばす企業の株は、既存株主の売りが収まると、決算を好感した投資家の買いが集まって再び上昇する。その中から、業績の拡大に伴って株価が大きく上昇する銘柄が出る。

こうした大化けを狙って、DAIBOUCHOUさんはSTIフードホールディングスメイホーホールディングスなど複数の銘柄を既に購入した。STIフードホールディングスは、総合食品会社の極洋の持ち分法適用関連会社。焼き魚などの総菜や水産食品をコンビニエンスストアなどの小売りチェーンに販売している。同社が販売先の拡大に注力している点に注目した。

メイホーホールディングスは、東海地方を地盤に建設コンサルティング業務などを展開している。同業他社のM&A(合併・買収)を積極的に推進して業容を拡大している点に、DAIBOUCHOUさんは期待を寄せている。

(中野目純一)

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