部下集団退職から返り咲き 性別超えてすし次世代へ
千津井由貴・次世代寿司協会代表 (折れないキャリア)
すし業界で数少ない女性職人の一人。高齢化が進むすし業界で、「性別や国籍に関係なくすし文化を次世代につなぎたい」との思いを抱く。若手職人と危機感を共有して2020年に「次世代寿司協会」を立ち上げた。すし作り講座や店舗運営などを外国人や若者、女性に広める活動を担う。
女性だけのすし店「なでしこ寿司」(東京・千代田)で店長と副社長を務め、板前として腕をふるった。美術大を卒業し、百貨店勤務後にすし職人を志した異色な経歴を背景に、女人禁制ともいわれた世界で新たなすし文化を模索してきた。
すしの世界に飛び込んだのは学生時代。美大で学んだテキスタイル(染織物)デザインを華やかなすし作りにも生かせると考え、すし店でアルバイトをした。百貨店に入社したが、すしへの情熱を忘れられず、「女性がすしを握る店」として知られていたなでしこ寿司に転職。だが魚の解体などの裏方は男性社員が担っていた。
「すし店を女性だけで回せると証明したい」。信念と頑張りが評価され、入社から3年で店長に抜てきされた。しかし経験の浅さを理由に、男性板前だけでなく女性社員すら「言うことなんか聞けない」と次々辞職。アルバイトや新人だけが残った。

スタッフには指示さえすればいいと考えていたが、間違っていたことに気づいた。「もっと真剣に社員と向き合おう」。女性の部下は出産・育児や介護などそれぞれ事情を抱える。一般的なすし店のように上下関係や年功序列で役割を決めれば立ちゆかない。ささいな不満や意見にも耳を傾け、チームで店の方向性を決めるようにした。裏方の業務から接客まで見直し、14年には女性だけで運営できる店となった。
だが新型コロナウイルス禍で20年以降、実店舗は売り上げが激減し苦境に陥った。かたやリモートワークの広がりを見て、場所に縛られない新たな可能性を感じた。「店は解散し、次のステップに行くときかも」。副社長の地位にあったが、店のオーナーである社長とも話し合い、22年12月に店を閉じた。今はイベントなどに出張してすしを握る。板前としての腕を磨きつつ、協会を通じて外国人や女性、子どもに豊かなすし文化を伝えている。
(聞き手は田中早紀)
[日本経済新聞朝刊2023年1月30日付]
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