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相場をつくる株の売買動向 スゴ腕個人はこう読み解く

投資部門別売買状況から見える日本株市場の実態

東京証券取引所が毎週発表している投資部門別の売買状況。日本株市場の取引の6割を占める海外投資家の売買動向などが分かり、プロや腕利きの個人投資家が注視しているデータだ。政権交代で海外投資家の反応が注目される中、このデータを分析する重要性が増している。スゴ腕の個人投資家に売買状況の見方や株式投資での活用法を取材した。

「毎週欠かさずチェックしている」――。株式評論家として活躍するこころトレード研究所所長の坂本慎太郎さん。「Bコミ」というハンドルネームを持つスゴ腕の個人投資家でもある坂本さんがこう指摘する株取引の統計データがある。東京証券取引所が毎週木曜日に公表している投資部門別の売買状況だ。

個人や金融機関など投資家ごとの売買動向をまとめたもので、どの投資家が売り手と買い手に回っているのかが分かる。そのため、株式投資のプロやスゴ腕の個人投資家がフォローしている。

3つのプレーヤーの動きをフォロー

「いくつもある投資部門の中でチェックするのは海外投資家、個人、信託銀行の3つでいい」と坂本さんは指摘する。海外投資家は、海外に在住していて日本の株式市場で売買を行っている個人や金融機関、機関投資家などだ。

海外投資家の動向に注目するのは、彼らが日本株市場のメインプレーヤーであるからにほかならない。日本株の売買に占める海外投資家の比率(金額ベース)は1996年までは2割を下回っていたが、年を追うごとに増加。2011年に50%を超え、15年以降は60%前後で推移している。

一方、信託銀行をフォローするのは、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)などの年金基金の取引を受託していて、その売買動向を反映しているからだ。

「3つのプレーヤーの売買にはそれぞれ特徴がある」と坂本さんは語る。「全体相場のトレンドを形成しているのはメインプレーヤーの海外投資家。彼らが買い越せば相場は上昇し、売り越せば下落する。上昇相場が続けば株を買い増していく。順張り投資である点も海外投資家の特色だ」(坂本さん)

これに対して個人は相場が下落したら買いに動き、上昇したら売る逆張りが主流。年金は、時価評価で株と債券の保有比率を一定に保つことをルールにしていることが多い。GPIFの場合、日本株の比率は全体の25%と定めている。全体相場が上昇して日本株の比率が高まると保有株を売却し、比率を25%に引き下げようとする。逆に全体相場が下がって日本株の比率が下がれば、株を買い増す。相場の下落局面では買い支え役になり、上昇局面では上値を抑える役回りになる傾向がある。

ここで大きな流れを見ておこう。下の2つのグラフは、海外投資家、個人、信託銀行の12年以降の売買動向をまとめたものだ。まず13年に海外投資家が大きく買い越し、個人と信託銀行が売り越しているのが目に入るだろう。13年は、12年12月の第2次安倍晋三内閣の発足で始まったアベノミクス相場の実質1年目。政権交代で全体相場が上向き始めたのを見て個人と年金が保有株の売却に走り、売りに出された株を海外投資家が買い集めた格好だ。

14年以降は海外投資家と個人は売り越しが多く、信託銀行は買い越しが多い。アベノミクス相場で株価が上昇する中、海外投資家と個人が売り手に回って利益を確定し、年金が全体相場の上昇で株価が割高になっても購入を続け、売られた株の受け皿になってきたという構図が見て取れる。

今年は打って変わって海外投資家が買い越しに転じ、信託銀行が大きく売り越している。13年に近い構図になっており、相場の大きな転換点になっている可能性もある。「海外投資家が2000億円以上の買い越しを4週続けると、2カ月以上にわたって買い続ける相場になる傾向がある」と坂本さんは話す。

海外投資家は、菅義偉前首相が辞意を表明した9月第1週(8月30日~9月3日)から2週続けて3000億円超を買い越し、政権交代で日本株を見直す兆しと期待されたが、9月第3週(13~17日)以降は2週連続の売り越しになった。岸田文雄政権の発足に対して海外投資家はどう反応するのか。今後の売買状況が注目される。

日本株を左右する海外投資家の正体

「海外投資家というと、ウォールストリートがある米国の投資家が多いと思われがちだが実は違う。最も多いのは欧州の投資家だ」と坂本さんは強調する。海外投資家の地域別の内訳を見ると、14年以降に欧州の投資家の比率が高まる半面、北米の投資家の比率は下落。足元では欧州の比率が7割を超え、北米は1割を切っている。また、欧州の投資家は他の地域の投資家と異なる売買をすることも多い。

海外投資家の売買データは、海外の証券会社を通じて実施された売買の数字だ。実際の資金の出し手まで分からない。そこで、企業の実質的な株主を調査するサービスを手掛け、東証1部に上場する企業の6割を顧客にしているアイ・アールジャパンに取材し、欧州の証券会社を使って日本株を売買しているのはどんな投資家が多いのかを聞いた。

同社リサーチ部の中村拓海本部長は「欧州の証券会社の売買のうち、フランスやスイスなどの欧州大陸の機関投資家の売買が占める割合(金額ベース)は低い。売買の金額が多いのは、日本株の現物と先物のうち、割高な方を売って割安な方を買うことで差益を手にする裁定取引だ。これは欧州の証券会社が自己資金で手掛けている」と語る。

欧州の証券会社が現物と先物の裁定取引を積極的に手掛けていることもあって、海外投資家による先物の売買は拡大。ここ数年は金額ベースで現物の売買の2~3倍の規模に膨らんでいる。その結果、海外投資家の現物の売買よりも先物の売買が短期的に日本株相場を動かす主因になっている。

【先物と裁定取引の仕組みが分かる関連記事】

坂本さんも現物の売買だけでなく先物の売買にも目を配る。「先物は種類に応じて公表されているデータの単位が1000円単位、100円単位、1円単位に分かれていて、合計値を出すのが面倒。それでも毎週、自分で計算している」と坂本さん。

「投資部門別の売買状況はあくまで過去のデータ。直近の相場でどのプレーヤーの売りと買いが多いのかは分かるが、それが継続するかどうかは予測できない。ただし、日経平均の構成銘柄の平均EPS(1株当たり純利益)が改善していて、海外投資家の買いが続いていれば、上昇相場の継続を期待できる」(坂本さん)

テクニカルアナリストで自分でも株の短期売買を手掛けている横山利香さんも、投資部門別の売買状況を定期的にチェックしている。「個人の売買は信用取引の残高や信用評価損益率と合わせて見て、個人の売りと買いの勢いを判断している」と話し、次のように続ける。

「海外投資家は自国の通貨建てで日本株の損益を見ている。日経平均が下がっていても、円高に振れて外貨建ての日経平均が上昇すれば差益が生じる。そうした状況では買ってくることがある」

海外投資家が見ている風景を理解するために、ユーロ建てやドル建ての日経平均の動きと海外投資家の売買状況を合わせて見る。こうした横山さんの姿勢と工夫も多くの個人投資家にとって参考になるだろう。

(中野目純一)

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